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番外編
ヒルデガルダ(後)
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魔の森の入口にヒルデガルダはギリング辺境伯夫妻と転移した。
ギリング辺境伯夫妻は自分達が魔の森の内側の入口にいると理解した途端に悲鳴をあげる。
そんな二人の悲鳴など聞こえていないかのようにヒルデガルダは角度によっては色が変化する黒い雫型のペンダントを取り出した。
「チュール。」
ペンダントに呼びかけると空間に割れ目が出来、そこから漆黒の翼を持つ体長50cmの竜が現れた。
「呼んだか。」
「うん、こいつらを置いて行くから死なないように見てて。」
チュールと呼ばれた嘗ての邪竜は緑の目で、腰を抜かしているギリング辺境伯夫妻を一瞥しただけで、ヒルデガルダの首元に己の頭を擦り付ける。
「ヒルダ、気が昂りすぎている。
こいつらが原因なら我が始末してやる。」
「殺すのは駄目。
まだ使い道があるんだから。
わたしが戻るまでこいつらと遊んでて。」
チュールは拗ねたようにヒルデガルダの首を甘噛みする。
「わかった。
でも次はヒルダが我と遊べ。」
甘噛みして薄ら赤くなった所を舐めながら強請る。
「わたしが戻るまでちゃんと二人が生きてたら遊んであげる。」
ヒルデガルダはあやす様に黒い背中を撫でる。
チュールのおかげで怒りに支配されていた感情が少しだけ静まる。
あの屑共はチュールに任せて再びギリング辺境伯邸に転移した。
* * *
「ヒルデガルダの望みだ。
我と遊ぶぞ。」
元の大きさに戻ったチュールはギリング夫妻をつまらなさそうに見やる。
ギリング夫妻は本能を恐怖に支配されガタガタと震えながらも誘導されるように森の奥に逃げる。
魔の森の頂点に立つ王は主に褒められる為に逃げる男女の後を追った。
* * * *
「待たせてごめん。」
ギリング辺境伯邸に戻り廊下で座り込んで肖像画を抱きしめながら涙を流すミーミルに寄り添う。
ーーー断罪2日前。
魔の森での戦闘で負った傷も完治し、学園から帰ってきた所をミーミルに呼び止められた。
ミーミルがこの邸に引き取られてから、初めての接触にヒルデガルダは内心訝しんだ。
表面的にはヒルデガルダは婚約者を奪われた側でミーミルが奪った側だ。
そんなミーミルがヒルデガルダになんの用があるのか?
「ヒルデガルダ様、少しお時間を頂けませんか?
お話したい事があります。」
ミーミルは緊張した硬い表情で言ってきたが、ヒルデガルダはミーミルの話を聞く気など欠片もなかった。
「わたくし、忙しいの。
お話したければバルドル様となさったら。
わたくしよりも仲がよろしいようですし。」
ミーミルは嫌味にも怯まず部屋に入るヒルデガルダの腕を強く握り小声で訴えてきた。
「バルドル様は明後日の学年終了パーティで貴女との婚約を破棄するつもりです。
そして私をバルドル殿下の婚約者に据えると仰っていました。」
ヒルデガルダはミーミルの言葉に動揺した。
バルドルが断罪行動にでるとはわかっていたが、それをヒルデガルダに告げるミーミルの意図がわからなかった。
「何を言ってるの?
そんな事出来るわけないじゃない。」
違う!こんな事が言いたいんじゃない。
ヒルデガルダの心の焦りを他所にミーミルはなおも話を続ける。
「私と話したくないお気持ちはわかっています。
ですがこのままではヒルデガルダ様がギリング辺境伯家からも除籍されてしまいます!」
ヒルデガルダは何故ミーミルが己に忠告するのか解らなかったが、ここではマリオネットソリッドに縛られて何も出来ない。
それに誰が聞いているかわからない場所でする話でもない。
掴まれていた腕を振り払って部屋に入り鍵をかけ、漆黒の塔に繋がる魔術陣で転移する。
魔道具制作室〈虚無の間〉に行き、ヨルズノートにミーミルを漆黒の塔に連れてきてくれるように頼んだ。
ミーミルの態度からゲームを知らないか、知っていても加担していないかもしれない可能性がある。
フレイヤや師匠達にも集まってもらい、ミーミルを連れて来たヨルズノートと応接室に行く。
ミーミルはヨルズノートとヒルデガルダの変化や漆黒の塔の権力者を前に動揺と緊張で最初はしどろもどろだった。
ミーミルの話によるとミーミルの両親ーギリング辺境伯の弟夫妻の事故は故意に起こった事件で、ミーミルはギリング辺境伯の関与を疑い、両親の葬儀で引き取ると言われて手がかりを求めついて行った。
それから王妃と面談しバルドルを紹介され望むように行動したが、昨日バルドルから断罪の話を聞かされたと言う。
ミーミルはスカートを握りしめヒルデガルダを見つめる。
「本来なら婚約している男性に擦り寄った私が断罪されるべきです。
なのにヒルデガルダ様に罪があると当たり前のように言うなどおかしい!」
「だからわたしにあんな忠告を?
