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4章 農園のヒロイン

第6話 農園生活一区切り。

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 私がユージーンに告白した事実は、その日のうちにこの農園の全員が知るところとなった。
 ……情報漏えいの犯人は、ユージーンその人である。

 翌日にはあれよあれよと寄ってたかって身体のサイズを測られ、ドレスの好みや式のアレコレを聞き出され。

 驚く事に7日後には、アグリ様の前にユージーンと二人して礼服とドレスに身を包み、背後に農園の関係者全員の視線を感じながら結婚の誓約をさせられていた。

 普通のこの世界の結婚は、アグリ様を信仰する神殿や教会の神官が執り行うもの、らしいんだけど……

 「まさか、アグリ様直々に執り行っていただけるとは、身に余る光栄、ありがたく存じます」
 ユージーンは感極まって目が潤んでいる。

 「いえいえ、神官を務めていた様な人材は今の所居ませんからねぇ。
 ……ですが、お気をつけを。
 人の子であり、場合によっては真の神官としての資格を持たぬ者の前で交わす誓約と違って、我が前に成す誓約は遥かに強制力のある重い誓約となる事を、よくよく肝に銘じて下さいね?」

 そして、地球ではお馴染みの、「病める時云々」に似た内容の、より儀式張った文言が、アグリ様の美声で紡がれる。

 「――以上、新郎ユージーン、わたしと新婦の前て誓えますか?」
 「はい、命を懸けても良い。誓いましょう」

 晴れ晴れとした表情でユージーンが言い切る。

 「新婦、ユリ。
 ……貴女は私の世界の生まれではありません。
 故にユージーンに比べれば僅かに私への誓いの縛りは弱くなります。
 が、しかし私も貴女の世界の神に比べれば弱小なれども、この世界の神。
 故に貴女の魂に干渉は出来ずとも、誓いを破ればその命は失われる。
 それでも、誓いますか?」

 えーと、そこまで重い誓いだなんて。
 日本の結婚みたく気軽に離婚なんかできないじゃない。
 後出し、ヨクナイ!

 でも、「病める時にも守り愛する」と誓ったからには、ユージーンがもしDVに及ぶ事があれば、あるいは私が風邪を引いた時に「俺の飯は?」等という台詞を吐けばそれなりのペナルティが課されると言う事。
 ましてや浮気をする様な輩をアグリ様がここに連れてくるはずもない。

 ……なら。

 「――誓います」

 そのセリフの直後、背後のエキストラがわっと沸いた。


 突然異世界に迷い込み、アグリ様の願いを叶える形で農園を始めたけれど。
 日本では諦めていた結婚までして。

 私は、今日も神様の農園でスローライフしながら世界を救う毎日を過ごして行く。

 これは、そんな毎日の物語――。
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