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私、ざまぁ系ヒロインに転生してしまったかも……!?
お義姉様の婚約者様
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その日、コルネリウス侯爵家はにわかに慌ただしくなった。
先頃、屋敷に先触れがあったのだ。
「……本日の午後、お茶の時間にトビアス様がいらっしゃるとの事です。庭師とメイドに、東屋を整えさせなさい。侍女にはサロンの支度を、騎士には屋敷の警備の見直しを。厨房には菓子と軽食を用意させ、執事には給仕の再確認をさせなさい」
先触れがあったとはいえ、普通にお茶会を開くなら、遅くとも数日前には招待状なりお伺いの使者なりで知らせておくべきところ、勿論そんなものはなかった。
先触れには訪いの理由には一言も触れられておらず、先触れを持ってきた使用人も詳しい事は何一つ聞かされないまま遣わされてきたらしい。
酷く恐縮していた様子で、可哀想なくらいだった。
……もし私がそんなマナー知らずで不躾な真似をすれば、お義姉様には叱られるだろうし、もお義母様にも呆れられるだろう。
カルラ女史からはどんなお仕置きが課されるか……考えるだけで恐ろしい。
けれど。
トビアス様は爵位だけなら伯爵子息で我が侯爵家より下の身分なのだが、父君はこの国の宰相という、政治的にはナンバー2と言っても良い高位の役職に就いている。
一方のコルネリウス侯爵家は、領地持ちとはいえあまり栄えていない領地を収めているだけの一領主でしかない。
それでもお義父様がいらっしゃれば、一家の当主と貴族子息では格が違うだけど……。
いつもの事ながら屋敷に寄り付かない義父は頼りにならず。
男尊女卑の考えが根強いこの国で、義母と義姉、そして幼い義弟という布陣では、トビアス様の多少のマナー違反を咎めるなど出来るはずがない。
実は私も、領地からこの聖都のタウンハウスに来たばかりの頃、一度だけトビアス様を見たことがある。
あ、当たり前だけど会った事はない。
領地持ち貴族として、社交シーズン以外は基本領地に住まうお義姉様と違い、王宮務めの宰相様を父に持つトビアス様は基本的に一年中聖都に居る。
お義姉様は、婚約者としてのマナーとして、まず領地に居る内に聖都到着予定日を知らせる先触れを出し、到着したその日にも到着した旨の手紙を出すつもりでいた。
そして都合の良い日時を設定して挨拶に伺うか、お茶に誘うかするつもりだった。
けれど、馬車が侯爵家の屋敷の門の前に着いた時にはもう、先に一台の馬車が停まっていた。
「遅いぞ!」
それはベルクマン伯爵家の紋章を掲げた馬車で、コルネリウス侯爵家の紋章を掲げた馬車が到着したのを確認した直後、一人の少年が降り立った。
紅茶色の髪と瞳の色を持つ、やたらと偉そうな態度のその子供は。
その姿を窓から見つけたお義姉様が慌てて馬車の外に降りようしているのをエスコートする事もなく一方的に嫌味をつらつら並べ立てる。
「今日到着すると言うからわざわざ私自ら挨拶に来てやったのだぞ? なのに屋敷に居ないとは何事だ? もう昼過ぎなんだが……ハァ、全く何をしてもトロい奴だな、お前は」
私は馬車の中、カーテン越しにちらちらその様子を垣間見ていただけなんだけど。
私の向かいに座る義弟のニクラスが、直前まで旅の間の暇つぶしにとやっていたボードゲームの駒を悔しげに握りしめていて。
「……ルノー、あそこの彼を眠らせられる?」
「うーん、興奮状態だからなぁ。深い眠りに落とすまではムリそうだなぁ。出来るとすれば今すぐにでも横になって眠りたいと思うくらいの睡魔と戦わせるくらいならカンタンだけど」
「うん、お願い」
「……お前は本当に駄目な婚約者だな。俺も……、ん? 何だか突然疲れたな。……はぁ、これ以上お前の辛気臭い顔見てるのも面倒だ、家に挨拶なんか来なくて良いからな!」
あ、なんかコクコク船を漕ぎ出した。効果は抜群だ。
敵は撤退を決め、早々に馬車に乗り込み去って行った。
「……礼は言わないぞ。アイツは大嫌いだけど、お前の事だって好きじゃないんだからな!」
と、口では言いながらお顔が嬉しそうですよ、ニクラス君。
あぁ、素直になれない系の子ですが、ここは姉弟揃ってツンデレキャラなんですか。……お義母様もその片鱗がたまに見え隠れするんだよなぁ。
「アイツ、一体どんな用があって突然先触れなんか……。今日は、お義姉様とダンスの練習をするはずだったのに。
やっぱりアイツは嫌いだ!」
……ニクラス君、どうやらツンデレにプラスしてシスコン要素もあるみたいですね。
「私達がトビアス様の目に留ってしまえばお義姉様のご迷惑になってしまいます。
トビアス様がお帰りになられるまで、図書館でお茶でもいかがですか?
