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訳あり王子と秘密の恋人 第二部 第三章
11.ものは試し※
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バッシュが目を覚ましたのは、しばらくたってからだった。
寝返りをしかけて障害物があることに気付き、怪訝な声を漏らしたバッシュが、片方のまぶたを上げてエリオットを見た。
「お前か……悪い、起きて待ってるつもりだったんだが、シャワーを浴びたらつい」
「いいよ。どれくらい寝た?」
バッシュがベッドサイドの時計を見た。五キロはありそうな石の一部に、金の文字盤が埋め込まれている。ミステリー小説の凶器としておあつらえ向きだ。
「三時間くらいだな」
「まだ寝る?」
「いや、もういい。寝すぎると、あしたに差し支えそうだ」
「あした仕事なのか?」
驚いて聞くと、バッシュはエリオットの頬をつついた。
「うまいこと切り抜けてきた誰かさんを、労わってやらなきゃならないからな」
「……まだ何もいってねーけど」
「お前がしくじっったりパニックになったら、ベイカーに呼び出されてるだろう。おれが寝こけてるあいだに帰ってきたんだから、聞かなくたって結果は分かる」
「相変わらず、元気な灰色の脳細胞だな」
すっかり覚醒したバッシュが肘をついて起き上がろうとする気配を察して、エリオットは彼の胴に抱き着きそれを阻むと、腰のあたりをまたいで馬乗りになった。
「試したいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「おれが上になってみるっていうのはどうかな」
バッシュはゆっくりと瞬きをした。まだ夢でも見ているのかと考えているような顔だ。
「あー……お前が、おれをファックするってことか?」
それは考えたことがなかった。
「どう思う?」
言いたいのは別のことだったが、あまりにバッシュが真剣に聞くものだから、ついそう返してしまう。
バッシュは唸りながら片手で額を覆い、少し寝癖のついた髪をかき混ぜていたが、「よし」と決意に満ちた目でエリオットを見上げた。
「いいだろう。だれにでも初めてはある」
本気か? 紳士だな。
「うそだよ。おれはあんたにファックされたい」
肩を揺らして笑うエリオットの鼻を摘まんで、バッシュが「小悪魔め」となじった。
エリオットがほとんど彼の上に寝そべっているような状態なのに、バッシュはリンゴでものっているくらいの反応で、重そうな素振りすら見せない。まったく、うらやましい頑強さだ。
「考えたんだけどさ」
バッシュの横で寝転がりながら、どうして抱きしめたり普通にキスするのは平気で、それ以上になると駄目なのか。なにが違うのか。ようは、自分が「怖い」と感じるポイントがどこなのか、ということを。
「分かったのか?」
「ぜんぜん」
「おい」
「分かんないってことが分かった。最初はさ、『抵抗できない』って、おれが感じる状況がダメなんじゃないか、とも考えたよ。けど平気なときもあったから、結局はタイミングかもしれなくて。だったらもう、試行錯誤するしかないだろ?」
「つまり、いろいろと試して、大丈夫な状態を探そう、と」
「と思って。だから」
「手始めに騎乗位?」
「バカ」
バッシュが納得したところで、エリオットは膝立ちで体を起こす。好奇心と期待、そして冷静さが入り混じるヒスイカズラの瞳を見つめた。
「試していい?」
「あぁ」
手を伸ばし、小さなボタンをバッシュの首元からひとつずつ外す。
「シャツのまま寝るって信じられない」
「パジャマにだってボタンはついてるだろう?」
「だからパジャマは着ない」
すべてのボタンを外し両方の身頃を開くと、エリオットは少し下にさがって、へそ、割れた腹筋のあいだ、そして分厚い筋肉を通してギャロップみたいな鼓動が伝わってくる心臓の上へ、順番にキスをした。
引き締まったバッシュの体はとにかく美しい。ダビデのように完ぺきな均整で、けれど無機質な物体には決して存在しない、血の通った体温と柔らかさ。
エリオットが上腕の内側に見つけたほくろに口付けていると、頭の上でかすかに笑う声がした。
「そろそろ口にもキスしてくれないか、王子さま?」
「せっかちだな」
「あいにく、躾がなってなくてな」
バッシュがゆるく腰を突き上げる。押し付けられたデニムの前はもう硬くなっていた。
しかし彼の状態だけを観察するのはフェアじゃないかもしれない。なぜならエリオットだって、仕立てのいいスラックスの上からでも、欲情の証しが分かるくらいになっているんだから。
「仕方ないな」
伸びあがったエリオットは、口を開けてバッシュの鎖骨に噛みついた。シャツを着てネクタイをしたなら、だれにも見られることのないところ。それから、ようやく唇にたどり着く。
しびれるくらいキスを重ねるころには、エリオットのシャツもスラックスも、靴下まですっかりバッシュの手で脱がされていた。ベッドに横になって、エリオットを体の上に乗せたまま、だ。信じられない。
