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【番外編】全てを失った愛人の奮闘 ~悪事は全部かえって来て、愛しの侯爵に捨てられる~ 5-5
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ジョンに、店でも家でもいいようにこき使われてるのに、自分の見た目の事まで、気が回る訳あるかっての。
あんなに働いて、ただ働きじゃ、石鹸もクリームも買えないっての!
何が「話題の石鹸やクリームを使えば少しは、綺麗になるんじゃないか」って。馬鹿にすんじゃないわよ。あたしだって、欲しいわよ。お金があれば、買ってるんだって。
我がままばかり言う自分の子どもに振り回されて、こんな貧相な顔してちゃ、良い男が捕まる訳ないじゃない。誰かお金をちょうだいよ。
大人の誰か、あたしの事を必要としてよ。こんな、子どもに必要とされても嬉しくないのよ。
もう、こんな可愛くない子が、いったい何歳になったのかなんて、興味も無いわよ。
こいつのせいで、今、行く当ても無く歩き回ってるんだから。
それなのに…………その目つき。
「何なのよ! あんたが自分勝手な事ばっかりするから、ジョンの家から追い出されたのに。なんて顔してるのよ! その冴えない顔どうにかならないの。いつも言ってるでしょ、その、ぬぼ~っと口を開いたままでいるの、不愉快だって」
兄貴には、まるで家政婦のように使われ、兄貴の奥さんからは厄介者のあたしたちは、意地悪ばかりされてた。
それでも、行く当てがないから、2人のいびりにも我慢を続けて、なんとか暮らしてたのに。
「あんたが全部台無しにしたのよ、反省して」
このケビンの顔を見てると、あの気持ち悪い料理長を思い出してしょうがない。もう、ずっと纏わりついて離れない、あの言葉。あの感覚。あいつの涎の匂い。
「なんであんたは、あたしの一番嫌いな男にそっくりなのよ!」
憎らしさしかない、ケビンを叩こうと、手を振り上げた。その時。
「おい、子どもに手を上げるとは、随分乱暴な母親だな。侯爵家の施しが目当て何だろうけど、僕の家の前で大声で叫ぶのは止めてくれない。僕の母は、そういう乱暴な事が苦手なんだ。もし、あんたの声が母に聞こえていたら、どうしてくれるんだ」
「うっ嘘、ケビン様……」
「はっ、なぜ僕の名前を知ってるのか知らないけど、僕は、あんたに名前を呼ぶ許可を与えていない。僕が誰か分かってるのなら、気安く名前で呼べないことくらい分かるだろう」
「あっ、申し訳ありませんでした……」
「時々いるんだ、母がやっている慈善事業のことを勘違いして、この邸へ来る者が。どうせ、住む家のない者へ行っている、母の施しを受けに来たのだろう。それは、ここではなく、教会でやっている。こんな所で文句を言ってないで、その子と一緒にそっちへ行ってくれ」
「教会……」
「そう教会。子どものための慈善事業だ。あんたが手を上げようとしていたその子と一緒にいけば、それなりに快適な生活を送れるはずだ」
『ケビン、どこへ行ったの?』
遠くから、聞き覚えのある女の声。確かアベリアって名前だったはず。
「あっ、母が僕を探してる。あっそれと、あんた無意識に、今、酷い顔で邸の中を睨んでるぞ。そのあんたの顔を、母には甘すぎる父が、あの窓からずっと見ているから、気をつけた方がいい。早く、立ち去りな」
そう言って、あたしの想い出の中にいる、ケビン様とよく似た少年が、颯爽と走っていなくなった。
「あはははははっ――――」
あの女、邸へ戻って来たあの時には、ケビン様の子を宿していたのね。
だからケビン様は、あたしが妊娠したってわかっても、喜ばなかったんだ。
奥さんとの晩餐を楽しみにして、奥さんの妊娠を気遣って。
結局、あたしだけに向けてくれていた愛情は嘘で、どうでもいい客人だったわけだ。わざわざ、領地まで行くほど、奥さんの事を愛してたんだ。
本物は、あんなにケビン様にそっくりだって、知らしめたってこと。
ケビン様には似ても似つかない、あたしの目の前にいる子。
もう、分かり切ってたわよ。
あの女へ毒を仕掛けるために、料理長を誘惑した時。あまりのしつこさに、最後に自分から強請った、あのたった1回。あたしにこの子が宿ったのは、あの時だって。
もう、何年も触れないようにしていたこの気持ち。
1度認めちゃったら、滝のように溢れる涙を、止められるわけないじゃない。
だから、この事実から逃げてたんだから。
見た目も、仕草もあの料理長にそっくりな子。やっぱりそうだって、認めるしかないじゃなぁいっ。
「ママ、何で狂ったように笑ってたかと思えば、号泣してるのか知らないけど、僕は教会へ行くから。ママもそこで暮らしたいなら、僕についてきたら」
「――今、ゴミを捨てたら行くから、先に向かってなさい、ヒック」
目を見て話すことさえ拒絶してしまうほど憎い我が子。あの子は、そう言われて、あたしの事を気にする事も無く、スタスタと1人で歩き始めた。
あたしの胸にしまい込んでいた、売れなかった宝石。
それをぐいぐいっと引っ張り出した。
今はもう、少しの躊躇いもない。
あたしは、それをめいっぱいの力を込めて、侯爵家の前の地面に叩きつけた。
開いた袋の口から、割れたガラスが、キラキラと輝きながら飛び散っていた。
騙されていたとも知らず、愛の無かった男の名前を、大嫌いな男の子どもにつけた。
それなのに…………。その子を追いかけ、縋るしか今を生きる道がない。
あたしは、どこで道を間違ったんだろう。
「ケビン、待って。置いてかないで……」
FIN
****
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
また、違う作品でも、読者の皆様とつながれることを願っています。
そのためにも、今後、さらに精進しますので、応援よろしくお願いします。
タイトルロゴを提供いただきました、まちゃ様 本当にありがとうございます。(#まちゃ作 #まちゃロゴ)
あんなに働いて、ただ働きじゃ、石鹸もクリームも買えないっての!
何が「話題の石鹸やクリームを使えば少しは、綺麗になるんじゃないか」って。馬鹿にすんじゃないわよ。あたしだって、欲しいわよ。お金があれば、買ってるんだって。
我がままばかり言う自分の子どもに振り回されて、こんな貧相な顔してちゃ、良い男が捕まる訳ないじゃない。誰かお金をちょうだいよ。
大人の誰か、あたしの事を必要としてよ。こんな、子どもに必要とされても嬉しくないのよ。
もう、こんな可愛くない子が、いったい何歳になったのかなんて、興味も無いわよ。
こいつのせいで、今、行く当ても無く歩き回ってるんだから。
それなのに…………その目つき。
「何なのよ! あんたが自分勝手な事ばっかりするから、ジョンの家から追い出されたのに。なんて顔してるのよ! その冴えない顔どうにかならないの。いつも言ってるでしょ、その、ぬぼ~っと口を開いたままでいるの、不愉快だって」
兄貴には、まるで家政婦のように使われ、兄貴の奥さんからは厄介者のあたしたちは、意地悪ばかりされてた。
それでも、行く当てがないから、2人のいびりにも我慢を続けて、なんとか暮らしてたのに。
「あんたが全部台無しにしたのよ、反省して」
このケビンの顔を見てると、あの気持ち悪い料理長を思い出してしょうがない。もう、ずっと纏わりついて離れない、あの言葉。あの感覚。あいつの涎の匂い。
「なんであんたは、あたしの一番嫌いな男にそっくりなのよ!」
憎らしさしかない、ケビンを叩こうと、手を振り上げた。その時。
「おい、子どもに手を上げるとは、随分乱暴な母親だな。侯爵家の施しが目当て何だろうけど、僕の家の前で大声で叫ぶのは止めてくれない。僕の母は、そういう乱暴な事が苦手なんだ。もし、あんたの声が母に聞こえていたら、どうしてくれるんだ」
「うっ嘘、ケビン様……」
「はっ、なぜ僕の名前を知ってるのか知らないけど、僕は、あんたに名前を呼ぶ許可を与えていない。僕が誰か分かってるのなら、気安く名前で呼べないことくらい分かるだろう」
「あっ、申し訳ありませんでした……」
「時々いるんだ、母がやっている慈善事業のことを勘違いして、この邸へ来る者が。どうせ、住む家のない者へ行っている、母の施しを受けに来たのだろう。それは、ここではなく、教会でやっている。こんな所で文句を言ってないで、その子と一緒にそっちへ行ってくれ」
