黒騎士はオメガの執事を溺愛する

４話 悪夢の始まり４

　せまい屋根裏部屋の小さな自分のベッドに押し倒され、アスカルは必死に伯爵を説得しようとした。

「止めて下さい！！　僕はあなたの息子です…　僕はあなたの子どもです！！　伯爵様、こんなことをしてはいけません！！」

＜この人は僕が自分の息子だと…　本当に分からないの？！　そんな…　信じられない！！　だってお父さんは伯爵に伝えたと言っていたし？！　きっと今は、お酒をいっぱい飲んで酔っているから…　僕のことがわからないのかもしれない！！＞


　当主のレガロ伯爵、リコルは…　若く未熟なオメガを言葉たくみに誘惑し、田舎の領地にある伯爵家の本邸に王都から連れて来ては淫みだらな行為にふけり…　
　連れて来たオメガに飽きて、相手をするのが面倒になると、そのまま黙って自分だけ王都へ戻ってしまう。

　そうやって遊び相手を、田舎の伯爵邸に置き去りにするような、レガロ伯爵リコルは無責任で不誠実な人物だった。

　アスカルの母も貴族に属する未婚のオメガで、伯爵にもてあそばれた末に妊娠し…　伯爵邸で出産した子供を執事ペスカドに託し、姿を消したのだ。

「クッ…　クッ…　クッ…　お前の珍しい藤色の瞳は、あいつにそっくりだな？！　お前の母親が、今どこにいるか知っているか？　クッ…　クッ…　クッ…　オレの上に乗って腰を振っていた奴のことだ！」

　寝衣の下に来ていた下着をビリビリと裂き、アスカルの小さな性器をむきだしにして、伯爵は卑猥ひわいな言葉で侮辱ぶじょくする。

「止めろ―――っ！！　この獣ケダモノ！！　獣！！　獣！！」
＜この男は、僕が自分の子供だと知っていて…　こんなことをっ…？！　＞

　ゾッとして、アスカルの肌に鳥肌が立ち、身体がガタガタと震えだす。

＜嫌だ！！　怖い！！　こんな狂人が…　獣が…　実の父親だなんて！！　嫌だ！！　嫌だ！！　本気でこいつは僕を犯すつもりなんだ？！＞


　本物の獣のように、ハァッ…　ハァッ…　ハァッ…　ハァッ…　と荒々しい息をはき、興奮した伯爵は自分の下衣のボタンを外し、かたく張り詰めた性器を出し、アスカルに見せつけるようにグチュ…　グチュ…　としごいた。

「嫌だ！！　止めろ！！　獣！！　僕に触れるな―――っ！！」

「こいつでお前を、母親と同じように可愛がってやるよ！」

「・・・っ！！」
　アスカルの中でカッ…！　と激しい怒りが渦巻き、部屋中に冷たい風が吹き荒れ…　魔力の塊かたまりが伯爵とアスカルの間に突然生まれ爆発する。

「うわぁっ！！　止め…っ……」
　叫び声をあげながら、とっさに腕で顔を守ろうとした伯爵は、そのままの姿で、ビシッ…！　ビシッ…！　と不穏な音を立て、抵抗するひまも無く凍りついてしまう。




　生れて初めて人を殺し、アスカルの長い長い悪夢が始まった。