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側にいられない

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「罰なんて、わたしは……」

 当主に掛け合い助けてくれた四鬼さんの行動は有り難い。気持ちは嬉しい。

「容姿端麗、頭脳明晰、四鬼家の御曹司。あの方は人から見れば大変恵まれているでしょうが、実際は孤独で寂しいのです。当主を始めとし、母親や数多の女性も本当の彼を愛してはくれなかった」

 先生が淡々と語る。下手な感情を込めないことで真実味は増す。

「自分を愛してくれる約束の花嫁の存在がどれ程、千秋様を勇気付けたでしょう。私も一応花婿候補ですが、千秋様のようには振る舞えません」

「……屋上ってどう行けばいいんですか?」

 こういう切り返しをすると、いい子いい子と撫でられる。

「病室を出たら突き当りまで歩き、左に。階段があるので最上階まで上ってください。見回りの看護師が居ますので見付からないように」

それとーー言いながら先生が白衣を脱いで、わたしに掛けた。

「夜風が冷たいです。大きいと思いますが羽織って下さい」

「ありがとう、ございます。柊先生は優しいですね」

「千秋様に? それとも浅見さんに? どちらに対して言ってますか?」

「両方です」

 白衣に袖を通せば先生の甘い香りに包まれる。優しいと言われた先生が眉を上げ、曖昧な笑みを作った。

「残念ですが、私はちっとも優しくなどありません。漁夫の利を狙う悪い鬼ですよ。千秋様、それと夏目君が嫌になったら、どうぞ私の元へ来てください。青臭い正義感ではなく大人の包容力をご覧にいれます」

「はは、青臭いって」

「激しく恋い焦がれるのだけが恋愛ではない。程よい距離感を保ち、互いを尊重し合うのもいいでしょう?」

 図星をつかれ、照れているのかもしれない。わたしもそれ以上は言わず、部屋を出ることにした。

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