「教会……」
「そう教会。子どものための慈善事業だ。あんたが手を上げようとしていたその子と一緒にいけば、それなりに快適な生活を送れるはずだ」
『ケビン、どこへ行ったの?』
遠くから、聞き覚えのある女の声。確かアベリアって名前だったはず。
「あっ、母が僕を探してる。あっそれと、あんた無意識に、今、酷い顔で邸の中を睨んでるぞ。そのあんたの顔を、母には甘すぎる父が、あの窓からずっと見ているから、気をつけた方がいい。早く、立ち去りな」
そう言って、あたしの想い出の中にいる、ケビン様とよく似た少年が、颯爽と走っていなくなった。
「あはははははっ――――」
あの女、邸へ戻って来たあの時には、ケビン様の子を宿していたのね。
だからケビン様は、あたしが妊娠したってわかっても、喜ばなかったんだ。
奥さんとの晩餐を楽しみにして、奥さんの妊娠を気遣って。
結局、あたしだけに向けてくれていた愛情は嘘で、どうでもいい客人だったわけだ。わざわざ、領地まで行くほど、奥さんの事を愛してたんだ。
本物は、あんなにケビン様にそっくりだって、知らしめたってこと。
ケビン様には似ても似つかない、あたしの目の前にいる子。
もう、分かり切ってたわよ。
あの女へ毒を仕掛けるために、料理長を誘惑した時。あまりのしつこさに、最後に自分から強請った、あのたった1回。あたしにこの子が宿ったのは、あの時だって。
もう、何年も触れないようにしていたこの気持ち。
1度認めちゃったら、滝のように溢れる涙を、止められるわけないじゃない。
だから、この事実から逃げてたんだから。
見た目も、仕草もあの料理長にそっくりな子。やっぱりそうだって、認めるしかないじゃなぁいっ。
「ママ、何で狂ったように笑ってたかと思えば、号泣してるのか知らないけど、僕は教会へ行くから。ママもそこで暮らしたいなら、僕についてきたら」
「――今、ゴミを捨てたら行くから、先に向かってなさい、ヒック」
目を見て話すことさえ拒絶してしまうほど憎い我が子。あの子は、そう言われて、あたしの事を気にする事も無く、スタスタと1人で歩き始めた。
あたしの胸にしまい込んでいた、売れなかった宝石。
それをぐいぐいっと引っ張り出した。
今はもう、少しの躊躇いもない。
あたしは、それをめいっぱいの力を込めて、侯爵家の前の地面に叩きつけた。
開いた袋の口から、割れたガラスが、キラキラと輝きながら飛び散っていた。
騙されていたとも知らず、愛の無かった男の名前を、大嫌いな男の子どもにつけた。
それなのに…………。その子を追いかけ、縋るしか今を生きる道がない。
あたしは、どこで道を間違ったんだろう。
「ケビン、待って。置いてかないで……」
FIN
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最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
また、違う作品でも、読者の皆様とつながれることを願っています。
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タイトルロゴを提供いただきました、まちゃ様 本当にありがとうございます。(#まちゃ作 #まちゃロゴ)
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ネズミのお仕置きまで楽しく読まさせいただきました!
大変お疲れ様でございましたm(_ _)m
また新しい作品を楽しみにしております
NOGAMI 様
読了頂き大変嬉しいです。
そして、喜ばしいご感想を届けて頂き、ありがとうございます。
楽しく読ませていただきました!
もし宜しければ、ぜひネズミをみつけてお仕置きをお願いします💕
とても嬉しいご感想を、ありがとうございます😊
ネズミのお仕置きをご希望ですね!
ご要望しっかり受け取りました。
引き続きよろしくお願いします。
楽しく拝見しています。最終話たのしみにしてます!
大変嬉しいご感想、ありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。