○○にだけ喋る猫がいる下宿屋・犀川

鳴猫ツミキ

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―― 序章 ―― 下宿屋・犀川&犀川亭

【003】下宿生とソウルフード

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 同じ下宿生だと判断する。

「ああ、榊原くん。こちらは、今日から君と同じで下宿に入った礼原くん」

 予測は当たったようだ。

「礼原梓生です。宜しくお願いします」
「榊原尋朋だ。よろしく」

 顔を上げた少年は、眼鏡越しでも整った顔がよく分かった。犀川にしろ晃嗣にしろ榊原にしろ、この下宿の関係者は顔が秀でているのだろうか? と、自分は平凡だと確信している梓生はいたたまれなくなった。

 にこりと笑った榊原は人が良さそうで、そっと手を差し出した。握手だ。
 手を握り返す。仲良くなれるといいなと思った。

「あれ? 新しい子?」

 続いて入ってきた少年を見て、顔面偏差値があるわけではないようだと、失礼ながら梓生はホッとした。ルッキズムについてはくわしく知らない。男なのだが、長髪で赤メッシュが入っている。バチバチと耳にピアスがあいている。校則で禁止と書いてあったと思うのだが……。細い目をしていて、その上にアイラインを引いてメイクをしている。

「は、はい。礼原梓生です。宜しくお願いします」

 さきほどから、同じように名前ばかり名乗っている。

「ふぅん。僕は一本松奏夢。中性だからよろしくね」

 ……中性? 初めて聞く言葉に、梓生は困ったような笑顔のまま曖昧に頷いた。

「残りの下宿生は西條雪野くんだけど、今日は出かけているから外で食べると連絡があった。そろそろ夕食の時間なんだ。礼原くんも食べていくか?」
「あ、はい!」

 勢いよく梓生が返事をすると、優しい目をした犀川が静かに頷いた。白いシャツに黒いエプロンを着けている。

「ちなみに猫を飼っているというか、なんというか、まぁ、猫がいて……猫の名前はサトリだ」

 犀川はそう言うと、カウンターの奥に入る。カウンター席のみの小さな店内だ。
 メニューは皆同じ物が出されるらしい。
 暫く待っていると、どんぶりがそれぞれの前に置かれた。

「わぁ」

 梓生が目を丸くしてから、何度か瞬きをする。ほかほかの白米の上にシャキシャキ野千切りキャベツ、その上にソースカツが乗っている。

「この界隈ではソウルフードだと言われているんだ」

 そう語った犀川が、それから小鉢と漬物、味噌汁も出してくれた。

「いただきます!」

 見ているだけでも美味しそうだ。箸でカツを掴んで、口へと運ぶ。ジューシーな肉は柔らかく、口の中に一気に唾液が満ちた。気付くとガツガツと梓生はソースカツ丼を食べていた。どちらかといえば平均的な身長か少し低く、体も薄っぺらいのだが、梓生は食べても太らない体質なのか、いくらでもご飯が入る。姉にはうらやましがられるものだ。

「ごちそうさまです!」

 一気に完食する。食べるペースも梓生は速い。その食べっぷりを、驚いたように榊原と一本松は見ていた。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

金浦桃多
2026.01.01 金浦桃多

梓生の下宿生活が始まりましたね。猫ちゃんはサトリ。何かありそうです。伊織さん雰囲気ありますね。
そして、飯テロ🤤
ペロリと食べちゃう梓生。今後たのしみです✨

2026.01.01 鳴猫ツミキ

ご感想有り難うございます💕 はい、まったり下宿オープンです!!!
ちょっと不思議な猫と飯テロましましでいきたいなって!思います!
これからもご覧頂けたら嬉しいです! 本当にありがとうございます!!!!

解除

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