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第十四章

束の間の一夜

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 今夜もホールからは賑やかな音楽や人々のお喋りが風に乗ってここまで聴こえてくる。

 まだ日が沈んでからさして時間は経っていないのだけど、夜風は既にひんやりとしていて、この寝室のバルコニーにも涼しい風を吹き込んでいた。

 式を終え、夜会で最初の挨拶だけ済ませて退場してきて、着替えて風呂に入り、お湯で温まり火照った体を冷やすには調度良い塩梅だ。

 ……そう、体が熱いのは風呂に入ったせい。
 決して、バルコニーに置かれたテーブルセットの対面に、同じく湯上がりほっこりでバスローブ姿のノアが居るせいでは無い、と、思いたい……のに。

 まだ少ししっとりしている金髪に、ローブの合わせからチラリと覗く鎖骨のラインが妙に色っぽくて……。

 テーブルにセットされたお茶をひたすら飲んで、パニックを起こしそうな気持ちを何とか落ちつけようとするのに、未だに動悸が治まらない。

 対するノアは……妙に余裕綽々と言うか……むしろ嬉しそうだし楽しそうな笑みまで浮かべているのだ。
 一体この差は何なのか?

 「それはまぁ、ね。少なくとも初めの内は、こういう事の負担は男より女性にあるものだから。……むしろ男に負担なんて……せいぜい個人的なプライド程度のものだからね。女性に比べれば気楽なもんだよ」

 ……口に出して尋ねた覚えは無いのに、何故だがノアからご回答が。

 「いや、このシチュエーションの中でそれだけ挙動不審なら、よっぽど鈍い奴でなきゃ大抵は気づくでしょ」

 う……。きょ、挙動不審でしたか、私。

 「いや、むしろレーネがここにあっけらかんとしたまま居たら、逆に僕の方が挙動不審になっただろうね。君に男として意識されてなかったらどうしよう、って。ふふふ、それだけ慌ててくれるなら……むしろ僕は嬉しいかな?」

 「くっ、黒! てかドSか!」

 「ん? それはどういう意味かな? ……まぁ、それは後で追求するとして。
 少なくとも今晩は、君に過度な負担はかけないよ。今夜は君を本当の意味で僕のものにできればそれで良い。それ以上の快楽を求めるのは、もっと君が慣れるまではおあずけだね」

 空のカップをテーブルのソーサーに戻し。ノアが満面の笑みを浮かべた。

 「大丈夫、ちゃんと優しくしてあげるから」

 ひょいっと、軽々とお姫様抱っこでベッドに運搬される。


 ――そして。


 初めてなのに散々啼かされた――その、翌朝。



 私は初めて間近にノアの、まさに“天使の様”と称すに相応しい美麗な寝顔を見てうっかり鼻血を出すハプニングに見舞われるのだった。
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