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恋模様はヘキサゴン!

side.恋

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揚羽みつに出会ってから私は常に乱されてばかりいた。

上位に立ったつもりが引きずりおろされ、仕掛けたと思えば仕掛けかえされる。
最初に感じた高揚感などすっかり消えさり、悔しさと苛立ちだけが募っていった。

いっこうに晴れないその感情に嫌気がしてきたとき、私は編入してきた直に会った。
それは揚羽みつと初めて会ったときと同じ状況で、私は直に口づけた。

あのときと同じでも、返ってきたのはあのときとは違う私の望んでいた反応。
その反応に私は安堵し、ほほえむ。

私には直がいる。
揚羽みつとは違う素直で純粋な直。

直がいれば、もう振りまわされずにすむ。

解放された清々しさを感じながら私は考えた。
揚羽みつにもう興味はないとどうやって知らしめるか。

結果、私は一番単純な方法を選んだ。
直を連れて揚羽みつの元に行き、態度と言葉で示すことを。

私は速やかにその計画を実行した。

「お前がこんなこと言うのはめずらしいな」
「すこし思うところがありまして」

なぜか一緒に食堂へ着いてきた帝に適当に返事をする。

今は貴方に構っている場合じゃないんです。

すこし後ろを着いてくる他の役員たちも同様だ。
私は帝たちを放置して直を探す。

そのとき、視界に顔を歪めて机に伏せる揚羽みつが映った。
大方、生徒達の叫び声に耳をやられたんでしょう。

揚羽みつの間抜けな姿を間近で見てからかいたい。
そう思った私は計画を揚羽みつへ屈辱を与えることに変更してそっと近づいた。

「ずいぶんと楽しそうでしたね」
「ふ、副会長…」

そう声をかけると、私に見られていたと気づいた揚羽みつは悔しそうに私を睨みかえしてきた。

あぁ、いい気分です。

「楽しそうじゃないだろ、恋」
「会長!」
「帝…」

せっかくいい気分だったのに邪魔が入る。
振りむけば、全員こちらに歩いてきていた。

着いてこなくてよかったのに…
これでは揚羽みつをいたぶれないじゃないですか。

揚羽みつと楽しげに話す帝に苛立ちを感じる。
しかし、つぎの一言ですべて水に流すことにした。

「恋がどうしても食堂で食べたいと言ってな。もうおわりが見えてきたし、みんなで来たんだ」
「副会長が?」

ナイスアシストです、帝!

怪訝そうな顔をして見てくる揚羽みつに、私は意味深げに答えた。
でもその途中、後ろに直がいることに気づく。

まさか揚羽みつと一緒にいるとは…
なんていう偶然でしょう!

私は笑顔を浮かべ、最初の計画を実行するべく直に声をかける。
揚羽みつなど、眼中にはないとでもいうように。

頃合いのいいところでチラリと視線を向けると、揚羽みつは顔をしかめてこちらを見ていた。

あぁ、いい顔です。
私はそういう顔が見たかった。

もっとその顔が見たい──

「おや? 変な顔してどうしたんですか、揚羽みつ」

私は言葉をつづける。

「いや、意外な趣味だなーと思いまして」
「いい趣味でしょう? 直は名前のとおり素直で純粋でやさしいいい子ですから」

返された言葉にそう言って、私は満たされていく心のままにほほ笑みを浮かべて揚羽みつを見つめる。

その顔に浮かぶのは明らかな不快感。
もう充分、興味はないと伝わったでしょう。

これで私は、元の私に戻れるんだ──





side恋 end.
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