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第二章 紗栄子・高1
23 冬季スポーツ大会
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月曜日の朝、紗栄子がにっこり笑って大志のもとに近寄ってきた。
「工藤くん、おはよう。」
「おはよ。練習試合見に来てくれてありがとな。」
「こちらこそお邪魔しました。」
ぺこりとお辞儀をする紗栄子が、大志には可愛い。
「全然邪魔じゃなかったよ。嬉しかった。」
「そう?よかった。試合ね、観ててすごくおもしろかった。工藤くん、走攻守どれも上手だね。」
「あー、まあ、練習きついけどやってておもしろいよ。褒めてくれてありがと。川原に褒められると嬉しい。」
「どういたしまして。あのね、それでね…。」
紗栄子が次から次へと野球のルールやプレーについての質問を繰り出す。考えながら、次々と大志が返答する。そのやりとりは異性間のドキドキするような甘やかさは皆無で、大志はがっかりするどころか嬉しくなった。紗栄子のスポーツに対する純粋な探求心が愛おしい。
「すげえな、川原。質問攻めじゃん。」
「島本くん、おはよう。島本くんもこの間は声かけてくれてありがとう。島本くんにも工藤くんにもいっぱい教えてもらえて、もっと野球がおもしろくなった。」
「そりゃよかった。また、見に行こうね。」
「うん!」
勲に場所を譲るように、紗栄子が自分の座席へ向かっていく。
「大志相手に媚びもせず、部活の話だけする女の子なんてなかなかいないだろ。」
「なあ。そこがすげえいい。相変わらず何とも言えない品の良さがあってさ。ますます惚れちゃうよな。」
大志は紗栄子の姿を目にとめたまま、ため息をつく。
品の良さ。その言葉が勲にもしっくりきた。特別な美人とは言い難い紗栄子の持つ、魅力。何とも言えない、ほど良い上品さというものが、紗栄子には確かにある。
「大志の心を弄んで、川原は本当に悪い女だなあ。」
「一見悪女感ゼロだからな。タチが悪い。」
※
11月になり、冬季校内スポーツ大会が開催されることになった。種目は、バスケ・バレー・卓球である。冬季は受験が迫ってきているので、3年生は自由参加という名の不参加である。紗栄子たち水泳部員は自分たちの部活動種目が夏季で終わってしまっているので、何かしらの種目に出なくてはならない。紗栄子は特別運動神経が良くも悪くもなく、クラスの中のバランスで卓球をやることになった。
「俺と島本、バスケになったから応援しに来てね。」
大志はストレートに紗栄子を誘ってくる。紗栄子はもちろん大志の下心になど気づいていない。
「工藤くん、バスケも上手そうだね。楽しみだね。水泳部の拓海や蓮もバスケなんだよ。対戦したらおもしろそう。」
「へー…。」
蓮の名前を聞いて、大志は闘争心に火が付いた。
※
またかよ、と蓮はため息をつきたい気分だった。冬季スポーツ大会。バスケットボール。初戦の相手が紗栄子や大志のクラスだ。ボールトスに蓮が出ると、向こうは大志が出てきた。卓球で自分の出番を終えた紗栄子が、クラスの応援のため会場に来ている。
「よう。」
「…どうも。」
ホイッスルとともにボールが上がり、蓮と大志は思い切りジャンプした。
蓮も大志も、バスケも得意で、スリーポイントを含めてシュートをばんばん決める。案の定蓮には勲のしつこいマークがつくので、かいくぐってのシュートはそれなりに大変だった。
紗栄子の目はハートマークに…などならず、それぞれのプレーを真剣に見て楽しんでいる。蓮も大志もそんな紗栄子の甘くない視線が嬉しくて、さらに張り切ることができた。僅差で大志達が勝利し、次の試合に駒を進めた。次の対戦相手は拓海のクラスで、こちらは僅差で拓海のクラスが勝利した。その試合も拓海と大志が大活躍で、紗栄子はやっぱり純粋にスポーツを楽しむ目で観戦していた。近くになぜか蓮がいて、大志は妬いてしまう。
「拓海も工藤もうまいなあ。」
「蓮も上手だったよ。島本くん、すごいマークだったね。」
「あいつ俺に恨みでもあんのかね?夏スポのサッカーの時もすごいマークだったし。」
「なんだろうね~。」
拓海のクラスは1年生ながら決勝に進出し、2年生のクラスとなかなかに渡り合った。観戦を続けている紗栄子の近くにさりげなく大志が座り、蓮の様子もうかがう。
「わあ、拓海、また決まった。滞空時間長いよねえ。」
「頑張りすぎて部活に影響しないといいな。」
「それは困る。でも、クラスのみんなのために頑張ってほしいな。」
蓮との会話には入りにくいが、紗栄子の言葉は聞いていて楽しいと大志は思う。
「このチームと競り合ったんだから、工藤くんたちもすごかったね。」
気を遣ったのか純粋な誉め言葉なのか、紗栄子が大志の方を振り返る。
「ありがと。青山もなかなかだったよ。」
「それはどうも。島本のマークがきつくて参ったよな。」
「ああ、あいつしつこいよな。」
結局拓海のクラスは準優勝に終わった。紗栄子や蓮、水泳部の仲間が集まって、拓海をねぎらっている。
もう、我慢できないな、と大志は思った。
「工藤くん、おはよう。」
「おはよ。練習試合見に来てくれてありがとな。」
「こちらこそお邪魔しました。」
ぺこりとお辞儀をする紗栄子が、大志には可愛い。
「全然邪魔じゃなかったよ。嬉しかった。」
「そう?よかった。試合ね、観ててすごくおもしろかった。工藤くん、走攻守どれも上手だね。」
「あー、まあ、練習きついけどやってておもしろいよ。褒めてくれてありがと。川原に褒められると嬉しい。」
「どういたしまして。あのね、それでね…。」
紗栄子が次から次へと野球のルールやプレーについての質問を繰り出す。考えながら、次々と大志が返答する。そのやりとりは異性間のドキドキするような甘やかさは皆無で、大志はがっかりするどころか嬉しくなった。紗栄子のスポーツに対する純粋な探求心が愛おしい。
「すげえな、川原。質問攻めじゃん。」
「島本くん、おはよう。島本くんもこの間は声かけてくれてありがとう。島本くんにも工藤くんにもいっぱい教えてもらえて、もっと野球がおもしろくなった。」
「そりゃよかった。また、見に行こうね。」
「うん!」
勲に場所を譲るように、紗栄子が自分の座席へ向かっていく。
「大志相手に媚びもせず、部活の話だけする女の子なんてなかなかいないだろ。」
「なあ。そこがすげえいい。相変わらず何とも言えない品の良さがあってさ。ますます惚れちゃうよな。」
大志は紗栄子の姿を目にとめたまま、ため息をつく。
品の良さ。その言葉が勲にもしっくりきた。特別な美人とは言い難い紗栄子の持つ、魅力。何とも言えない、ほど良い上品さというものが、紗栄子には確かにある。
「大志の心を弄んで、川原は本当に悪い女だなあ。」
「一見悪女感ゼロだからな。タチが悪い。」
※
11月になり、冬季校内スポーツ大会が開催されることになった。種目は、バスケ・バレー・卓球である。冬季は受験が迫ってきているので、3年生は自由参加という名の不参加である。紗栄子たち水泳部員は自分たちの部活動種目が夏季で終わってしまっているので、何かしらの種目に出なくてはならない。紗栄子は特別運動神経が良くも悪くもなく、クラスの中のバランスで卓球をやることになった。
「俺と島本、バスケになったから応援しに来てね。」
大志はストレートに紗栄子を誘ってくる。紗栄子はもちろん大志の下心になど気づいていない。
「工藤くん、バスケも上手そうだね。楽しみだね。水泳部の拓海や蓮もバスケなんだよ。対戦したらおもしろそう。」
「へー…。」
蓮の名前を聞いて、大志は闘争心に火が付いた。
※
またかよ、と蓮はため息をつきたい気分だった。冬季スポーツ大会。バスケットボール。初戦の相手が紗栄子や大志のクラスだ。ボールトスに蓮が出ると、向こうは大志が出てきた。卓球で自分の出番を終えた紗栄子が、クラスの応援のため会場に来ている。
「よう。」
「…どうも。」
ホイッスルとともにボールが上がり、蓮と大志は思い切りジャンプした。
蓮も大志も、バスケも得意で、スリーポイントを含めてシュートをばんばん決める。案の定蓮には勲のしつこいマークがつくので、かいくぐってのシュートはそれなりに大変だった。
紗栄子の目はハートマークに…などならず、それぞれのプレーを真剣に見て楽しんでいる。蓮も大志もそんな紗栄子の甘くない視線が嬉しくて、さらに張り切ることができた。僅差で大志達が勝利し、次の試合に駒を進めた。次の対戦相手は拓海のクラスで、こちらは僅差で拓海のクラスが勝利した。その試合も拓海と大志が大活躍で、紗栄子はやっぱり純粋にスポーツを楽しむ目で観戦していた。近くになぜか蓮がいて、大志は妬いてしまう。
「拓海も工藤もうまいなあ。」
「蓮も上手だったよ。島本くん、すごいマークだったね。」
「あいつ俺に恨みでもあんのかね?夏スポのサッカーの時もすごいマークだったし。」
「なんだろうね~。」
拓海のクラスは1年生ながら決勝に進出し、2年生のクラスとなかなかに渡り合った。観戦を続けている紗栄子の近くにさりげなく大志が座り、蓮の様子もうかがう。
「わあ、拓海、また決まった。滞空時間長いよねえ。」
「頑張りすぎて部活に影響しないといいな。」
「それは困る。でも、クラスのみんなのために頑張ってほしいな。」
蓮との会話には入りにくいが、紗栄子の言葉は聞いていて楽しいと大志は思う。
「このチームと競り合ったんだから、工藤くんたちもすごかったね。」
気を遣ったのか純粋な誉め言葉なのか、紗栄子が大志の方を振り返る。
「ありがと。青山もなかなかだったよ。」
「それはどうも。島本のマークがきつくて参ったよな。」
「ああ、あいつしつこいよな。」
結局拓海のクラスは準優勝に終わった。紗栄子や蓮、水泳部の仲間が集まって、拓海をねぎらっている。
もう、我慢できないな、と大志は思った。
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