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番外編②元王妃のその後

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「カサンドラ様。昼食をお持ちしました。」

あの時元王妃は離宮で死ぬまで幽閉を選んだ。

自分の罪を忘れて生きることはできないと、元王妃は言う。

「それでこそ母上です。」

ルーセルはホッとしたように笑っていた。

「ありがとう。」

離宮に幽閉されている元王妃は国の恥とされる。

ラピスラズリ大帝国に少しといえど迷惑をかけた。

このことは王国民にとっては衝撃的なことだった。

国民のための政治をしてきた王妃がそんなことをするだなんて何かの間違いではないかと思われた。

しかし新国王ルーセルは元王妃の幽閉を解かなかった。

そのとき国民は気づいた。

元王妃は本当にやったのだと。

今、元王妃に仕えている侍女は1人。

ユナという平民の少女だ。

礼儀作法は何も知らずただ裏切った元王妃のために行動する。

その事が元王妃にとっては何よりも嬉しいことだった。

普通なら何か意地悪をされてもおかしくないことをした。

「カサンドラ様に相談があるのです。」

ユナはもじもじとしながらカサンドラに言う。

「なぁに?」

「こんなことカサンドラ様に相談するのはいけないことだとわかっているのです。」

ユナは申し訳なさげに言う。

「国王陛下が私を王妃に迎えたいと言ってきたのです。」

どうしたらいいのかわからなくて、とユナは半泣きで言う。

「ルーセルに?よかったじゃない。」

「私、お断りするつもりでいたのです。」

「まあ、それはなんで?」

カサンドラが不思議そうに尋ねるとユナは言う。

「私がいなくなってしまったらカサンドラ様の侍女になる人がいなくなってしまうじゃないですか。」

「ユナっ!」

信じられないと言いたげな表情でユナを見る。

「私はカサンドラ様に仕えたいのです。国王陛下の王妃になるだなんてごめんです!

ユナは言い切る。

「嬉しいわ。ありがとう。」

王妃が微笑む。

「それじゃあ陛下からの王妃話を断ってきます!」

ユナは一礼すると部屋を辞す。

「国王陛下にお目通りを。」

「やぁ、ユナ。気持ちは決まったかな?」

断られるとは夢にも思っていないルーセルにユナははっきりと言った。

「国王陛下のお話はとても嬉しいご提案です。ですが、平民出身である私には身に余るものがあります。ですので、お断りさせていただきます。」

ユナはひと息に言う。

「失礼しました!」

固まっているルーセルを見てユナは慌てて部屋を辞す。

「ま、待ってくれユナ!」

声が追いかけて来るがユナは足をとめなかった。

「カサンドラ様。断ってきました。これですっきりです!」

ユナは元王妃のもとに戻ると嬉しそうに言う。

「でも、あの子は諦めが悪いからいつまでもアプローチしてくると思うわよ。」

カサンドラは笑うとこれからに思いをはせた。

それから諦めの悪いルーセルは何度断られようと求婚し続けたとか。

元王妃カサンドラは65歳で流行り病にかかり亡くなった。

その死を悼む者は多かったとか。

離宮で幽閉されていた期間は王妃の印象を大きく変えるものだった。

事件を起こした悪者王妃はそこにいなかった。

己の罪を悔やみ、その罪を忘れないために離宮にいる。

記憶を消され、市井に行くという選択肢を選ばなかったカサンドラはその時点でそれなりの評価を得ていたのだ。


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