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79話 トルセールの動揺 トルセールside
しおりを挟むちょうどアディが午後のお昼寝に入った頃、オエスチ侯爵がジェレンチ公爵邸に訪れた。
オエスチ侯爵はデスチーノが不在の間、アディとトルセール、そして子供たちの後見役として、何かと面倒を見てくれているのだ。
「まぁオエスチ侯爵様… アディに何かご用でしたか? 彼は少し体調を崩していまして、私で良ければご用件を伺いますが?」
「そうか… いや、トルセールそれは好都…合… いや… 言い方が悪いな…」
いつもは大らかで良く笑う侯爵が、今日は何やら暗い顔をしている。
トルセールはすぐに、ピンッ… と来た。
「デスチーノに何かあったのですか?!」
「ああ、落ち着いて聞いて欲しいのだが… 被害者を救出するのに成功したらしいが、その時にデスチーノが酷いケガを負ったと、彼の部下から昨日、手紙が届いた」
「何てこと!! デスチーノは… デスチーノは無事なのですか?!」
<どうしましょう!! アディの体調が優れないこんな時に!>
「うむ… 一応は手紙では無事だと書いてあったが、よほどあわてていたらしくて、あまり状況の説明が無くてだな… ただ、ケガがとても深いからなるべく早く帰国するという話だ」
「そんな… それだけなのですか? ケガとはどこに負ったのですか?!」
「それもわからないのだ、被害者を助けに入った貴族の邸宅というのが、少し相手が悪くて… つまり大ケガを現地の医者に見せればデスチーノたちが相手の有力貴族に見つかる可能性があって…」
「…その、そのデスチーノの部下の方は、医者の診察を受けさせずに手紙を寄こしたと?」
<お兄様が… そんなお兄様が…?!>
トルセールは自分の身体から、全ての血液が抜けて行くような感覚にとらわれた。
「そうなる!」
「…何てことなの?! …何てことなの?!」
「だから… 覚悟しておいた方が良いかも知れないと、伝えにきたのだが… 今はアディにはこの話を、伝えない方が良いかも知れないな」
「ああ… ああ… オエスチ侯爵様… 私のせいです、私がデスチーノにアディが妊娠しいて、もうすぐ子供が生まれると… アディの手紙と一緒に、こっそり私の手紙を送ったのです」
ぶるぶると震える手でトルセールは胸を押さえた。
そうしていないと、ドキドキとあばら骨の内側で暴れる心臓が、飛び出しそうだったからだ。
「トルセール…」
「それできっと… 兄は動揺して… ケガをしたのかも知れません! アディがあんなに、兄のために、伝えないと言っていたのに… 私が勝手なことをしたから! 私が… 私が…っ!」
「自分を責めるな、トルセール… 君は正しいことをしたのだから」
「ですが…っ!」
「出産は命がけだ、特にオメガの男性は出産時の危険度が増すのは誰でも知っていることだ… 夫なら愛する妻の妊娠を知っていたいはずだ! 勿論、アディが悪いと言っているわけではないが」
「ですが、オエスチ侯爵様…」
「確かにデスチーノは動揺しただろうが、自分が父親になると聞いたのなら、今まで以上に慎重に行動しただろう! 簡単に死ぬわけには行かなくなったのだからな… 私ならそうしたし、あいつも同じに決まっている!」
「はい…」
「今はアディのことを一番優先して考えよう! 我々には他に出来ることは無いし、何より出産はさっきも言ったとおり、命がけだ」
「は… はい… 侯爵様… 申し訳ありません、取り乱したりして…」
あわてて涙をハンカチでぬぐって、トルセールは気持ちを立て直した。
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