バレたら貴女の身が危うくなるのに?」
ヒルデガルダの疑問にミーミルは暗い表情で歪に笑う。
「両親を死の真相が掴めるならと、ヒルデガルダ様の婚約者であるバルドル殿下と親密になりました。
それでヒルデガルダ様を傷つけるとわかっていても⋯」
悲痛な表情で言っているがヒルデガルダはバルドルなどなんとも思っていない。
ミーミルの態度や話の内容から彼女は【未来視】ではないと確信する。
「両親の仇が打てるならこの身などどうなっても構いませんでしたし、ヒルデガルダ様が望むならどんな償いでもするつもりでした。
それなのにあんな計画をするなんてっ!」
ミーミルは己の行動がどれほど不道徳か知っていた。
知っていても両親を死に追いやった者を白日のもとに晒す為になりふり構っていられなかったのだろう。
それほど両親を愛していたのだ。
ーー己が身を犠牲にしても。
そんなミーミルでもヒルデガルダが受ける仕打ちは許容出来ず、両親の仇を打つよりもヒルデガルダを案じて密告した。
ミーミルの告白にフレイヤは痛ましそうな表情になり、ヨルズノートはボロボロと泣いていた。
師匠達はミーミルの話に虚偽や思惑がないか厳しい表情でミーミルを見据えている。
ヒルデガルダ達はゲームの強制力がないと判明してから、不眠不休であらゆる事を調べ、その中でミーミルの両親の死の真相もほぼ掴めていた。
断罪後にミーミルのした事に関係なくその件も追求するつもりでいた。
だがヒルデガルダは掴んだ時点でミーミルに告げるべきだったと後悔した。
愛する家族を突然失ったミーミルを少しも思いやれず、彼女をただの略奪女だと決めつけていた。
この世界がゲームの世界ではないと思っていたのに⋯
ミーミルの告白の後、ミーミルを信じて、【千里眼】やマリオネットマインドの呪縛や断罪を知って反撃の準備をしていると全て話した。
そしてミーミルにパーティでは王妃の望み通りバルドルのパートナーとしてパーティに参加して欲しいと頼んだ。
一度は捕まるが助け出し、両親殺害の犯人に罪の報いを受けさせると約束した。
約束通り王妃や屑親に相応の罰を与えるが、家族の肖像画を抱きしめてとめどなく涙を流すミーミルに罪悪感が湧いてくる。
嫌悪感しかないがミーミルの両親を殺したのは己が親だ。
ミーミルの心情を思えばヒルデガルダに対しても何かしらの蟠りがあるだろう。
「ミーミルの両親の事件に関係した奴らに復讐したいなら手を貸す。
私にも何か思うところがあるでしょう?」
あんな屑親の尻拭いなど真っ平御免だが、被害者のミーミルからすれば加害者の娘だ。
割り切れないだろうと思った。
ミーミルは袖で涙を拭いヒルデガルダを見た。
「ありがとうございます、ヒルデガルダ様。
私一人では両親を殺した犯人を糾弾できなかったでしょう。
ヒルデガルダ様や漆黒の塔の方々のお陰です。」
怒りや悲しみを押し殺し、これ以上泣くまいと瞳に力を入れて感謝の言葉を紡ぐ。
「私がヒルデガルダ様に行った数々の非礼をお詫び致します。
もう心残りはありません。
ヒルデガルダ様が望まれるように如何様にもなさって下さい。」
⋯真面目だ。
ヒルデガルダは決意を宿したミーミルを呆然と見ながら思った。
元来真面目で優しい真っ当な思考の持ち主だったのだろう。
両親の死がなければーそれが他殺でなければーミーミルはあんな事をするような子ではないはずだ。
ヒルデガルダは屑親と元凶の王妃を切り刻んでやりたくなった。
「貴女は何も悪くない。
わたしだって呪縛されていたとはいえ、貴女の気持ちを慮らず酷い態度だった。」
ミーミルから見れば両親の仇の娘で、家族を失った従姉妹を思いやるでもなく遊び歩いていた馬鹿女に映っていたはずだ。
「何を仰るのですか?!