最後にボクサーのウエストゴムへ指をかけたバッシュが、ふとエリオットを見上げた。
「……お前、口でするのは嫌か?」
「えっと……おれにしてほしいの?」
慎重に聞き返すと、「おれがしたいんだよ」とバッシュが応じる。
まぁ、それなら。
「……大丈夫だと思う」
「本当に?」
「『だれでも初めてはある』だろ?」
「だな」
バッシュが少しずり上がり、枕をふたつ積んで頭を起こした。それから、膝立ちになったエリオットの腿を引き寄せる。ゆるく起ち上がったそれに息がかかり──。
「待って!」
情けない悲鳴を上げていた。すぐにバッシュが口を離す。
「ごめん、あの、大丈夫なんだけど……いや、大丈夫じゃないっていうか……」
「……あぁ」
恐怖でなく、ただ狼狽するエリオットに、バッシュはすぐ状況を理解した。
「早すぎないか?」
「だって、こんな気持ちいいなんて……」
「なら、そのまま気持ちよくなってろ」
無慈悲なバッシュに手も使って愛撫を再開され、熱い唇と舌で溶かされたエリオットは、慌てて木製のベッドボードに両手をついて、崩れ落ちそうになる体を何とか支える。
頭を振ってうなだれると、前後に動くバッシュの唇に自分のものが出たり入ったりするのが見えた。
とんでもなく卑猥な光景に、恥ずかしすぎてとても直視できない。
「んっ……んん……」
いくらもしないうちに湧きあがるものを感じて、後ろへ下がろうとする。それなのにバッシュがさらに奥まで飲み込んでしまうから、エリオットは切羽詰まった声を上げて彼の中に達した。
「さ、さいあく……」
息を弾ませながら両腕で顔を隠すと、ぬらつく唇で内股にキスをされた。バッシュはエリオットの下から抜け出して、ベッドボードに背中を預ける。
「最速だな」
「あんたなんか嫌いだ」
「残念だな、おれは愛してるぞ。──ほら、おいで」
手を軽く引かれ、エリオットは安定感のある胸にくにゃりともたれた。
エリオットを小脇に収めたまま、バッシュがベットサイドのグラスを取って水を飲む。「お前は?」と聞かれて首を振ると、代わりにキスをされた。
エリオットは気だるい疲労の中、六つに分かれた──しかし過剰にごつごつとはしていない──腹筋の滑らかな手触りを楽しんだ。そしてさらに下へと手を滑らせようとして、無粋なデニムに阻まれる。
「これ邪魔」
人差し指をベルトループに引っ掛けて揺らすと、バッシュは少し尻を上げ、蹴るようにしてデニムを脱いだ。
エリオットがごわごわと邪魔な生地を床へ落としている隙に下着も取り去って、ようやくふたりともが生まれたままの姿になる。これは、あの夜以来だ。その続きでもある。
寝返りをしかけて障害物があることに気付き、怪訝な声を漏らしたバッシュが、片方のまぶたを上げてエリオットを見た。
「お前か……悪い、起きて待ってるつもりだったんだが、シャワーを浴びたらつい」
「いいよ。どれくらい寝た?」
バッシュがベッドサイドの時計を見た。五キロはありそうな石の一部に、金の文字盤が埋め込まれている。ミステリー小説の凶器としておあつらえ向きだ。
「三時間くらいだな」
「まだ寝る?」
「いや、もういい。寝すぎると、あしたに差し支えそうだ」
「あした仕事なのか?」
驚いて聞くと、バッシュはエリオットの頬をつついた。
「うまいこと切り抜けてきた誰かさんを、労わってやらなきゃならないからな」
「……まだ何もいってねーけど」
「お前がしくじっったりパニックになったら、ベイカーに呼び出されてるだろう。おれが寝こけてるあいだに帰ってきたんだから、聞かなくたって結果は分かる」
「相変わらず、元気な灰色の脳細胞だな」
すっかり覚醒したバッシュが肘をついて起き上がろうとする気配を察して、エリオットは彼の胴に抱き着きそれを阻むと、腰のあたりをまたいで馬乗りになった。
「試したいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「おれが上になってみるっていうのはどうかな」
バッシュはゆっくりと瞬きをした。まだ夢でも見ているのかと考えているような顔だ。
「あー……お前が、おれをファックするってことか?」
それは考えたことがなかった。
「どう思う?」
言いたいのは別のことだったが、あまりにバッシュが真剣に聞くものだから、ついそう返してしまう。
バッシュは唸りながら片手で額を覆い、少し寝癖のついた髪をかき混ぜていたが、「よし」と決意に満ちた目でエリオットを見上げた。
「いいだろう。だれにでも初めてはある」
本気か? 紳士だな。
「うそだよ。おれはあんたにファックされたい」
肩を揺らして笑うエリオットの鼻を摘まんで、バッシュが「小悪魔め」となじった。
エリオットがほとんど彼の上に寝そべっているような状態なのに、バッシュはリンゴでものっているくらいの反応で、重そうな素振りすら見せない。まったく、うらやましい頑強さだ。
「考えたんだけどさ」
バッシュの横で寝転がりながら、どうして抱きしめたり普通にキスするのは平気で、それ以上になると駄目なのか。なにが違うのか。ようは、自分が「怖い」と感じるポイントがどこなのか、ということを。
