4 / 66
召喚されました。
30歳の誕生日
しおりを挟む
「――これで……よし」
最後のパーツを配置し、忘れず保存。プリント設定……よし、GO。
席を立ちプリンターから出力された物を手にして課長の席へ持っていく。
「A社のチラシ上がりました」
「……校正に回して」
「校正さんのチェック訂正済みの版です」
「……クライアントに確認――」
「メールチェックでOK出てます、印刷データも出来ているので、課長の判子があればすぐ印刷に回せます。……今日中の急ぎの案件なんですよね?」
「――可愛くない女だな、相変わらず。鬼の首でも取ったみたいに……」
「可愛くなくて結構です。仕事が出来れば問題なく生きていけますから」
ひくひくしている課長の口元を見なかったふりをして、データと見本を担当に渡し、席に戻る。
「環先輩、上がりですか?」
デスクのMacをシャットアウトし、散らかった文房具を引き出しに片付けていると隣の席の後輩が話しかけてきた。
「ええ、定時は過ぎちゃったけど、久しぶりに早く帰れるわ」
「先輩、先輩、今日金曜日ですし飲みに行きません? 総務の子に合コン誘われてて……」
「――ごめんなさい、私はそういうの行かないから」
「え、でも先輩……アラサーですよね?」
ええアラサーでしたよ、昨日まで。でも……
「アラサーだろうがアラフォーだろうが、私そういうのは行かないの。女の子だけの飲み会の時にまた誘ってちょうだい」
本当はそれだって行きたくないけど、流石に全部断っていたら角が立つ。
「それじゃ、お先に失礼するわね」
椅子の背にかけていた上着を羽織り、オフィスの外に出る。
機械の熱で暑い社内に比べると、暖房が効いていてもエレベーターホールは肌寒く感じる。
……エレベーターを降りてオフィスビルを出ればビル風が吹いてなお寒い。
まだ11月、されどもう11月。
早足に家路を急ぐおっさん達に紛れ、大ガードを抜けて西武新宿の前を過ぎ、歌舞伎町のとある飲み屋へ。
「お一人様ですか?」
「はい」
もう少しすると忘年会シーズンで、予約無しのお一人様飲みは厳しくなるから、今日はしっかり飲んで食べるんだ。
誕生日だし、たまのプチ贅沢を楽しもう。
好みの果実酒ソーダ割りをとつまみをいくつか頼み、スマホをいじりながらのんびり飲んで食べる。
ワイワイガヤガヤと大勢での飲み会よりも私はこういう方が好き。
ご飯も映画も一人で行くのが好き。旅行も一人で行く。
遊園地とキャンプだけは厳しいけど、焼き肉カラオケは一人で楽しむ。
一通り酒を楽しんだら、店を出てアスタ裏のこってりラーメンで〆る。
映画は……あんまり面白そうなのないな。
靖国通りに出ると、区役所前からずらりと的屋のテントが並んでいる。
「ああ、今日は酉の市の日……」
新宿伊勢丹前の花園神社で毎年酉の日に行われる恒例行事だ。
「……覗いて行くか」
明治通り側の鳥居まで続く列に並び、本殿での参拝を済ませてからところ狭しと並ぶ店を冷やかして回る。
いくらするのか分からない大きな熊手が壁面を飾るが、店先には千円の小さな物から枡入りの可愛いものも売っている。
店の数自体も多くて、目移りしてしまう。
あちらこちらで響く拍子と威勢の良い声にのせられながら歩き、ふと参道に出て気付く。
さっきは道の向こう側に並んでいたから気付かなかった祠。
ちょうどテントの背と背に挟まれた暗がりに連なる朱の鳥居の先にある祠。
何故かは分からない。
何となく人混みから離れ、鳥居をくぐる。
お賽銭――
鞄から財布を出そうとした、その時。
祠から光が溢れ。
あまりに眩しすぎるその光に思わず目を閉じた。
それでもまぶたの裏まで届く光がようやく消え、目を開けると――
「龍の大地へようこそ、勇者よ」
……あ。私こういうの知ってる。
異世界召喚、だ。
環 蒼生、30歳。
勇者として異世界に召喚されたみたいです。
