箱庭の空をあげる

ゆるふわ畜生

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3.箱庭

28*.実験

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 のことは、エットもノルも嫌っていた。ツンと鼻を突く消毒液の匂い、ガラス越しに不気味に光る端末画面。白を基調とした空間は清潔感に満ちているのに無機質で、どこか非情な雰囲気さえ漂わせていた。なにより、そこで行われることのいずれもが、例外なくふたりにとって苦痛をもたらすものだったからだ。

「……っ、うあ……、っ」

「ッ、ふ……っ」

 ぱちゅ、ぐちゅ、と皮膚同士がぶつかり合う音と共に、濁った水音が辺りに響く。その音を拾ってか、エットの耳がぴくぴくとひっきりなしに動いている。こんな音、聞かせたくない――そう思ったノルがエットの耳をやわく食んだが、逆効果だった。突然外から刺激を咥えられたことによってエットの膣がきゅうと締まり、柔らかな粘膜に包まれた性器を刺激されたノルは、思わず呻き声を上げた。

「……ぐ、……ッ⁉」

「あっ、ん……あ、……のる……っ」

 どろりと融けたアイスクリームのように甘く、熱っぽい声で名を呼ばれて、ノルはエットのうなじを噛みながら静かに射精した。

 エットとノルがいるのは白く、広い部屋だった。数十メートル四方を壁に囲まれた空間はガラスで二つに分かたれており、片方の空間には白衣を着た研究者たちが詰めており、ガラス越しに実験体を観察する者、計器やモニターの数値をチェックする者、研究員同士で情報共有を行う者と役割が別れている。そしてもう片方の空間には簡素な寝台が置かれ、その傍には実験体たるエットとノルが今まさに、交尾という名の『実験』を行わされていた。ガラスの向こう側にいる研究員たちからよく見える位置に置かれた寝台は、『実験』が、そしてそれを行うふたりを研究者らがただの実験体としか見なしていないことを生々しく示していた。

 この施設で『保護』されている猫獣人には役割がある。それが、この『実験』だった。繁殖力が低く、数の少ない猫獣人――しかも番関係を結んでいる個体は非常に珍しい。エットとノルは、この施設へ身を寄せてからというもの、研究者たちに言われるがまま、この非人道的な実験へ身を捧げていた。しかし、成果が出たかと言えばそうではなかった。ふたりにとっては幸か不幸か、エットとノルの間で子供ができることはなかった。

「ん、あっ……う……」

「……、……エット、平気か」

「ん……だいじょうぶ、だ」

 猫獣人は猫をルーツとするため、雌側の排卵は交尾時の物理的な刺激――つまり『痛み』を伴うことで誘発される。雄型猫獣人の性器の先端は棘のような突起があり、射精後にそれが胎内を刺激することによって排卵を促すが、ノルは一度としてエットが痛がるような行動を取ったことはなかった。今も、慎重に性器を引き抜き、ぺろぺろと労るようにエットのうなじを舐めるばかりだ。

『おい、対象Xの様子はどうだ』

『前回と同じです。排卵は確認できません』

 部屋中に埋め込まれた機械から、今回も望む結果が得られなかったことを察したのだろう。ベッドへくったりともたれかかるエットと、そんなエットを労るノルに対して苦々しく顔を歪めた主任研究員は、冷徹とも言える判断をした。

『興奮剤を投与しろ。特に対象Yに対しては念入りにな』

『了解。興奮剤、投与開始』

 研究員の機械的な言葉の後、エットのノルのふたりの首に付けられた機械製の首輪がチカチカと点灯を繰り返した。やがてパシュ、という軽い音とともに、二人の体内へ冷たい薬液が流れ込む。

「っ……!」

「う、っ……ぐ……」

 エットもノルも、突如全身を襲う熱に声にならない声を漏らした。血の巡りが速くなり、皮膚の下がざわめくような感覚に、エットもノルも、がくがくと身体を震わせる。荒い呼吸をしながらエットがなんとかノルの方へと顔を向けると、ノルは簡素なシーツへ、それが裂けんばかりに爪を立てていた。

「ノル、……!」

「……平気だ。大したことじゃない」

 嘘だ。そんなこと、すぐに分かった。ノルの状態はエットよりも酷かった。念入りに投与しろ、という言葉の通り、ノルは明らかに薬の影響を受けていた。耳が、尾が、全身の毛がぼうと逆立ち、エットを見つめる目には縦長の動向が走っていた。唸り声を上げる喉からは絶えず肉食獣のような低い呻き声が上がっている。それでも、ノルはエットに指一本触れなかった。ついに研究者が折れ、ふたりを解放したのは深夜にも差し掛かる頃で、苦々しい実験終了の音声が告げられた途端、ノルはその場へ倒れ込んでしまった。
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