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第一章 32歳~
21 アンビバレント 35歳
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とある夜。
向こうからぺたりぺたりと小さい足音が聞こえてきたので、紗栄子は母親との会話をやめた。
眠っていたはずの瑛が寝室から出てきた。珍しい。
「どうしたの?」
紗栄子が両手を広げると、瑛は、ばあばの方を振り返った。
「ばあば、僕ママとお話ししていい?」
「わかったわよ。」
ばあばの姿が小さい方の寝室に引っ込むと、瑛は紗栄子の太腿にまたがって抱きついてきた。大きくなったなあ、と紗栄子はしみじみする。
「どうしたの?」
「うん…。」
言い淀んでいるので、瑛がその気になるまで紗栄子は抱きしめたままでいる。時々背中を撫でて。
「あのね。」
「うん。」
「僕、大志くん大好き。ホントだよ。」
「うん。」
「お父さんになってくれるの、本当に嬉しい。」
「良かった。」
「…でもね、ママと仲良くしてるの見てると、ちょっと寂しくなっちゃうの。」
言いにくそうに、でも心からの言葉で瑛が言うので紗栄子の胸がつまる。
「大志くんとママがニコニコしてるとホントに嬉しいんだよ。ホントだよ。」
「うん。」
「でもモヤモヤしちゃって、それがイヤで、でも…。」
紗栄子は自分の首筋に瑛の顔をうずめさせるように、さらに深く彼を抱きしめる。
「そんな気持ちにさせてごめんね。」
「ママ悪くない。」
「いつも奏を優先させて我慢してくれてるもんね。」
「奏の方がオレよりちっちゃいもん。」
「瑛は偉いね。偉いから、ママ、甘えちゃってるね。」
「パパがいないんだから仕方ないよ。」
紗栄子は泣きながら笑った。結局瑛が相手では、どちらが慰めているのかわからなくなるのだ。
「ママの宝物は瑛と奏だから。ママが大志くんにデレデレしても、瑛と奏への気持ちとは全然違うの。」
「うん。わかってる。」
やっぱり蓮にそっくりな顔をして、瑛はニッコリと笑った。
※
紗栄子の報告を聞きながら、大志は白い腿を撫でている。
「子供達が結婚にオッケーしてくれたから、気が緩んでたわ、俺。多分前よりも紗栄子とのスキンシップが増えてたり、見つめあってニコニコしてたり、子供の前での空気が変わっちゃってたんだろうな。」
言いつつ、ちゅっと音を立ててキスをする。
「私もそうだよ。…特に瑛は、自分のこと“お兄ちゃんだから”って思って我慢してると思う。」
「紗栄子はあんまり“お兄ちゃんでしょ”とか言わなさそうだけどな。」
「私が“お兄ちゃんでしょ”って言いたいと思わないくらいに普段から瑛は聞き分けがいいのよ。そういう点では奏より気をつけてあげなきゃいけないのよね。」
大志の手のひらが優しく紗栄子の髪を撫でる。
「今日は随分消極的な態度だなあと思ったらそういうわけか。」
「…ごめんなさい。」
「俺と2人で会うからって、絶対こういうことしなきゃいけないわけじゃないし。…生理の日、会うの避けてるだろ。」
「それはやっぱり…。」
慌てて顔をあげた紗栄子の言葉は、頬が赤く染まって続かない。
「やっぱり?」
紗栄子が恥ずかしがっているとわかっていて、大志は続きを促す。
「私もそれなりに色々といたしたい所存でして。」
「誰なんだよ。」
仰々しい言葉遣いになった紗栄子の体を抱き寄せて、大志は背中を撫でる。
「もし子供達が結婚嫌だって言い出したらね?」
「うん。」
「私は子供達の気持ちを優先します。」
「迷いなくそうする紗栄子が好きだよ。」
「迷いが全くないわけではございません。」
「誰なんだよ、本当に…。まあ、あとは俺に身を任せてください。」
「はい…。」