「分かったのか?」
「ぜんぜん」
「おい」
「分かんないってことが分かった。最初はさ、『抵抗できない』って、おれが感じる状況がダメなんじゃないか、とも考えたよ。けど平気なときもあったから、結局はタイミングかもしれなくて。だったらもう、試行錯誤するしかないだろ?」
「つまり、いろいろと試して、大丈夫な状態を探そう、と」
「と思って。だから」
「手始めに騎乗位?」
「バカ」
バッシュが納得したところで、エリオットは膝立ちで体を起こす。好奇心と期待、そして冷静さが入り混じるヒスイカズラの瞳を見つめた。
「試していい?」
「あぁ」
手を伸ばし、小さなボタンをバッシュの首元からひとつずつ外す。
「シャツのまま寝るって信じられない」
「パジャマにだってボタンはついてるだろう?」
「だからパジャマは着ない」
すべてのボタンを外し両方の身頃を開くと、エリオットは少し下にさがって、へそ、割れた腹筋のあいだ、そして分厚い筋肉を通してギャロップみたいな鼓動が伝わってくる心臓の上へ、順番にキスをした。
引き締まったバッシュの体はとにかく美しい。ダビデのように完ぺきな均整で、けれど無機質な物体には決して存在しない、血の通った体温と柔らかさ。
エリオットが上腕の内側に見つけたほくろに口付けていると、頭の上でかすかに笑う声がした。
「そろそろ口にもキスしてくれないか、王子さま?」
「せっかちだな」
「あいにく、躾がなってなくてな」
バッシュがゆるく腰を突き上げる。押し付けられたデニムの前はもう硬くなっていた。
しかし彼の状態だけを観察するのはフェアじゃないかもしれない。なぜならエリオットだって、仕立てのいいスラックスの上からでも、欲情の証しが分かるくらいになっているんだから。
「仕方ないな」
伸びあがったエリオットは、口を開けてバッシュの鎖骨に噛みついた。シャツを着てネクタイをしたなら、だれにも見られることのないところ。それから、ようやく唇にたどり着く。
しびれるくらいキスを重ねるころには、エリオットのシャツもスラックスも、靴下まですっかりバッシュの手で脱がされていた。ベッドに横になって、エリオットを体の上に乗せたまま、だ。信じられない。
最後にボクサーのウエストゴムへ指をかけたバッシュが、ふとエリオットを見上げた。
「……お前、口でするのは嫌か?」
「えっと……おれにしてほしいの?」
慎重に聞き返すと、「おれがしたいんだよ」とバッシュが応じる。
まぁ、それなら。
「……大丈夫だと思う」
「本当に?」
「『だれでも初めてはある』だろ?」
「だな」
バッシュが少しずり上がり、枕をふたつ積んで頭を起こした。それから、膝立ちになったエリオットの腿を引き寄せる。ゆるく起ち上がったそれに息がかかり──。
「待って!」
情けない悲鳴を上げていた。すぐにバッシュが口を離す。
「ごめん、あの、大丈夫なんだけど……いや、大丈夫じゃないっていうか……」
「……あぁ」
恐怖でなく、ただ狼狽するエリオットに、バッシュはすぐ状況を理解した。
「早すぎないか?」
「だって、こんな気持ちいいなんて……」
「なら、そのまま気持ちよくなってろ」
無慈悲なバッシュに手も使って愛撫を再開され、熱い唇と舌で溶かされたエリオットは、慌てて木製のベッドボードに両手をついて、崩れ落ちそうになる体を何とか支える。
頭を振ってうなだれると、前後に動くバッシュの唇に自分のものが出たり入ったりするのが見えた。
とんでもなく卑猥な光景に、恥ずかしすぎてとても直視できない。
「んっ……んん……」
いくらもしないうちに湧きあがるものを感じて、後ろへ下がろうとする。それなのにバッシュがさらに奥まで飲み込んでしまうから、エリオットは切羽詰まった声を上げて彼の中に達した。
「さ、さいあく……」
息を弾ませながら両腕で顔を隠すと、ぬらつく唇で内股にキスをされた。バッシュはエリオットの下から抜け出して、ベッドボードに背中を預ける。
「最速だな」
「あんたなんか嫌いだ」
「残念だな、おれは愛してるぞ。──ほら、おいで」
手を軽く引かれ、エリオットは安定感のある胸にくにゃりともたれた。
エリオットを小脇に収めたまま、バッシュがベットサイドのグラスを取って水を飲む。「お前は?」と聞かれて首を振ると、代わりにキスをされた。
エリオットは気だるい疲労の中、六つに分かれた──しかし過剰にごつごつとはしていない──腹筋の滑らかな手触りを楽しんだ。そしてさらに下へと手を滑らせようとして、無粋なデニムに阻まれる。
「これ邪魔」
人差し指をベルトループに引っ掛けて揺らすと、バッシュは少し尻を上げ、蹴るようにしてデニムを脱いだ。
エリオットがごわごわと邪魔な生地を床へ落としている隙に下着も取り去って、ようやくふたりともが生まれたままの姿になる。これは、あの夜以来だ。その続きでもある。
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