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80話 いつもと違う朝

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 庭園の奥まで歩けば、長椅子が置かれている。

 朝の散歩の途中で、甥のカンタールとアディはその長椅子に腰を下ろし、フーアが育てた咲き誇るバラを2人でながめるのが、最近では日課となっていた。

 一番上の甥、セグーロは今は家庭教師と勉強の時間で、末っ子のコールはトルセールとお人形遊びをしている。


「ふうぅ~っ… ふうぅ~っ… 」
<今週に入ってからずっと… 身体は重いし腰が痛くてだるいなぁ… 出産の予定日まで一ヶ月近くあるから、のんびりとしていたけれど…>

 重い身体を引きずるように、のろのろと庭園の半ばまで歩いて来たが…

「アディ兄しゃま! 早く、早くぅ~っ!」

「ふうぅ~っ… ふうぅ~っ… カンタール… ちょっと待ってぇ…」
<カンタールに手を引っ張られて、ここまで何とか歩いて来たけれど…>

 アディは酷い眩暈めまいに襲われ頭がくらくらして、腰が痛くてもう少し歩けば長椅子に座れるとわかっていても、足が重くて動かなくなり… その場でペタリとへたり込んでしまう。

 それどころか、お腹までじわじわと痛くなり…

「嘘っ… まさか、そんなぁ… まだ、早いよぉ~…?!」
<どちらにしても戻らないと… 医療院で診察を受けなくては…>

 腰を上げようとするが、重くて上がらず… お腹が痛いと意識し始めたら増々痛みが強くなり、座っているのも億劫おっくうになって、アディは寝転がるとお腹に手をあてた。

「これはまずい… かも知れない! ああ、どうしよう?!」
<朝、起きた時も痛い気がしたけど… 気のせいだと思っていたら… 段々痛くなってきたよぉ~… ううぅ… 困ったなぁ? どうしよう…>

「お兄しゃま… ねんねするの~?」

「ああ、カンタール… 誰か呼んで来てくれるかなぁ?」

「お兄しゃま~?」

「お腹が、痛い~ 痛い~ なんだぁ… ううっ…!」
<カンタールにはまだ、助けを呼ぶことなんて出来ないかぁ? …ああ! そうか… 呼べば良いのか…!>

「カンタール… 大きなお声で、お母様を呼んで! すごく、すごく大きなお声で! カンタールの大きなお声が聞きたいなぁ~」

 指を耳の穴に差し込み、アディが耳栓みみせんをすると… 嬉しそうにカンタールはニコニコと笑い、小さなこぶしを握って力いっぱい叫んだ。


「おかあしゃまぁぁぁ――――――っ!!!!!」

「おかあ―――しゃまぁぁぁ――――――っ!!!!!」

「すごい、すごい… もっと… カンタール…」


「おかあ―――しゃまぁぁぁ――――――っ!!!!!」

 アディの従者フェイラが飛んで来て…

「これは… 奥様! お気を確かに―――っ…!!」

「助かった… お腹が痛くて動けなくなってね… 医療院に行かないと…」
 そのままアディは目を閉じた。

<ああ… どうしよう… 怖いよぉデスチーノ… デスチーノ…>



 痛みと恐怖で… 誰にもずっと言えなかった弱音を、アディは心の内ではいた。







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