○○にだけ喋る猫がいる下宿屋・犀川

鳴猫ツミキ

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―― 序章 ―― 下宿屋・犀川&犀川亭

【002】大家さんとその敵(?)

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「今日からお世話になります、礼原梓生です」

 勢いよく梓生は頭を下げた。それから顔を上げると、きょとんとした顔をしていた犀川が、唇の両端を持ち上げる。男ながらに艶がある。女性的というわけではなくどちらかといえば男らしいのだが。

「よろしく。犀川です。なにか分からないことが会ったら、いつでも聞いてくれ」
「はい」

 梓生が両頬を持ち上げて頷いたその時、背後で自動ドアが開いた。

「おら、伊織! 敵情視察に来てやった」
「……晃嗣。今は、下宿生が来ているところで」
「! へぇ?」

 晃嗣と呼ばれた金髪の青年は、小首を傾げると、まじまじと梓生を見た。非常に長身で、梓生は首を曲げて見上げた。瞳の茶色はカラーコンタクトだろうか。犀川と同年代の二十代後半に見えた。

「名前は?」
「え、あ、礼原梓生です」
「ふぅん。俺は、神保晃嗣。伊織とはまぁなんだ? 敵だ」
「晃嗣……礼原くんの前でやめてくれ」

 犀川が片手で額を押さえる。呆れている様子だ。そちらに振りかえった晃嗣が、目を眇める。

「で? 今年は下宿生何人だよ?」
「……五人だ」
「俺の所の圧勝だなぁ、今年も。そろそろここ、潰れるんじゃねぇのか?」
「……」
「あ、梓生も下宿を映りたくなったら俺の所にこいよ。ちょっと先で下宿屋やってるんだ。ここよりも大きい。老舗だ……まぁ、歴だけだとここには負けるけどな。俺が今仕切ってる。父親はこのあたりの不動産屋をまとめてる。道真市じゃそこそこの名士だぞ。覚えておけ」

 にやっと笑ってそう言うと、改めて晃嗣は犀川を見た。

「あれ? 親父さんは?」
「そろそろ帰ってくれ」
「おい」
「これから夕食の準備があるんだ」

 ぴしゃりと犀川が言うと、睨むような顔をしてから晃嗣が顔を背けた。

「お、お前がどうしてもというなら、下宿のノウハウ、俺の所の集客方法とか教えてやらないこともないんだぞ」
「結構だ」
「本当頑固というかなんという頭来るな」

 目を据わらせた晃嗣は、そう言うと、はぁっと吐き捨てるように息を吐いてから、帰って行った。呆然とその光景を見ていた梓生に、ハッとしたように犀川が顔を向ける。

「礼原くん、ごめん。悪い奴ではないんだけどな」
「はぁ」
「幼馴染みなんだ――それで、最近東京からこの道真市に戻って会社の下宿事業を引き継いで、色々と晃嗣も試行錯誤してるらしいんだ。ちょくちょく来るけど、気にしないでくれ」
「わかりました」

 そんなやりとりをしていると、また自動ドアが開いた。
 首だけで振りかえると、銀縁の眼鏡をかけた少年が入ってきた。


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