ヒルデガルダ様は私の恩人です!」
ヒルデガルダの罪悪感を伴った後悔の言葉に強い否定で返してきた。
「えっ?」
「あのような呪縛にかかりながらも抗い魔剣主になられました!
そして私の両親の仇もうってくださいました!!」
「いや、断罪はフレイヤとヨルズノートと一緒に⋯」
「ええ、ですがあの腰巾着脳筋馬鹿を一瞬で叩きのめし、精鋭と名高い近衛騎士数十人を10分も掛からず戦闘不能にしたヒルデガルダ様のご活躍は素晴らしかった!」
この流れは不味い。
ヒルデガルダは漆黒の塔で己に叩きのめされても喜んで再戦したがる戦闘馬鹿達を思い出させる。
ミーミルは違う。
大人しく本が好きな清楚な女性だ。
一緒にしてはいけない。
「ご両親の事も自分達の為に調査していたら、出てきただけで⋯」
我に返って欲しい!
「存じております!
ですが先程私を優しく包み込んであの二人を魔力で制圧し断罪したお姿は光輝いておりました!!」
そんな輝き方はしたくないし、そう言ったミーミルの方が光の魔力で輝いている。
優しく包み込むもなにも肩を抱いただけだ。
思考までイッてしまったミーミルにどう言えばわかってもらえるのかヒルデガルダにはわからない。
「私ミーミルはヒルデガルダ様に一生ついて行きます!」
同じ騎士なら正気になるまで殴り飛ばすが、真面目で義理堅い淑やかなミーミルをお巫山戯にも叩くなどできないーーー
ヒルデガルダは大人しいと思っていた従姉妹に脅威を感じた。
ギリング辺境伯夫妻は自分達が魔の森の内側の入口にいると理解した途端に悲鳴をあげる。
そんな二人の悲鳴など聞こえていないかのようにヒルデガルダは角度によっては色が変化する黒い雫型のペンダントを取り出した。
「チュール。」
ペンダントに呼びかけると空間に割れ目が出来、そこから漆黒の翼を持つ体長50cmの竜が現れた。
「呼んだか。」
「うん、こいつらを置いて行くから死なないように見てて。」
チュールと呼ばれた嘗ての邪竜は緑の目で、腰を抜かしているギリング辺境伯夫妻を一瞥しただけで、ヒルデガルダの首元に己の頭を擦り付ける。
「ヒルダ、気が昂りすぎている。
こいつらが原因なら我が始末してやる。」
「殺すのは駄目。
まだ使い道があるんだから。
わたしが戻るまでこいつらと遊んでて。」
チュールは拗ねたようにヒルデガルダの首を甘噛みする。
「わかった。
でも次はヒルダが我と遊べ。」
甘噛みして薄ら赤くなった所を舐めながら強請る。
「わたしが戻るまでちゃんと二人が生きてたら遊んであげる。」
ヒルデガルダはあやす様に黒い背中を撫でる。
チュールのおかげで怒りに支配されていた感情が少しだけ静まる。
あの屑共はチュールに任せて再びギリング辺境伯邸に転移した。
* * *
「ヒルデガルダの望みだ。
我と遊ぶぞ。」
元の大きさに戻ったチュールはギリング夫妻をつまらなさそうに見やる。
ギリング夫妻は本能を恐怖に支配されガタガタと震えながらも誘導されるように森の奥に逃げる。
魔の森の頂点に立つ王は主に褒められる為に逃げる男女の後を追った。
* * * *
「待たせてごめん。」
ギリング辺境伯邸に戻り廊下で座り込んで肖像画を抱きしめながら涙を流すミーミルに寄り添う。
ーーー断罪2日前。
魔の森での戦闘で負った傷も完治し、学園から帰ってきた所をミーミルに呼び止められた。
ミーミルがこの邸に引き取られてから、初めての接触にヒルデガルダは内心訝しんだ。
表面的にはヒルデガルダは婚約者を奪われた側でミーミルが奪った側だ。
そんなミーミルがヒルデガルダになんの用があるのか?
「ヒルデガルダ様、少しお時間を頂けませんか?
お話したい事があります。」
ミーミルは緊張した硬い表情で言ってきたが、ヒルデガルダはミーミルの話を聞く気など欠片もなかった。
「わたくし、忙しいの。
お話したければバルドル様となさったら。
わたくしよりも仲がよろしいようですし。」
ミーミルは嫌味にも怯まず部屋に入るヒルデガルダの腕を強く握り小声で訴えてきた。
「バルドル様は明後日の学年終了パーティで貴女との婚約を破棄するつもりです。
そして私をバルドル殿下の婚約者に据えると仰っていました。」
ヒルデガルダはミーミルの言葉に動揺した。
バルドルが断罪行動にでるとはわかっていたが、それをヒルデガルダに告げるミーミルの意図がわからなかった。
「何を言ってるの?
