ローズガーデン

彩世幻夜

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第七章

公爵夫人の失敗

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 「ちょっと! 空っぽじゃないのよ!」

 リゾートホテルを引き払い、帰りの支度を整えていた公爵夫人は目の前の馬車を確認し、眦を吊り上げた。
 そこには彼女のかつての娘が居るはずが、娘どころか誰も乗っていないではないか。

 「そんなっ、間違いなく縛り上げて乗せたはずなのに!」

 影はそう言うが、現に目の前にある事実は変えられない。
 実際に空っぽの荷室を見て混乱する影も、任務失敗を悟った。

 こうなると、諦めてそのまま国外脱出するか、再度挑戦するかの二択になる訳だが……

 「あ、諦めるですって? 冗談じゃない! アレばかり幸せになるなんて許しません! 今すぐ探しに行きなさい! 今度こそ確実に捕らえ――」

 「――そこまでだ」

 チャキ、と、騎士の槍を借りて夫人の喉元に穂先をあてがう。
 「ヒッ……!」

 影にはルイカがクナイを突きつけていた。

 「俺はこの国の第四王子、アルトリート。我が国の伯爵の身柄の誘拐を企てた罪で拘束する」

 「なっ、」

 「証拠は既に充分過ぎる程上がっている。
 俺に貴女を裁く権限はないので陛下に託すが、捕縛の権利は持っているのでね。
 大人しく拘束されるなら乱暴はしないと誓おう。
 だが抵抗するなら話は別だ。
 殺しはしないが、無理矢理にでも大人しくして貰うぞ」

 「くっ、」
 「……ああ、自殺なんて許さないからな?」

 ローゼリアを乗せてきたはずの護送馬車に捕らえられ縛りあげられた影と共に放り込まれ、王都への旅に出る公爵夫人。

 そしてローゼリアは、といえば。

 ユリアとルイカに保護されて、その様子を安全な後方から眺めていた。

 「そうか……、襲撃犯て、お母様だったのね」
 実行犯は影だが、彼らは主の命令無しには動かないのはよく知っている。

 元々お父様とは政略結婚で、娘の私もあまり愛された記憶はなかったけど……

 「私の実家のゴタゴタなら、私が何とかしなきゃいけなかったのに……、全部任せてしまってごめんなさい」

 「いや、この国ではともかくあの国では貴女は公爵令嬢に過ぎなかったんだ。こうした事に疎くて当然だろう。……その為に俺が居るんだ」

 犯人を捕らえ終えたアルトリートが、慰めの言葉をくれる。

 「それに、この後については俺でも手に余る。そういう仕事はその仕事の専門家にどんどん放り投げれば良いんだよ」

 「掃除も一段落したしぃ、一回戻ろうか?」
 「……明日には城に来いと命じられるはずだしな。今夜くらいゆっくり寝たいしな」
 「らじゃー!」

 ……だよねぇ。何せ公爵様だからねぇ。
 あーあ。どうやら母国はとんだ弱みを握られる事になりそうですよ。
 ご愁傷さまです。
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