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2巻

2-2

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 あっという間に一夜が明けた。
 俺が起き上がると、ノヴァが顔をしかめながらカーテンを開けていた。

「ここはにおってかなわんの。生活の違いか……長居はできんな」

 どうやら無駄に鼻が利くから、普段いる獣人の国との臭いの違いで気分が悪くなったらしい。
 そんな不機嫌そうな顔を朝から見せないでほしいものだ。

「ババア、無理すんな。書簡を渡したら、さっさと帰りな」
「ほう、其方そなたのような手のかかる子供を置いて帰れば、監督不行き届きで妾が罰を受けるのじゃが……それを知っての提案か?」
「お前ら、朝からうるさいぞ!」

 俺とノヴァが言い合っていると、一番のぐうたらがようやく起き出した。
 仮にも偵察中なのに、その相手国のど真ん中でグースカ眠れるなんて、才能だな。

「シリス、お前頭すごいことになってるぞ?」
「今そこはカンケーねえだろ?」
「周囲の視線が全部お前に向いてもいいなら、俺は何も言わねえよ」
「マジ? そんなにやばいのか。なぁ、そんなにやばいのかよぉ!」
「ったく、お主らは緊張感のカケラもない……」

 そう言ってノヴァは着物のそでからくしを取り出して、シリスの髪をいている。
 最初は暴発したままだったが、櫛に謎の妖力ようりょくを纏わせたノヴァが無理やり形を整えて、ついには毛根の方が従わされた。
 相変わらず奇妙な能力だな。
 部屋から食堂に移動したところで、ノヴァが狐耳をピンと立てた。

「む、この気配は……?」
「どしたー、ノヴァ?」
「お主らは気づかんか? 周囲とはまるで違う気配。これは噂の勇者とやらの気配ではないか?」

 一人あわてるノヴァに、俺とシリスは顔を見合わせた。
 ノヴァは生粋きっすいの獣人で、動物的直感が一般人と比べて数十倍もひいでている。
 今は半分人の形態を取っているが、それもこの街に侵入するための手段に過ぎない。
 なんでも、ノヴァがいる国では、半獣は弱者の証明と言われているぐらい。
 それはともかく……勇者の気配か。しかもこのノヴァが強者と認めるような反応をしている。
 この国に来てから肩透かしを食らいっぱなしだった俺としては、少しワクワクする状況になってきたな。
 俄然がぜんやる気が出てきた。

「反応は二つじゃな。お主らと同じ勇者なら、単独行動はひかえとるはずじゃが……なぜ少人数で?」
「勇者とかじゃなくて、普通にそれなりに戦える冒険者という可能性は?」
「それはないな。勇者を抜きにすれば、グルストンはどの国にも最弱だと思われる戦力じゃ。ゆえに我らが本来気にするほどではなかったわけじゃな」
「その認識がひっくり返ったのが、先日のドラゴン討伐の一件ってことか」

 龍。俺が元いた世界じゃ空想の産物だが、こちらの世界では実在する脅威きょういだ。
 出会ったら逃げろ、決して相手にするなと、誰もが口を揃える。
 だがそんな存在を、あろうことかこの国の人間が倒したという報告があったのだ。
 眉唾まゆつばも良いところだが……
 俺らの目的は、この国の勇者がどの程度のレベルか、実際はどのラインにいるか、その目で見定めるというものだ。

「龍と聞けば、ドラグネスを想定する。ともすれば、街全体が戦火に包まれてもおかしくない。だがどうじゃ、この国の落ち着き具合は。敵国が攻め入って来たとは思えないじゃろう」

 たしかに落ち着いている。
 だが、それだけ強力な戦力を獲得したんだったら、安心しきっているのも不思議じゃない。

「なら勇者が強かったってだけじゃないのか?」
「そう思ったんじゃが……だったら我らを見ておびえたりはしないじゃろう。うちにはもっと強い勇者がついてるんだ! そういった自信が自然とみなぎっていてもおかしくない。ドラゴン討伐があったにしては、全然騒ぎにもなっておらんし。どうにもちぐはぐなんじゃ」

 この街に来るまでノヴァの威圧に怯えていた連中を思い出して、俺はうなった。

「じゃあドラゴン討伐はデマなのか?」
「そうとも思えんのじゃがな……」
「あぁ! まどろっこしいな! それを調べるためには、喧嘩をふっかけたほうが早いってことだろ。いくぞ、知ってそうなやつから情報を引き出してやればいい」
「じゃからそう事をくな」

 俺とノヴァが会話を続けていると、シリスが割り込む。

「お前らー、飯いらねーの? アタシ一人で全部食っちまうぞー?」

 一足先に食いしん坊のシリスが食事に手を付けていた。

「いったん、話し合いは終わりだ。ウチのクソガキが腹ペコだからな。お前もこっちの飯はイケるんだろ、ノヴァ?」
「少しはな。しかし求める食事には遠く至らぬものよ」
「ったく、贅沢ぜいたくな悩みだぜ? 食うのに困ったことがないからそんな悩みを抱くんだぜ?」

