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レオン、さま。
……もう、自分の声とも思えない枯れた声しか紡ぐことができない。いや、自分に聞こえるだけで、もう声になってはいないのかもしれない。
私は気を失うことも許されずに、もう何刻もの間、レオン様に抱かれ続けていた。意識が薄れそうになるたび、口移しで水を飲まされる。ぬるい水が喉奥を通過する感触と、嚥下しきれず唇からあふれた水が、顎、首、胸元へと伝う肌への感触で、朦朧としながらもまた正気に返らされる。激しくて、執拗で、苦しいほどの快楽。過ぎる快感は、拷問のようだ。意図しない涙が、絶え間なく頬を濡らす。そして、零れた涙すら惜しむように、レオン様がそれを舐めとってゆく。
*************
ラムズフェルド公と別れた後、遅れて広間へ戻ると、レオン様の衛兵が私を呼びに来て、私たちは退出することになった。宴の常として、上位の者は、ほどの良いところで外すのが習わしだ。あとは気楽に楽しむように、という、上位者ならではの気遣いである。
レオン様は私を長時間(というほどではなかったと思うけれど)一人にしてしまったことを謝ってくれて、(私が自ら逃げ出したのだから)気にしていないと言っても頑として引き下がらず、お詫びと称して人目もあるのに私をお姫様抱っこにして、なぜか、人々の喝采と黄色い悲鳴とオーディアル公の抗議とラムズフェルド公の仏頂面とオルギールの無表情に見送られて、居室へと戻ってきた。レオン様は意気揚々、私は自分の足で歩くよりも疲労感を感じたことは間違いない。
その後、それぞれ浴室を使ってからあらためて私の居間に来て、二人でのんびりお茶をしていたのだけれど、その時事件が──というほどのことではないはずだけれど──起こったのだ。少なくとも、レオン様の逆鱗に触れたのだ。
話題は自然と、三日後に迫った出陣のことだった。この世界での「初めてのお出かけ」が、「初陣」というのは笑うしかないけれど、レオン様と兵站を担うラムズフェルド公の気遣いにより、よくわからないが「行軍中もできる限り不自由なく過ごせるように」して下さったのだそうだ。詳しくはオルギールがわきまえている、ということで説明は省略されたけれど、まあそれはいいとして、だんだんと甘々な雰囲気になっていったのも、まあ必然といえた。もとよりお茶を頂くときはレオン様の膝の上だったし、出陣を控えているとなれば、いちゃいちゃするのは私も異存はない。けれど、これは。こんな抱き方は。
「──もう一度、言ってみろ」
レオン様の琥珀色の瞳が、見たこともないほどの強い怒りを湛えて私を射竦めた。
さすがに、まずい。本気で怒らせた。
膝の上はこれだから困る。逃げようがない。
私を心配して下さるのはとても嬉しい。私は素直にそれを喜んで、甘えていればよかったのだ。それなのに、可愛くないことを、ついつい言ってしまったのだ。戦争は終わってから全体としてどうだったかが問題だから、極端に言えば私が死んでも作戦として成功していればそれでいいのだ、と。もちろん、生きて戻る気ではいるけれど、極論としては、と。
うっかり、そんな趣旨のことを言ったら、レオン様の表情が一変したのだ。
「犠牲が自分で済めばマシ、だと?自分だけの命で済むなら、何だって?」
レオン様はそう言いながら私を抱え上げ、大股に寝所へ移動すると、私を広い寝台に投げ出した。
いつものレオン様なら絶対にこんな荒っぽいことはしない。私は本能的に怯えて逃げようとしたのだけれど、素早くのしかかられ、四肢を縫いとめられて、身動きがとれなくなった。
「レオン様、ごめんなさい」
後悔と恐怖心とで、必死で私は謝ったのだけれど、私を押さえこむ力はこゆるぎもしなかった。
レオン様は、激しい怒りと情欲を孕んだ瞳を向けて、黙って私を見下ろしている。瞳と同じ色の長い髪が零れ落ちて、柔らかな檻のように私を覆う。金色の肉食獣に、食い殺されそうだ。ラテン語によく似た言語のこの世界で、「レオン」様はまさにその名のとおり──「獅子」のよう。
「ごめんなさい、馬鹿なことを言って、ごめんなさい……」
「謝ったくらいで済むと思うな」
レオン様は薄く笑った。見たことがない、酷薄な、背筋の寒くなるような笑み。
思わず、私は押し黙る。恐ろしくて、謝罪の言葉すら飲み込んでしまう。
いつもなら、私が少しでも怯えると、甘やかして宥めてくれるのに。
レオン様は嗜虐的にすら見える冷笑ともに、くちづけすらしないまま、いきなり私のローブを剥ぎ、下着をむしり取って、瞬く間に一糸纏わぬ姿にすると、容赦のない力で私の両胸を鷲掴みにした。
痛みに、顔が歪む。
「!っい、たっ……!」
「手加減はしない。思い知るがいい」
レオン様は吐き捨てるように言って、掴んだ胸を荒っぽく揉みしだき、噛みつくようにその先端を口に含み、きつく吸い上げた。そのまま繰り返し、延々と、音を立てて舐めしゃぶり、歯を立てられる。
甘美というにはあまりに激しい、拷問のような、地獄のような夜の、始まりだった。
……もう、自分の声とも思えない枯れた声しか紡ぐことができない。いや、自分に聞こえるだけで、もう声になってはいないのかもしれない。
私は気を失うことも許されずに、もう何刻もの間、レオン様に抱かれ続けていた。意識が薄れそうになるたび、口移しで水を飲まされる。ぬるい水が喉奥を通過する感触と、嚥下しきれず唇からあふれた水が、顎、首、胸元へと伝う肌への感触で、朦朧としながらもまた正気に返らされる。激しくて、執拗で、苦しいほどの快楽。過ぎる快感は、拷問のようだ。意図しない涙が、絶え間なく頬を濡らす。そして、零れた涙すら惜しむように、レオン様がそれを舐めとってゆく。
*************
ラムズフェルド公と別れた後、遅れて広間へ戻ると、レオン様の衛兵が私を呼びに来て、私たちは退出することになった。宴の常として、上位の者は、ほどの良いところで外すのが習わしだ。あとは気楽に楽しむように、という、上位者ならではの気遣いである。
レオン様は私を長時間(というほどではなかったと思うけれど)一人にしてしまったことを謝ってくれて、(私が自ら逃げ出したのだから)気にしていないと言っても頑として引き下がらず、お詫びと称して人目もあるのに私をお姫様抱っこにして、なぜか、人々の喝采と黄色い悲鳴とオーディアル公の抗議とラムズフェルド公の仏頂面とオルギールの無表情に見送られて、居室へと戻ってきた。レオン様は意気揚々、私は自分の足で歩くよりも疲労感を感じたことは間違いない。
その後、それぞれ浴室を使ってからあらためて私の居間に来て、二人でのんびりお茶をしていたのだけれど、その時事件が──というほどのことではないはずだけれど──起こったのだ。少なくとも、レオン様の逆鱗に触れたのだ。
話題は自然と、三日後に迫った出陣のことだった。この世界での「初めてのお出かけ」が、「初陣」というのは笑うしかないけれど、レオン様と兵站を担うラムズフェルド公の気遣いにより、よくわからないが「行軍中もできる限り不自由なく過ごせるように」して下さったのだそうだ。詳しくはオルギールがわきまえている、ということで説明は省略されたけれど、まあそれはいいとして、だんだんと甘々な雰囲気になっていったのも、まあ必然といえた。もとよりお茶を頂くときはレオン様の膝の上だったし、出陣を控えているとなれば、いちゃいちゃするのは私も異存はない。けれど、これは。こんな抱き方は。
「──もう一度、言ってみろ」
レオン様の琥珀色の瞳が、見たこともないほどの強い怒りを湛えて私を射竦めた。
さすがに、まずい。本気で怒らせた。
膝の上はこれだから困る。逃げようがない。
私を心配して下さるのはとても嬉しい。私は素直にそれを喜んで、甘えていればよかったのだ。それなのに、可愛くないことを、ついつい言ってしまったのだ。戦争は終わってから全体としてどうだったかが問題だから、極端に言えば私が死んでも作戦として成功していればそれでいいのだ、と。もちろん、生きて戻る気ではいるけれど、極論としては、と。
うっかり、そんな趣旨のことを言ったら、レオン様の表情が一変したのだ。
「犠牲が自分で済めばマシ、だと?自分だけの命で済むなら、何だって?」
レオン様はそう言いながら私を抱え上げ、大股に寝所へ移動すると、私を広い寝台に投げ出した。
いつものレオン様なら絶対にこんな荒っぽいことはしない。私は本能的に怯えて逃げようとしたのだけれど、素早くのしかかられ、四肢を縫いとめられて、身動きがとれなくなった。
「レオン様、ごめんなさい」
後悔と恐怖心とで、必死で私は謝ったのだけれど、私を押さえこむ力はこゆるぎもしなかった。
レオン様は、激しい怒りと情欲を孕んだ瞳を向けて、黙って私を見下ろしている。瞳と同じ色の長い髪が零れ落ちて、柔らかな檻のように私を覆う。金色の肉食獣に、食い殺されそうだ。ラテン語によく似た言語のこの世界で、「レオン」様はまさにその名のとおり──「獅子」のよう。
「ごめんなさい、馬鹿なことを言って、ごめんなさい……」
「謝ったくらいで済むと思うな」
レオン様は薄く笑った。見たことがない、酷薄な、背筋の寒くなるような笑み。
思わず、私は押し黙る。恐ろしくて、謝罪の言葉すら飲み込んでしまう。
いつもなら、私が少しでも怯えると、甘やかして宥めてくれるのに。
レオン様は嗜虐的にすら見える冷笑ともに、くちづけすらしないまま、いきなり私のローブを剥ぎ、下着をむしり取って、瞬く間に一糸纏わぬ姿にすると、容赦のない力で私の両胸を鷲掴みにした。
痛みに、顔が歪む。
「!っい、たっ……!」
「手加減はしない。思い知るがいい」
レオン様は吐き捨てるように言って、掴んだ胸を荒っぽく揉みしだき、噛みつくようにその先端を口に含み、きつく吸い上げた。そのまま繰り返し、延々と、音を立てて舐めしゃぶり、歯を立てられる。
甘美というにはあまりに激しい、拷問のような、地獄のような夜の、始まりだった。
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