そんな事出来るわけないじゃない。」
違う!こんな事が言いたいんじゃない。
ヒルデガルダの心の焦りを他所にミーミルはなおも話を続ける。
「私と話したくないお気持ちはわかっています。
ですがこのままではヒルデガルダ様がギリング辺境伯家からも除籍されてしまいます!」
ヒルデガルダは何故ミーミルが己に忠告するのか解らなかったが、ここではマリオネットソリッドに縛られて何も出来ない。
それに誰が聞いているかわからない場所でする話でもない。
掴まれていた腕を振り払って部屋に入り鍵をかけ、漆黒の塔に繋がる魔術陣で転移する。
魔道具制作室〈虚無の間〉に行き、ヨルズノートにミーミルを漆黒の塔に連れてきてくれるように頼んだ。
ミーミルの態度からゲームを知らないか、知っていても加担していないかもしれない可能性がある。
フレイヤや師匠達にも集まってもらい、ミーミルを連れて来たヨルズノートと応接室に行く。
ミーミルはヨルズノートとヒルデガルダの変化や漆黒の塔の権力者を前に動揺と緊張で最初はしどろもどろだった。
ミーミルの話によるとミーミルの両親ーギリング辺境伯の弟夫妻の事故は故意に起こった事件で、ミーミルはギリング辺境伯の関与を疑い、両親の葬儀で引き取ると言われて手がかりを求めついて行った。
それから王妃と面談しバルドルを紹介され望むように行動したが、昨日バルドルから断罪の話を聞かされたと言う。
ミーミルはスカートを握りしめヒルデガルダを見つめる。
「本来なら婚約している男性に擦り寄った私が断罪されるべきです。
なのにヒルデガルダ様に罪があると当たり前のように言うなどおかしい!」
「だからわたしにあんな忠告を?
バレたら貴女の身が危うくなるのに?」
ヒルデガルダの疑問にミーミルは暗い表情で歪に笑う。
「両親を死の真相が掴めるならと、ヒルデガルダ様の婚約者であるバルドル殿下と親密になりました。
それでヒルデガルダ様を傷つけるとわかっていても⋯」
悲痛な表情で言っているがヒルデガルダはバルドルなどなんとも思っていない。
ミーミルの態度や話の内容から彼女は【未来視】ではないと確信する。
「両親の仇が打てるならこの身などどうなっても構いませんでしたし、ヒルデガルダ様が望むならどんな償いでもするつもりでした。
それなのにあんな計画をするなんてっ!」
ミーミルは己の行動がどれほど不道徳か知っていた。
知っていても両親を死に追いやった者を白日のもとに晒す為になりふり構っていられなかったのだろう。
それほど両親を愛していたのだ。
ーー己が身を犠牲にしても。
そんなミーミルでもヒルデガルダが受ける仕打ちは許容出来ず、両親の仇を打つよりもヒルデガルダを案じて密告した。
ミーミルの告白にフレイヤは痛ましそうな表情になり、ヨルズノートはボロボロと泣いていた。
師匠達はミーミルの話に虚偽や思惑がないか厳しい表情でミーミルを見据えている。
ヒルデガルダ達はゲームの強制力がないと判明してから、不眠不休であらゆる事を調べ、その中でミーミルの両親の死の真相もほぼ掴めていた。
断罪後にミーミルのした事に関係なくその件も追求するつもりでいた。
だがヒルデガルダは掴んだ時点でミーミルに告げるべきだったと後悔した。
愛する家族を突然失ったミーミルを少しも思いやれず、彼女をただの略奪女だと決めつけていた。
この世界がゲームの世界ではないと思っていたのに⋯
ミーミルの告白の後、ミーミルを信じて、【千里眼】やマリオネットマインドの呪縛や断罪を知って反撃の準備をしていると全て話した。
そしてミーミルにパーティでは王妃の望み通りバルドルのパートナーとしてパーティに参加して欲しいと頼んだ。
一度は捕まるが助け出し、両親殺害の犯人に罪の報いを受けさせると約束した。
約束通り王妃や屑親に相応の罰を与えるが、家族の肖像画を抱きしめてとめどなく涙を流すミーミルに罪悪感が湧いてくる。
嫌悪感しかないがミーミルの両親を殺したのは己が親だ。
ミーミルの心情を思えばヒルデガルダに対しても何かしらの蟠りがあるだろう。
「ミーミルの両親の事件に関係した奴らに復讐したいなら手を貸す。
私にも何か思うところがあるでしょう?」
あんな屑親の尻拭いなど真っ平御免だが、被害者のミーミルからすれば加害者の娘だ。
