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いそがし私の東奔西走編

第68話 テレビの向こうに異世界伝説

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 小さいダンジョンとは言え、広さ的には小学校の体育館くらいになる。
 それが間取りで仕切られていて、床にたくさんモノが落ちている。
 服とか、ゴミとか、食器とか。

「きたなーい」

※『大体、怪奇スポット化する家って汚いもんな』『中の人が不本意に死んだ後だから片付けられてないんだろ』『誰の持ち物になってるんだろうなあ』

 コメント欄をふんふん言って眺めつつ、モノで溢れたダンジョンを蹴飛ばしながら突き進む。

※『たくましい』『立派になったなあ』

 どうもどうも。

※『図太くなったのかも知れん』

「な、なにぃ~。で、出禁です出禁」

※『はづきっち、キレた!』『リスナーとのプロレスの腕も上がってきておる』 

 和気あいあいとダンジョンを突き進む。
 あちこちから鳴り響く、テレビの大音量。
 これは日傘を向けると、ピカッと照らされてパッタリ止む。

 日傘で音を防げるとか、不思議……。

※もんじゃ『おそらく、デーモンの攻撃なのでは? 昨日個人勢が撃退されたというのは、アーカイブを見るにこの音にやられたようだ。殺傷能力は低いがじわじわと敵を弱らせるようだな』『長い長い』『長文投稿するな』『目が滑る~』

 なるほどー。
 じゃあ結果的に、私は攻撃を防ぎながら進んでるわけだ。

 モノを掻き分けて部屋の一番奥へ。
 閉ざされたカーテンを日傘でペシッと叩くと……。

『ウボアー』

 カーテンが叫び声を上げながら溶け崩れていった。

※『フロアイミテーターじゃん!』『トラップ化したモンスターを当たり前みたいに安全に排除するな……』『はづきっちに罠は通じない……』

「や、あの、カーテンが汚いかなと思ったので」

 窓の向こうには何もない。
 真っ暗闇だ。

 ダンジョンって外見とは全然違う広さを持っているけど、実はこの世界には存在してない?
 どこにあるんだろう。

 気になる。

 窓に鍵はかかってなかったので、傘で引っ掛けて開けた。
 外に日傘を伸ばしたら、すぐ闇にぶつかった。

 これ、闇じゃなくて壁だ!
 ダンジョンの内壁だったかあ。

※『なんか貴重なデータみたいなのがどんどん出てきてない?』『普通ダンジョンでこういう意味のない行動しないからな……』『迷宮省ははづきっちのアーカイブ見て研究してるのかも知れん』

 今日のお前らは真面目な事を言うなあ。
 壁の外をつつくのに飽きて、私は窓を閉める。
 次の部屋へ向かうのだ。

 このダンジョン、一見してモンスターはいないっぽいけど……。
 カーテンやゴミ箱はイミテーターという擬態モンスターだし、どこに行ってもテレビの音が聞こえてくる。

 常に攻撃を仕掛けられている場所、みたいなものなのかも。

「とんでもないダンジョンだなあ……。あ、お弁当食べます……」

※『ダンジョンの廊下に座って!?』『攻撃されてる最中ぞ』『ソロで探索してて弁当箱広げる人初めて見たわ』『心が強い』

 お腹が空いたのだから仕方ない。
 私は母の詰めてくれたおかずをもりもり食べ、白米をむしゃむしゃ食べた。
 水筒に入った麦茶をぐびぐび飲む。

 その間にも、私が被っている日傘にガンガン何かが当たり、『ウボアー』と溶けていく声がする。

※『日傘が結界になってるじゃん』『鉄壁の盾にして矛でもあるんだな』『まさに矛盾』『いやー、はづきっちの矛はゴボウだからゴボウ一強でしょ』

「ごちそうさまでした。あ、今日はゴボウ持ってきてません。品薄で……」

※『メインウェポンを持ってこないまさかの舐めプ!』『この女余裕である』

 違う違う!?
 ゴボウがあちこちで売り切れてて、本当に品薄なのだ。

※『あ、じゃあうちの畑のゴボウを提供しますよ』

「えっ!」

※『うち、ゴボウ農家なんで……』『提供者きたー!!』『スポンサーじゃん』

「そ、それありがたいです! えっと、兄に連絡しておきますね」

※斑鳩『把握した。これからアポを取りに行きます』『はっや』『迅速すぎだろ斑鳩』『できる男すぎる』

 話が速くて助かるなあ……。
 こっちはこっちで話が進みつつ、ダンジョンも佳境だ。

 というか部屋数が二つしかない。
 平屋だし、あとはトイレとお風呂しかないし。

 奥の部屋には、どこまでも続くんじゃないかってくらい大きな布団が敷かれていた。
 布団の遥か彼方、ダンジョンの隅っこにテレビが設置されている。

 テレビからは、ずっとバラエティ番組やドラマの音がぐちゃぐちゃに混じって響いていた。
 だけどテレビに映っているのは番組じゃない。

 見たことのある世界だった。

 槍の穂先みたいな山々と、どこまでも続く森、空を飛び回る大きなトカゲみたいな生き物。

 異世界だ。

「ほえー……」

 もっとよく見てみようと思って近づく私。
 なかなか、まじまじと見る機会は無いもんね。

 テレビの奥の異世界から、風が吹いてきていた。
 繋がっているのだ。

 このダンジョンと、ここじゃない異世界が繋がってる。
 ちょっと突いてみよう、なんて思いながら布団の上を歩いていく……。

『オォォォォォォォ……! わしを捨てた世間が憎い……憎いぃぃぃぃぃぃ』

「ちょっと静かにしてもらっていいですか」

 ペシッ。

『ウグワーッ!! か、体が消える! 崩れるぅ……!』

※『あっ』『はづきっちそいつボスのデーモン……!』『ついでで粉砕してて笑った』『よそ見しながらクリアしてる』『すげえ舐めプ』

「えっえっ、ちょっと待って!? すぐ死なないで~! あの異世界について教えてー! あれなに? なにー!」

『消えるのはいやだあああああ! せっかくあの御方から力をもらったのに、よそ見してる小娘に日傘で打たれて消えるのはあんまりだああああああ』

※『確かに』『ぐうの音も出ない』『怨霊の尊厳問題』

 デーモンはなんか絶望しながらスッと消えてしまった。
 ダンジョンが元の小さい家に戻る。

 あー、クリアしてしまった。
 足元に落ちたダンジョンコアは、フンババよりもちょっとちっちゃいものだった。

 あんまり強くなかったんだね。

「儚い生き物……」

※『地上最強の生物みたいなコト言い始めたぞ』『はづきっち、君は強くなりすぎた』『さっさとダンジョン出て千葉の名物レポートしろ』『落花生食べろ』

「そうだね……! じゃあこれから千葉観光して来ます!」

 私のダンジョン配信は一時間ほどで終わりを告げ、千葉県観光配信に切り替わるのだった。
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