転生したら血塗れ皇帝の妹のモブでした。

iBuKi

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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

すべてをかけて守りぬく。

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 宰相として、この情報をどう調理するかだ。
 大国である帝国の皇帝は泣く子も黙るシュヴァリエだ。
 他国がクラウディアを狙ったとして、すべてを髪の毛一筋乱さず余裕で薙ぎ払うであろう。
 ただ……とんでもない権力闘争に巻き込まれるであろうクラウディア自身の方が問題である。危機から遠ざけるために自由を奪いどこか遠く離れた誰も知らない土地に隠し徹底的に囲うにする策は、シュヴァリエが傍から離さないだろうから激しく反対するだろう。

 皇帝が長期不在も有り得ない。
 だがこの甥はアレスにすべて擦り付けて行動を起こしそうである。
 ということはこの策は防衛には適しているが負担が大きすぎるので却下。
 あとは……と、アレスは既に頭の中で複数の策が練られ始めていた。
 側室であったクラウディアの母の不貞の事実は露見したところで元々処刑されたような女だからあの女の名誉など知ったことではないので問題ないが、問題があるとすれば皇女であるクラウディアの方である。

 皇族で無くなれば皇宮に滞在することに反対する貴族も出るかもしれない。
 実の妹かと思っていれば血の繋がらない他人である。
 甥を狙う肉食系の女豹令嬢や、草食動物ぶった可憐の皮を被った令嬢どもやその親がうるさいだろう。

 まぁ……それすらも甥は黙らせることが出来るが、クラウディアはどうだろうか。
 実の兄だった相手が他人だった時、どれほどの衝撃だろうか。
 枢機卿が真実を知ってしまえば、ヤツの狙いがクラウディアになってしまうだろうしな。それをどう躱すか。
 自治権を認めているため、枢機卿を理由なく捕らえることも難しい。
 あの狸ジジイがほいほい証拠を残すとも考えられない。
 そして……

「この一件は、枢機卿個人の問題に留まらない。騎士団に提出された報告書を改竄できるほどの権力があり、その内容を隠蔽する動機を持つ者が関与している。枢機卿の事件、そして『種族』というキーワード……。私の知る限り、世界が認識を共通しているあの種族の末路。世界各国が求めるがあまり次々と死に追いやり、現在では絶滅したと思われている、今では口にすることも禁忌な種族の生き残りの可能性だったことが高いのではないか。そして枢機卿はその種族を狩って欲しがる国に売買していたた腐った思想の犯罪ネズミ集団と関係があるかもしれない。報告書の改竄の事実があるということは、我ら帝国内にもそのネズミがいるということでもある」

 シュヴァリエの瞳が、鋭い光を放つ。
 その光は、表向きは枢機卿の事件の真相を追う皇帝のそれだが、内面ではクラウディアの安全をただ案じる兄の焦燥が渦巻いていた。
 血が繋がっていなくとも、彼女はかけがえのない妹であり、家族だった。
 だがもうソレだけではないと随分前から気付いている。
 己の気持ちはもうそんなところに留まっていないのだと。

「やはり、そう考えるか、叔父上。私も同じ見解だ。あの枢機卿は、表向きは敬虔な聖職者であったが……裏では、奴らと接触していたということだろう。まさか、そこまで堕ちていたとはな。……そして、あの時に燃え尽きたのが……もし、本当にクラウディアの実父であるとするならば……」

 シュヴァリエの言葉が途切れる。
 アレスは、甥の苦渋に満ちた表情を真っ直ぐに見つめた。
 シュヴァリエが口にしなかった「もし」の先に何があるのか、アレスには痛いほど分かっていた。
 今回の件で、クラウディアの実父が「灰になった」とあれば、枢機卿が狙っていた「種族の血」とは、まさしくその男の血であり、それは紛れもなくクラウディアにも流れていることを意味する。

「彼が燃やしたものが、その『種族』の血を手に入れさせない為のものだったのかもしれない。手に入れられてはならぬもの、手に入れさせてはならぬもの。死ぬ間際にそうすることを徹底させられているのか……ネズミはどこまで把握しているのか」

 アレスは思考を巡らせる。宰相としての義務が、彼に冷静な分析を促す。
 この事件が公になれば、帝国だけに留まらず他国にも計り知れない混乱を招く。

「どちらにせよ、あの枢機卿が事件に関わっていることは明白だ。そして、それを隠そうとした勢力がある。彼らは改竄して何を隠したい?」

 シュヴァリエが問いかけると、アレスは静かに頷いた。

「現段階では断定できないな。ただ一つ確かなのは、この皇宮内にネズミが紛れこんでいること。そして、報告書を改竄した者がいる以上、我々の手の内を探っている者もいる。――そして、我々が守るべきものが、危機に瀕する」

 アレスの言葉は、シュヴァリエの心に深く響いた。「我々が守るべきもの」とは、クラウディアの命であり、帝室の権威であり、帝国の秩序と安定に他ならない。宰相としての責任が、アレスの言葉に重みを加えていた。

「……慎重に進める必要があるな、叔父上。この件は極秘とする。関わる人間は最小限に留め、一切の情報漏洩を許さない。まずは、回収された灰の行方と、その枢機卿の現在の状況を徹底的に洗い出す。そして、騎士たちの当時の報告書がどこで改竄されたのか、その経路も探る。何としてでも、クラウディアには知られてはならない。そして、何よりも、その血が公にされてはならない。そして、今はあの不貞の事実も知られてはならない。時が来るまでは」

 シュヴァリエの表情は、いつもの冷静な帝王の顔に戻っていた。だが、その瞳の奥には強い警戒心と、何が起こってもおかしくないという覚悟、そして何よりも愛する義妹クラウディアを守り抜くという固い決意が宿っていた。それは、皇帝としての責任と、血の繋がりを超えた家族への願いが、奇妙なほどに融合した表情だった。

「承知いたしました、陛下。そして……シュヴァリエ。宰相として、そして何よりあなたとクラウディアの安寧を守る者として、この件は私にとっても他人事ではありません。枢機卿の過去の動向、特に近年における特異な接触についても調査を進めます。陛下、この件は、帝国の未来を左右する重大な局面になり得ます。ご覚悟を」

 アレスの言葉に、シュヴァリエは静かに頷いた。執務室には、重く、そして張り詰めた空気が満ちていた。
 シュヴァリエは、心の中で誓う。
 たとえ世界の理に背いても、何者にもクラウディアを渡すものか、と。
 そしてアレスもまた、静かに誓う。宰相としての責務を果たし、この帝国を、そしてこの甥と姪という、己の唯一の家族を守り抜くと。

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