先日マルグリット様にいただいたドライフルーツを使ったクッキータルトを作ってみたのですが……」
「……行く。もちろん義姉さんの分もあるんだよね?」
「はい。……さすがにトビアス様にはお出しできませんので、お帰りになりましたらメイドにでも頼んで持って行って貰いましょう」
先頃、屋敷に先触れがあったのだ。
「……本日の午後、お茶の時間にトビアス様がいらっしゃるとの事です。庭師とメイドに、東屋を整えさせなさい。侍女にはサロンの支度を、騎士には屋敷の警備の見直しを。厨房には菓子と軽食を用意させ、執事には給仕の再確認をさせなさい」
先触れがあったとはいえ、普通にお茶会を開くなら、遅くとも数日前には招待状なりお伺いの使者なりで知らせておくべきところ、勿論そんなものはなかった。
先触れには訪いの理由には一言も触れられておらず、先触れを持ってきた使用人も詳しい事は何一つ聞かされないまま遣わされてきたらしい。
酷く恐縮していた様子で、可哀想なくらいだった。
……もし私がそんなマナー知らずで不躾な真似をすれば、お義姉様には叱られるだろうし、もお義母様にも呆れられるだろう。
カルラ女史からはどんなお仕置きが課されるか……考えるだけで恐ろしい。
けれど。
トビアス様は爵位だけなら伯爵子息で我が侯爵家より下の身分なのだが、父君はこの国の宰相という、政治的にはナンバー2と言っても良い高位の役職に就いている。
一方のコルネリウス侯爵家は、領地持ちとはいえあまり栄えていない領地を収めているだけの一領主でしかない。
それでもお義父様がいらっしゃれば、一家の当主と貴族子息では格が違うだけど……。
いつもの事ながら屋敷に寄り付かない義父は頼りにならず。
男尊女卑の考えが根強いこの国で、義母と義姉、そして幼い義弟という布陣では、トビアス様の多少のマナー違反を咎めるなど出来るはずがない。
実は私も、領地からこの聖都のタウンハウスに来たばかりの頃、一度だけトビアス様を見たことがある。
あ、当たり前だけど会った事はない。
領地持ち貴族として、社交シーズン以外は基本領地に住まうお義姉様と違い、王宮務めの宰相様を父に持つトビアス様は基本的に一年中聖都に居る。
お義姉様は、婚約者としてのマナーとして、まず領地に居る内に聖都到着予定日を知らせる先触れを出し、到着したその日にも到着した旨の手紙を出すつもりでいた。
そして都合の良い日時を設定して挨拶に伺うか、お茶に誘うかするつもりだった。
けれど、馬車が侯爵家の屋敷の門の前に着いた時にはもう、先に一台の馬車が停まっていた。
「遅いぞ!」
それはベルクマン伯爵家の紋章を掲げた馬車で、コルネリウス侯爵家の紋章を掲げた馬車が到着したのを確認した直後、一人の少年が降り立った。
紅茶色の髪と瞳の色を持つ、やたらと偉そうな態度のその子供は。
その姿を窓から見つけたお義姉様が慌てて馬車の外に降りようしているのをエスコートする事もなく一方的に嫌味をつらつら並べ立てる。
「今日到着すると言うからわざわざ私自ら挨拶に来てやったのだぞ? なのに屋敷に居ないとは何事だ? もう昼過ぎなんだが……ハァ、全く何をしてもトロい奴だな、お前は」
私は馬車の中、カーテン越しにちらちらその様子を垣間見ていただけなんだけど。
私の向かいに座る義弟のニクラスが、直前まで旅の間の暇つぶしにとやっていたボードゲームの駒を悔しげに握りしめていて。
「……ルノー、あそこの彼を眠らせられる?」
「うーん、興奮状態だからなぁ。深い眠りに落とすまではムリそうだなぁ。出来るとすれば今すぐにでも横になって眠りたいと思うくらいの睡魔と戦わせるくらいならカンタンだけど」
「うん、お願い」
「……お前は本当に駄目な婚約者だな。俺も……、ん? 何だか突然疲れたな。……はぁ、これ以上お前の辛気臭い顔見てるのも面倒だ、家に挨拶なんか来なくて良いからな!」
あ、なんかコクコク船を漕ぎ出した。効果は抜群だ。
敵は撤退を決め、早々に馬車に乗り込み去って行った。
「……礼は言わないぞ。アイツは大嫌いだけど、お前の事だって好きじゃないんだからな!」
と、口では言いながらお顔が嬉しそうですよ、ニクラス君。
あぁ、素直になれない系の子ですが、ここは姉弟揃ってツンデレキャラなんですか。……お義母様もその片鱗がたまに見え隠れするんだよなぁ。
「アイツ、一体どんな用があって突然先触れなんか……。今日は、お義姉様とダンスの練習をするはずだったのに。
やっぱりアイツは嫌いだ!」
……ニクラス君、どうやらツンデレにプラスしてシスコン要素もあるみたいですね。
「私達がトビアス様の目に留ってしまえばお義姉様のご迷惑になってしまいます。
トビアス様がお帰りになられるまで、図書館でお茶でもいかがですか?
先日マルグリット様にいただいたドライフルーツを使ったクッキータルトを作ってみたのですが……」
「……行く。もちろん義姉さんの分もあるんだよね?」
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本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
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