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63話 娼館の治療室2
しおりを挟む娼館の治療室で渋い顔で治療を受ける、口が重いグランデに代わり…
治療師のプロプエスタが、自分が知る黒騎士団の事情を、包み隠さずアスカルに語った。
「つまりグランデ様は、入団当初から、治療を受けたことがないと?!」
「そうなんだよ、奥さん… 騎士団付きの治療師たちはみんな、爵位持ちの貴族だから、変にプライドが高くてね、グランデがいくら手柄を立てても、見下すことを止めないんだ… そんな奴らだから、へたに治療を受けると半端な治癒魔法を嫌がらせでかけられて、グランデはケガを長引かせることになり、かえって苦しむことになるんだ」
グランデが信頼する貴族出身の部下たちも、同列に扱われ、同じ嫌がらせを受けている。
「騎士団付きの治療師が信用できないから、グランデ様はケガを我慢して、プロプエスタ様の治療を受けに来るのですね?」
「そんなことをやる奴らが、高い報酬を騎士団から受け取っていると思うと、本当に腹が立つよ!」
「グランデ様… そのことを王太子殿下に、相談されたりはしたのですか?」
渋い顔で治療を受けるグランデ以上に、渋い顔をするアスカルがたずねた。
「もちろんしたが… 不完全な治癒魔法かどうかは、魔法をかけた治療師本人と、治療を受けたオレにしか分からないから… つまり上手く証明できないから、王太子殿下も手が出せないのさ」
諦めを含んだ口調のグランデは、ため息をつく。
「なんて、くだらない!」
<魔王討伐が近い未来に迫っているというのに、こんな低次元の嫌がらせで、騎士団長のグランデ様の、気力を削るようなことをするなんて… 絶対に許せない!!>
ギリギリと歯ぎしりをするアスカルの腕を、プロプエスタがとんっ… とんっ… とたたいた。
「だからね奥さん、前からグランデに専属の治療師を雇えと、提案しているんだよ」
「専属の治療師?」
ハッ… とアスカルはプロプエスタの顔を見る
「だが、プロプエスタ… それは以前、試したがオレに雇われるような治療師がいなかっただろう?」
グランデが口をはさむ。
「それはあんたが、オメガの治療師にすれば良いのに、アルファの治療師を雇おうとするからさ!」
自分たちが貴重な存在だと自覚するアルファの治療師たちは、平民上がりのグランデに雇われれば、自分の価値が下がると相手にしないのだ。
「オメガが家の外で働くのは、“下品” “ふしだら” と言われるこの国で、見つけられるとは思えない… あんたのように開業できるオメガなんて例外なんだ!」
アルファ優位のお国柄である。
貴族でもオメガの場合は、良い子を産むための道具のような存在と位置付けられ… 大切に扱われるが、意志を尊重されることも無く、良い子供を産む以外の能力は、あまり求められない。
「・・・・・・」
アスカルは顔を強張らせた。
“下品” “ふしだら” オメガが働こうとすると、貴族の常識ではそうなる。
田舎で育った平民出身のアスカルは、オメガの身でも執事として真面目に働くことで、信頼を勝ち取り、あまり影響は受けなかったが…
多くの貴族が集まり暮らす王都では、アスカルが学んだ田舎の理屈は通用しないのだ。
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