大志はふくらみに手を置きながらキスをし、紗栄子は侵入してくる舌を受け入れながら小さく甘い吐息をもらした。
向こうからぺたりぺたりと小さい足音が聞こえてきたので、紗栄子は母親との会話をやめた。
眠っていたはずの瑛が寝室から出てきた。珍しい。
「どうしたの?」
紗栄子が両手を広げると、瑛は、ばあばの方を振り返った。
「ばあば、僕ママとお話ししていい?」
「わかったわよ。」
ばあばの姿が小さい方の寝室に引っ込むと、瑛は紗栄子の太腿にまたがって抱きついてきた。大きくなったなあ、と紗栄子はしみじみする。
「どうしたの?」
「うん…。」
言い淀んでいるので、瑛がその気になるまで紗栄子は抱きしめたままでいる。時々背中を撫でて。
「あのね。」
「うん。」
「僕、大志くん大好き。ホントだよ。」
「うん。」
「お父さんになってくれるの、本当に嬉しい。」
「良かった。」
「…でもね、ママと仲良くしてるの見てると、ちょっと寂しくなっちゃうの。」
言いにくそうに、でも心からの言葉で瑛が言うので紗栄子の胸がつまる。
「大志くんとママがニコニコしてるとホントに嬉しいんだよ。ホントだよ。」
「うん。」
「でもモヤモヤしちゃって、それがイヤで、でも…。」
紗栄子は自分の首筋に瑛の顔をうずめさせるように、さらに深く彼を抱きしめる。
「そんな気持ちにさせてごめんね。」
「ママ悪くない。」
「いつも奏を優先させて我慢してくれてるもんね。」
「奏の方がオレよりちっちゃいもん。」
「瑛は偉いね。偉いから、ママ、甘えちゃってるね。」
「パパがいないんだから仕方ないよ。」
紗栄子は泣きながら笑った。結局瑛が相手では、どちらが慰めているのかわからなくなるのだ。
「ママの宝物は瑛と奏だから。ママが大志くんにデレデレしても、瑛と奏への気持ちとは全然違うの。」
「うん。わかってる。」
やっぱり蓮にそっくりな顔をして、瑛はニッコリと笑った。
※
紗栄子の報告を聞きながら、大志は白い腿を撫でている。
「子供達が結婚にオッケーしてくれたから、気が緩んでたわ、俺。多分前よりも紗栄子とのスキンシップが増えてたり、見つめあってニコニコしてたり、子供の前での空気が変わっちゃってたんだろうな。」
言いつつ、ちゅっと音を立ててキスをする。
「私もそうだよ。…特に瑛は、自分のこと“お兄ちゃんだから”って思って我慢してると思う。」
「紗栄子はあんまり“お兄ちゃんでしょ”とか言わなさそうだけどな。」
「私が“お兄ちゃんでしょ”って言いたいと思わないくらいに普段から瑛は聞き分けがいいのよ。そういう点では奏より気をつけてあげなきゃいけないのよね。」
大志の手のひらが優しく紗栄子の髪を撫でる。
「今日は随分消極的な態度だなあと思ったらそういうわけか。」
「…ごめんなさい。」
「俺と2人で会うからって、絶対こういうことしなきゃいけないわけじゃないし。…生理の日、会うの避けてるだろ。」
「それはやっぱり…。」
慌てて顔をあげた紗栄子の言葉は、頬が赤く染まって続かない。
「やっぱり?」
紗栄子が恥ずかしがっているとわかっていて、大志は続きを促す。
「私もそれなりに色々といたしたい所存でして。」
「誰なんだよ。」
仰々しい言葉遣いになった紗栄子の体を抱き寄せて、大志は背中を撫でる。
「もし子供達が結婚嫌だって言い出したらね?」
「うん。」
「私は子供達の気持ちを優先します。」
「迷いなくそうする紗栄子が好きだよ。」
「迷いが全くないわけではございません。」
「誰なんだよ、本当に…。まあ、あとは俺に身を任せてください。」
「はい…。」
大志はふくらみに手を置きながらキスをし、紗栄子は侵入してくる舌を受け入れながら小さく甘い吐息をもらした。
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