割り切れないだろうと思った。
ミーミルは袖で涙を拭いヒルデガルダを見た。
「ありがとうございます、ヒルデガルダ様。
私一人では両親を殺した犯人を糾弾できなかったでしょう。
ヒルデガルダ様や漆黒の塔の方々のお陰です。」
怒りや悲しみを押し殺し、これ以上泣くまいと瞳に力を入れて感謝の言葉を紡ぐ。
「私がヒルデガルダ様に行った数々の非礼をお詫び致します。
もう心残りはありません。
ヒルデガルダ様が望まれるように如何様にもなさって下さい。」
⋯真面目だ。
ヒルデガルダは決意を宿したミーミルを呆然と見ながら思った。
元来真面目で優しい真っ当な思考の持ち主だったのだろう。
両親の死がなければーそれが他殺でなければーミーミルはあんな事をするような子ではないはずだ。
ヒルデガルダは屑親と元凶の王妃を切り刻んでやりたくなった。
「貴女は何も悪くない。
わたしだって呪縛されていたとはいえ、貴女の気持ちを慮らず酷い態度だった。」
ミーミルから見れば両親の仇の娘で、家族を失った従姉妹を思いやるでもなく遊び歩いていた馬鹿女に映っていたはずだ。
「何を仰るのですか?!
ヒルデガルダ様は私の恩人です!」
ヒルデガルダの罪悪感を伴った後悔の言葉に強い否定で返してきた。
「えっ?」
「あのような呪縛にかかりながらも抗い魔剣主になられました!
そして私の両親の仇もうってくださいました!!」
「いや、断罪はフレイヤとヨルズノートと一緒に⋯」
「ええ、ですがあの腰巾着脳筋馬鹿を一瞬で叩きのめし、精鋭と名高い近衛騎士数十人を10分も掛からず戦闘不能にしたヒルデガルダ様のご活躍は素晴らしかった!」
この流れは不味い。
ヒルデガルダは漆黒の塔で己に叩きのめされても喜んで再戦したがる戦闘馬鹿達を思い出させる。
ミーミルは違う。
大人しく本が好きな清楚な女性だ。
一緒にしてはいけない。
「ご両親の事も自分達の為に調査していたら、出てきただけで⋯」
我に返って欲しい!
「存じております!
ですが先程私を優しく包み込んであの二人を魔力で制圧し断罪したお姿は光輝いておりました!!」
そんな輝き方はしたくないし、そう言ったミーミルの方が光の魔力で輝いている。
優しく包み込むもなにも肩を抱いただけだ。
思考までイッてしまったミーミルにどう言えばわかってもらえるのかヒルデガルダにはわからない。
「私ミーミルはヒルデガルダ様に一生ついて行きます!」
同じ騎士なら正気になるまで殴り飛ばすが、真面目で義理堅い淑やかなミーミルをお巫山戯にも叩くなどできないーーー
ヒルデガルダは大人しいと思っていた従姉妹に脅威を感じた。
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みんなの感想(8件)
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フレイヤが目指していたのがフレイヤの5話では魔術師、ヒルデガルダの2話では魔法師となっています。
フレイヤの5話で「三人とも下から二番目の地位を目指す」とあるので魔法師の方が正しいと思いますが…。
初花草子様、ご指摘ありがとうございます<(_ _*)>
うっかりミスしてしまいました〜( ̄▽ ̄;)
読み始めましたが設定が面白いのと主人公がひとりじゃないのも楽しくて読んでいます。
フレイヤの6話ですが、ヒルデガルダに言われた言葉をフリッグにも。。とあるんですが、フリッグさん。どちら様でしょう?
登場人物ページがあるといいなーと思いました。
続き読んできますー
感想ありがとうございます
m(*_ _)m
フリッグはヨルズノートの事です("Д"💦)
最初の設定でフリッグにしてたのですが、役柄に合わせてヨルズノートに改名した時に書き直し漏れが…( ̄∇ ̄*)ゞ
ご指摘感謝(ㅅ´꒳` )
前世?での方言が出てなければ良いお話だと思います。
感想ありがとうございます
(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
励みになります!
関西弁はこの物語には不要だったかな( >_< )
世界観に壊さないように精進します(‘-’*ゞ