どうぞお続けになって下さい。 ~浮気者の王子を捨てて、拾った子供と旅に出ます~

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【期間限定】web版 どうぞお続けになって下さい。のラスト3話

第63話 視察同行。

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 とある高位貴族の領地の別邸にて―――

 ジェレマイアとロザリンドが向かった視察先は、とある高位貴族の領地であった。
 季節が初夏へと向かう頃に、夏を呼ぶ為の通過儀礼とばかりに春の花々を綺麗に散らす大雨が降る。それは連日のように降り続く為、アンストート国のどこかしらの領地で水害の被害がおこっていた。

 魔法や魔道具がある世界とはいえ、全てに万能ではない。
 そのひとつに、石壁を形成する魔法が込められた魔法石にも数に限りがあるからということもあるのだろう。

 国も対策を打ち出し被害にあった領地の救済や援助がスムーズに出来るように予算を毎年割いて対応しているが、被害を受ける領地の規模も数も同じではない。
 それぞれのち地形に見合った予防策の意見が纏まるまで人が決断を下していく以上簡単ではないのだ。

 川や湖を大きな土壁などでぐるりと取り囲み氾濫時の被害の軽減を狙っているところであるが、それには人員も予算もかなり必要である。
 国が補助金を出してはいるが、水害後に次の災害を防ぐ為として行動するが、全ての被害があった領地に膨大な補助金を出すのは難しい為、優先順位が付けられている。だが大雨は毎年あることから、被害を受ける領地も毎年のように追加される為、順番待ちが増え続けているという訳で、まずは復興をする為に順番待ちで待たされ、順番が来たとしても時間も手間もお金も掛かるので、資金力のない領地の復興は滞っている現状となっていた。
 そういう領地に対しては特に対策という対策をたてられずにいる。

 そんな中、高位貴族であるレッドフォード侯爵家の領地に、従来よりも資金を必要としない画期的な水害予防が生み出された事を知り、今後の事を考え王太子自らが視察することが決定したのだった。

 上手くいけば今まで頭を悩ませていた懸案が解消されるかもしれない国にとって重要な視察である。

 そこに王太子殿下の婚約者で次期王太子妃のリデル侯爵令嬢が急遽同行すると聞き、対応するレッドフォード侯爵家は大慌てで追加の準備をしたのだった。

 その重要な視察で、ロザリンドは初手から躓いた。
 ジェレマイアが乗る立派な馬車に同乗すると思っていたロザリンド。
 視察先へと出発する直前に違う馬車が用意されていると知ると、不機嫌な声で案内していた従者に「貴方、私を誰だと思っているの? 案内する馬車を間違えているわ。ジェレマイア様がお乗りになる馬車へ案内しなさい」と話し強引にジェレマイアが乗る馬車へと向かったが、騒ぎを聞きつけ駆けつけたジェレマイアに「馬車内で書類仕事をしなければならないから貴女を乗せる場所がない」とキッパリと断られた。

 レッドフォードの領地へ向かう際の中継地点での宿泊もフロアは同じであるが端と端で距離があり、ロザリンドは不満をもつ。
 食事は共に出来るが、同じテーブルに側近もおり仕事の話ばかり。
 これから向かう領地の話であるというのに、会話に入っても来ず聞いてもいないような様子。
 これで王太子から次期王太子妃として何を学び得ようとしているのか甚だ謎である。

 レッドフォード侯爵家の領地へ到着し、素晴らしい歓待を受けロザリンドの機嫌も少し直った翌日―――

 ロザリンドはまた大きく躓いた。

 侯爵家が行っている水害対策の視察に、派手なドレスを着用。
 胸元には王宮の夜会くらいでしかお目見え出来ないような存在感のある大きなサファイアのネックレスに両耳には大変重そうなネックレスと対になったピアス。
 野山や湖周辺を歩くことを意識した格好ではない。
 不謹慎極まりないとレッドフォード侯爵家の面々は顔を顰めた。
 勿論ジェレマイアも失望に顔を歪め、ロザリンドに「君は真面目に視察する気があるのか?」と低い声で注意したという。



 ロザリンド Side

 天井近くまである縦に長い窓から外を眺めつつロザリンドは指の爪をギリギリと噛んだ。
 母親にも幾度も噛むのを窘められるが直る様子がなかった。

「何もかも上手くいかないわ」

 この視察でジェレマイア様と距離が縮まるどころか遠くなるばかり。

 周囲の批判的な視線も潜んだ声も。
 ロザリンドは原因が分からないことばかり。

 ロザリンドが次期王太子妃という地位にあるという事の配慮が足りず、愚かな者たちばかりだと不満だけを溜めていた。

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