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51話 家族の肖像画
しおりを挟むアスカルとグランデが先祖の肖像の間へ着くと、そこには先客がいた。
先代当主リコルにそっくりな容姿のボラーチョが、テーブルにボロボロと粉を落としながらクッキーをかじり、音をたてて紅茶を飲んでいた。
ボラーチョが前日と同じ、ヨレヨレの服装をしていることから、伯爵邸に一泊したらしい。
「・・・・・・」
<この酔っ払い男… 顔の造りはなんとなくグランデ様と似ているのに、持ってる雰囲気がだらしなくて… 雄々しいグランデ様とはまるで違うから、やっぱり兄弟には見えないなぁ…?>
昨夜ボラーチョが引き起こした、酔っぱらった末の暴挙を思い出し、アスカルは男をにらみつけた。
「少しは酒が抜けたようだな?」
ボラーチョから、一番離れた椅子にアスカルをそっと下ろすと、グランデは冷ややかに言い放った。
「私に指図するな!」
先代の非嫡出子ボラーチョはグランデに暴言をはくが… 前日に比べると、明らかに暴言の勢いが無くなっていた。
それどころかボラーチョは… 敵対視するアルファを牽制し、威嚇するための強い圧力をかけるグランデから、視線をそらしたまま、顔を見ようともしなかった。
酒が抜けて、自分が喧嘩を売った相手との力の差を、グランデから正確に読み取れるようになり… 同じアルファとして、体格的にも能力的にも自分の方が劣っていると、ボラーチョは自覚しているのだ。
「どうやら酒が抜けても、頭のおかしさには、変化が見られないようだな! まぁ良い、お前にはついでに教えてやるだけだからな、ありがたく聞けよ!」
嫌そうにグランデはため息をつき、ボラーチョに皮肉を言うと、ちらりとアスカルを見下ろした。
「・・・・・・」
グランデと目が合い、アスカルは暴言をはいたボラーチョをにらみつけるのを止めた。
「アスカル、あの肖像画を見てみろ!」
本邸の肖像の間に飾られた絵よりも、一回りサイズが小さいが、レガロ伯爵家の先祖たちを描いた肖像画が、壁にびっしりと飾られていたが…
一枚だけ床の上へじかに置き、壁に立てかけてあった絵を、グランデは指差した。
「家族の肖像画ですね…?」
レガロ伯爵家の当主に共通する、深紅の瞳に漆黒の黒髪のアルファ男性と、その隣には妻らしいオメガ女性が、威厳を漂わせて椅子に座り… 夫妻の背後には、10代後半に見えるアルファの息子2人が立っていた。
「長い間、美術品倉庫の奥に隠してあった物を… オレが爵位を継承した時に、この伯爵家に昔から仕えて来たメイド長が、出してくれたんだ」
「なるほど――… あっ! 似てる!?」
グランデの説明を聞きながら、家族の肖像画をながめていると… 伯爵夫妻らしい、男女の後ろに立つ息子2人の顔が、グランデとボラーチョにそっくりだと気づいた。
思わず肖像画の少年2人と、グランデとボラーチョを… アスカルは視線を動かし見比べた。
「これは先々代伯爵夫妻… つまりオレの祖父母と、ボラーチョの父親で長男リコルと、オレの父親で次男レクトの絵だ」
「次男?! グランデ様のお父様は次男ですか?!」
「ああ、伯爵家直系筋でも瞳の色がより深紅に近い者の方が、魔力が強く出るから、祖父が次期当主に選んだのは次男のレクト、オレの父親だった」
「そんな話、初めて聞いた! 先代の兄弟が、早くに亡くなったことは聞いたことがあるけれど…」
肖像画をまじまじと見ると、先代の長男リコルは母親に似て瞳の色が深紅ではなく、赤茶色で… 髪は漆黒ではなく茶色だった。
ボラーチョもリコルと同じ、瞳と髪色を持っていた。
そして次男レクトは、グランデや先々代伯爵と共通する深紅の瞳に、漆黒の髪だ。
「グランデ様… これは…」
「だが、父は成人前に死んだ… 酒を飲んで馬に乗り、崖から馬ごと落ちて…」
「そんなっ…!」
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