最後のパーツを配置し、忘れず保存。プリント設定……よし、GO。
席を立ちプリンターから出力された物を手にして課長の席へ持っていく。
「A社のチラシ上がりました」
「……校正に回して」
「校正さんのチェック訂正済みの版です」
「……クライアントに確認――」
「メールチェックでOK出てます、印刷データも出来ているので、課長の判子があればすぐ印刷に回せます。……今日中の急ぎの案件なんですよね?」
「――可愛くない女だな、相変わらず。鬼の首でも取ったみたいに……」
「可愛くなくて結構です。仕事が出来れば問題なく生きていけますから」
ひくひくしている課長の口元を見なかったふりをして、データと見本を担当に渡し、席に戻る。
「環先輩、上がりですか?」
デスクのMacをシャットアウトし、散らかった文房具を引き出しに片付けていると隣の席の後輩が話しかけてきた。
「ええ、定時は過ぎちゃったけど、久しぶりに早く帰れるわ」
「先輩、先輩、今日金曜日ですし飲みに行きません? 総務の子に合コン誘われてて……」
「――ごめんなさい、私はそういうの行かないから」
「え、でも先輩……アラサーですよね?」
ええアラサーでしたよ、昨日まで。でも……
「アラサーだろうがアラフォーだろうが、私そういうのは行かないの。女の子だけの飲み会の時にまた誘ってちょうだい」
本当はそれだって行きたくないけど、流石に全部断っていたら角が立つ。
「それじゃ、お先に失礼するわね」
椅子の背にかけていた上着を羽織り、オフィスの外に出る。
機械の熱で暑い社内に比べると、暖房が効いていてもエレベーターホールは肌寒く感じる。
……エレベーターを降りてオフィスビルを出ればビル風が吹いてなお寒い。
まだ11月、されどもう11月。
早足に家路を急ぐおっさん達に紛れ、大ガードを抜けて西武新宿の前を過ぎ、歌舞伎町のとある飲み屋へ。
「お一人様ですか?」
「はい」
もう少しすると忘年会シーズンで、予約無しのお一人様飲みは厳しくなるから、今日はしっかり飲んで食べるんだ。
誕生日だし、たまのプチ贅沢を楽しもう。
好みの果実酒ソーダ割りをとつまみをいくつか頼み、スマホをいじりながらのんびり飲んで食べる。
ワイワイガヤガヤと大勢での飲み会よりも私はこういう方が好き。
ご飯も映画も一人で行くのが好き。旅行も一人で行く。
遊園地とキャンプだけは厳しいけど、焼き肉カラオケは一人で楽しむ。
一通り酒を楽しんだら、店を出てアスタ裏のこってりラーメンで〆る。
映画は……あんまり面白そうなのないな。
靖国通りに出ると、区役所前からずらりと的屋のテントが並んでいる。
「ああ、今日は酉の市の日……」
新宿伊勢丹前の花園神社で毎年酉の日に行われる恒例行事だ。
「……覗いて行くか」
明治通り側の鳥居まで続く列に並び、本殿での参拝を済ませてからところ狭しと並ぶ店を冷やかして回る。
いくらするのか分からない大きな熊手が壁面を飾るが、店先には千円の小さな物から枡入りの可愛いものも売っている。
店の数自体も多くて、目移りしてしまう。
あちらこちらで響く拍子と威勢の良い声にのせられながら歩き、ふと参道に出て気付く。
さっきは道の向こう側に並んでいたから気付かなかった祠。
ちょうどテントの背と背に挟まれた暗がりに連なる朱の鳥居の先にある祠。
何故かは分からない。
何となく人混みから離れ、鳥居をくぐる。
お賽銭――
鞄から財布を出そうとした、その時。
祠から光が溢れ。
あまりに眩しすぎるその光に思わず目を閉じた。
それでもまぶたの裏まで届く光がようやく消え、目を開けると――
「龍の大地へようこそ、勇者よ」
……あ。私こういうの知ってる。
異世界召喚、だ。
環 蒼生、30歳。
勇者として異世界に召喚されたみたいです。
4
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる