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0章 序章
物語の始まりの始まり
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さわさわと、風で草の葉が擦れる音が聞こえる。
「……ん?」
私はふと目を覚ました。
視界に映るのは、突き抜けるような青い空。
見慣れた都会の狭い空ではなく、遮るもののない空。
「……は?」
慌てて身を起こせば、視界の半分が青から緑に変わる。
真緑よりは黄緑に近い、名前も知らない雑多な草が視界の下半分を覆い尽くしていた。
青い空と僅かな綿雲、そして地平線まで続く果てしない草原。
多少の隆起はあれど、せいぜい丘と呼べるかどうか。
山も、川も見当たらない。
まして、コンクリで舗装された道はおろか、住宅もビルも商店も無ければ車も電車も飛行機やヘリも見当たらない。
いや、人っ子一人見当たらない。
「え、何、これ。あれ、私さっきまで何してたっけ?」
ふと自分の格好を見下ろせば、会社へ通勤する際の服のまま。
そう、確か自分は残業を終えて電車で自宅へ帰る途中だったはずで……
運良く座席を確保出来た所までは確かに覚えていた……が、だ。
「その後の記憶がない……」
乗っていたのは中央線高尾行。
例えうっかり睡魔に負けて居眠りしたまま自宅最寄り駅を乗り過ごしてしまったのだとしても、高尾より先へ行くなら乗り換える必要がある訳で。
そして高尾と言えば観光地。
その観光資源は山が主と言えど、駅前はそこそこ賑わっているはず。
時間が時間だからカフェなんかは閉店しているにしても、こんな何もない野っ原であるはずもなく。
てか、終点まで乗り過ごしたら車掌なり駅員に起こされるという赤っ恥イベントがあるはずではないの!?
しかし、目の前に多少色味の濃淡はあれど、白と青と緑の世界が広がるのみ。
いや、まだだ。
目の前はこうでもきっと後ろには街があるんだ、そうに違いない。
パニックを起こしそうな自分に言い聞かせ、恐る恐る体ごと後ろを振り返る。
……が。
そこに広がるのは先程と同じ景色、だが。
一つだけ、先程と違う物が視界に映った。
それは、ごく小さな小屋。
真四角の木造の壁に、三角お屋根の絵に描いたような小屋。
……そして、どう取繕おうとも“ボロ”が頭に付く小屋。
しかし、この草以外何もない場所で唯一の人工物である。
「物置小屋……、にしか見えないけど。人、居るのかな……」
そんな不安が浮かぶが、今はその唯一の希望に縋る以外彼女に出来そうな事は無かった。
何せ、辛うじて衣服は身に纏ったままだったけど、スマホや財布を入れたバッグはどこへ行ったのか。
「置き引き、かな」
いやそもそもどうしてこんな場所に居るのか、という疑問がある。
彼女はその答えのヒントだけでも得られる事を願いつつ、小屋の扉に手をかけた。
「……ん?」
私はふと目を覚ました。
視界に映るのは、突き抜けるような青い空。
見慣れた都会の狭い空ではなく、遮るもののない空。
「……は?」
慌てて身を起こせば、視界の半分が青から緑に変わる。
真緑よりは黄緑に近い、名前も知らない雑多な草が視界の下半分を覆い尽くしていた。
青い空と僅かな綿雲、そして地平線まで続く果てしない草原。
多少の隆起はあれど、せいぜい丘と呼べるかどうか。
山も、川も見当たらない。
まして、コンクリで舗装された道はおろか、住宅もビルも商店も無ければ車も電車も飛行機やヘリも見当たらない。
いや、人っ子一人見当たらない。
「え、何、これ。あれ、私さっきまで何してたっけ?」
ふと自分の格好を見下ろせば、会社へ通勤する際の服のまま。
そう、確か自分は残業を終えて電車で自宅へ帰る途中だったはずで……
運良く座席を確保出来た所までは確かに覚えていた……が、だ。
「その後の記憶がない……」
乗っていたのは中央線高尾行。
例えうっかり睡魔に負けて居眠りしたまま自宅最寄り駅を乗り過ごしてしまったのだとしても、高尾より先へ行くなら乗り換える必要がある訳で。
そして高尾と言えば観光地。
その観光資源は山が主と言えど、駅前はそこそこ賑わっているはず。
時間が時間だからカフェなんかは閉店しているにしても、こんな何もない野っ原であるはずもなく。
てか、終点まで乗り過ごしたら車掌なり駅員に起こされるという赤っ恥イベントがあるはずではないの!?
しかし、目の前に多少色味の濃淡はあれど、白と青と緑の世界が広がるのみ。
いや、まだだ。
目の前はこうでもきっと後ろには街があるんだ、そうに違いない。
パニックを起こしそうな自分に言い聞かせ、恐る恐る体ごと後ろを振り返る。
……が。
そこに広がるのは先程と同じ景色、だが。
一つだけ、先程と違う物が視界に映った。
それは、ごく小さな小屋。
真四角の木造の壁に、三角お屋根の絵に描いたような小屋。
……そして、どう取繕おうとも“ボロ”が頭に付く小屋。
しかし、この草以外何もない場所で唯一の人工物である。
「物置小屋……、にしか見えないけど。人、居るのかな……」
そんな不安が浮かぶが、今はその唯一の希望に縋る以外彼女に出来そうな事は無かった。
何せ、辛うじて衣服は身に纏ったままだったけど、スマホや財布を入れたバッグはどこへ行ったのか。
「置き引き、かな」
いやそもそもどうしてこんな場所に居るのか、という疑問がある。
彼女はその答えのヒントだけでも得られる事を願いつつ、小屋の扉に手をかけた。
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