【完結】ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛を通り越してストーカーされてます!

一茅苑呼

文字の大きさ
59 / 73
第五章 拒絶の向こう側

おれだけを見て、感じてよ【1】

しおりを挟む


「………………本当に、来たんだ」

あきれたように言う大地に、ムッと眉を寄せた。

「何よ。私のこと、からかったとでも言うの?」

ベッドに寝転んで本を読んでいたらしい大地を、部屋の入り口でにらんだ。

……昼間からずっと悩みまくっていた自分が、バカみたいだ。

いままでの大地と違う風に見えて、だからこそ真剣に、自分が《望まれている》気がしたのに。

大地は、大地。
だけど、私に対する態度も言葉遣いも、全然違っていて。
いまの大地と夜を過ごすっていうのは……なんだか、前の大地に対する『裏切り』のように思えていたから。

それなのに───。

「私とする気がないなら、いいわよ。お邪魔さま。
明日は早く起きて、父さん見送ってあげてね?」

早口で言いきって部屋をあとにしようとした私の耳に、盛大な溜息が聞こえた。

「……大人げないな、あんたって。じゃあ言い方を変えてやるよ。
───来てくれるとは思わなかったから、嬉しいよ、舞さん」

棒読みで告げられても、ドキッとしてしまう私を察したかのように、大地がのどの奥でくっと笑いながらベッドを降りる。

「───これで、満足?」
「あんたねぇ~」

頬をひきつらせて思いつく限りの文句を言ってやろうとしたのに、いつもと勝手が違い言葉につまった。
手にした本を棚に戻し、大地が私を見る。

「……なんで、そんなとこにつっ立ってるんだよ? 早く来いよ、こっち」

誘う目つきがいやらしくて、なんだか、怖かった。
けれども、じけづいた自分を見透かされるのが悔しくて……平気な振りをして、大地の側に寄った。
瞬間、抱きすくめられて、自分の身体が強張こわばっているのを実感する。

「そんなにおびえられたら、キスもできないよ。……舞さん?」

ささやきは、あきらかにからかう口調だった。
なのに、いままでと違う響きに聞こえるのは、私の名前を何かを思うように告げるから、かもしれない。

キスもできないと言った舌の根も渇かぬうちに、うなじを伝う唇と、布ごしに背中を撫でていく指先。
……その、動き。

ベッドに押し倒されながら、あえぐように名前を呼ぶ───確信をもって。

「……大地……」

呼びかけて、自分からも近づく。
後ろ髪に触れて、大地の匂いを呼吸する。

……同じ、匂い。

当たり前のことなのに、その事実に安心して、ようやく身体の緊張もとけていった。
それが伝わったのか、大地はよりいっそう大胆に、私の弱いところを、指で唇で舌でもって攻め始めた。

「……っ……」

時々、痛いくらいに強く愛撫されて、涙がにじむと、大地はごめんと短く言って、目元に唇を寄せてきた。
……そこに浮かぶ愉悦に気づき、たまらなくなって大地の背中に爪を立てる。

───こいつ、絶対わざとだ。

「……何? もっと、激しくされたいの?」

自分の背にまわされた私の手をつかみ寄せ、意地悪く、笑う。
乱暴に両手が押さえこまれて、私の身体のあらゆる柔らかな部分に歯が立てられた。
そうして大地は、痛みが、痛みだけではないことを、私の身体に思い知らせていく。

「……ひょっとして、いつもより濡れてたりする? 実はMだったんだね、舞さん?」

声が枯れるほど人をあえがせておいて。
にっこりと底意地悪そうに笑う大地が憎らしいのに……愛おしく思えて、不思議だった。

こんな風に、いまの大地を受け入れることができるだなんて。
……身も、心も。

「……大地……好きよ……。だから……キス、して……」

かすれた声で言った私を、大地がとまどったように見返してきた。
その反応に、いたずらっぽく笑ってみせる。

「キスするの、怖い……? みつかれそうで……」

私の身体には幾つものくちづけを落としたのに。
いっこうに、私の唇にはやってこない大地の唇の意味を、指摘してやる。

「……遠慮、してるんでしょ……? もう一人の、自分に」

漠然と感じていたこと。
いまの大地は、もう一人の自分をうらやみ、ねたみながら……どこかで『何か』を、譲っているように思えた。

「……あんたは……何を遠慮して……何を、譲っているの……?」

さきほどまでの愉悦に満ちた仮面を脱ぎ捨てるようにして、大地は、押さえこんでいた私の両手を解放した。溜息と共に、答える。

「…………あんただよ、舞さん。おれが、ホントは触れちゃいけない……『こいつ』の、宝物」

言って、大地は胸を押さえた。

「何もかもあきらめて……自我さえもごまかして……。だけど『こいつ』の心のなかで、最後まで大事に……大事にされてきた、あんたへの『想い』。おれには、どうしても奪えないもの」

うつむいて、つぶやく。

「……奪っちゃ、いけない、もの……」
「───大地……あんたは、やっぱり、大地、なのね」

自由になった両手で、大地の両頬を押さえる。
思わず、笑みが浮かんだ。

「そんな風に、アホみたいに理屈っぽくて、語り始めたら止まらないとこ。
……ホント、ヤになるくらい、『大地』だわ」
「アホって……」

言いかけた大地の唇を奪って、強引に舌を求めて、逃げられないように大地の頭を抱えこんだ。

息もつかせぬほどに夢中になってキスをして、大地が応えてくれ始めると、意識が飛びそうなった。
その刹那、大地の手が私を無理やり押しやって、私の脳裏に拒絶されたキスが浮かんだ。

冷や水をかけられた思いの私の目に、大地の顔が苦しげにゆがんで、入る。

「……悪いけど、もう……上より下で、繋がりたい。
……深いとこまで、いい……?」

荒い息遣いが、長いキスのせいだけではないことが瞬時に分かって。
私はホッとしながら身体を開き、大地を受け入れた。

「───舞、さん……。いま、だけで……い……から……」

奥深くまで届けられる大地の熱に、小刻みに身体をゆすられて。

───おれだけを、見て……感じて、よ。

声も枯れはてた私に変わって、大地のせつない呼びかけだけが、何度も室内に響いていた───。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。 俺と結婚、しよ?」 兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。 昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。 それから猪狩の猛追撃が!? 相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。 でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。 そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。 愛川雛乃 あいかわひなの 26 ごく普通の地方銀行員 某着せ替え人形のような見た目で可愛い おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み 真面目で努力家なのに、 なぜかよくない噂を立てられる苦労人 × 岡藤猪狩 おかふじいかり 36 警察官でSIT所属のエリート 泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長 でも、雛乃には……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...