 若干気乗りしないまま食事するノヴァと対照的にガツガツ食べ進めるシリスを見て、俺はため息を吐いた。

「おい、シリス。俺たちの分くらい残しておけよな?」
「アタシは育ち盛りなんだぜ? そいつは無理な相談ってやつだ」

 ああ言えば、こう言う。全く誰に似たのやら。
 俺も少し腹に入れておくかと残りものを腹に収めた。



 2 獣人との邂逅かいこう


「ん、この感じは?」

 城のダンジョンでモンスターを狩る訓練――通称ダンジョンアタックを終えたオレたちは、冒険者ギルドに向かう途中で妙な気配を察知した。

「水野君、あの時のドラゴンのような強力な気配がしない?」

 一緒に行動している姫乃さんも何かを察知したようで、オレにそう聞いた。
 彼女はオレより感知能力が優れていて、頼りになる存在だ。

「うん、けど抑えてる感じがあるよね? 手練てだれかな?」
「また敵国の侵入者がやって来たのかしら?」

 この前ドラグネスと戦ったばかりで、また敵国との争いは勘弁してほしいな。
 特に阿久津君がいない時に襲撃されるのは、きついな。
 今阿久津君たちは港町サーバマグへと素材を調達しに行っているところだ。
 おそらく昨日オレがとってきたジャイアントクラブの獲得に奮闘していることだろう。
 昨日作ったカニクリームコロッケが絶品で、クラスメイトだけでなく、王城の人たちにも好評だったのだ。
 そして料理人たちからは、ぜひ国王様に献上したいから大量に素材を確保せよと命令が下る始末。
 どれだけ食べたいのさ、って思いつつも、普段食べてる料理と比べたら格段に美味しいからね。
 もちろんオレたちだって彼に負けないくらい努力はしている。レベルだって上がってるし、冒険者としてのランク上げもしている。
 それでもいまだに彼らに届かない。
 多分ステータスだけじゃなくて、心構えが違うと思うんだけどね。
 歯痒はがゆい気持ちを押し殺しながら、オレは冒険者ギルドに入った。
 阿久津君たちの実力はまだ認められていないところが多く、オレたちが王国と冒険者ギルドの顔をつないでいる。
 どうにも彼のガチャで手に入れたステータスは、この世界の魔道具に引っかからない仕組みだとかで、いまだに能力値の低い子供扱いを受けているのだ。
 だから冒険者ギルドに現状信頼されているオレたちが、阿久津君たちの分まで勇者の力を見せようと思っている。
 姫乃さんもこの件には同意してくれた。なぜか僕なんかを相棒として。
 頼られたからには、男として応えてみせたいところだ。

「お疲れ様です、ヨシアキ様。本日はどのようなご用事でしょうかにゃ?」
「オレたちにちょうどいいクエストあります?」

 猫耳の似合う獣人のギルド職員さんは、猫撫で声で接客する。
 相変わらずこの職員は、どこかオレたちに取り入ろうとする素振そぶりがある。
 オレたちが勇者として信用されているのを知っているし、王国関係者であることも大きい。
 粗相そそうをしたらその時点で厳重処分を受けるのだろう。
 しかし渡されたクエストの紙を見て、オレは眉をひそめた。

「ゴブリン退治……オレたちにですか?」

 せっかく冒険者ランクをCに上げたのに、お願いされる内容がそれ?
 ゴブリン単独の脅威度はランクE相当。
 奴らが武器を扱う知識を持ち、群れるとなればたしかにその脅威度も跳ね上がるとはいえ、ランクC冒険者に該当する依頼かと言われたらはなはだ疑問だった。
 首を傾げる俺の横で、姫乃さんが質問する。

「巣でも見つかったのかしら?」
「流石ですにゃ、サツキ様。ちょうどこの街と港町サーバマグの中間地点にある山のふもとの森に、普段では見かけない規模のゴブリンの目撃情報が来ていますにゃ」
「規模がわからない以上、迂闊に手を出せないし、ランクの設定も難しいというわけね」
「まぁ、オレたちもサーバマグによく行くし、好き勝手に暴れられると困りますからね。そういうことなら受けましょう!」
「ありがとうございます。前回のドラゴン討伐戦でこちらの抱える怪我人の冒険者も相当数出ておりまして……他に頼れる方がいないんですにゃ」

 猫耳ギルド職員から依頼を受けようとした寸前で、背後から声が掛かった。

「その依頼、ちょーっと待ったぁ!」

 見慣れぬ連中がそこに立ちはだかっていた。
 姫乃さんが無言でオレのそでを引く。
 オレたちがギルドに向かう途中に感じた、例の気配の持ち主だった。
 オレも威圧に押し負けないように対応する。

「どちら様ですか?」
「俺か? 俺の名はシグルド! ムーンスレイ帝国の勇者だって言えばわかるか?」
「「え?」」

 ドラグネス以外の国の人間が潜入してくるなんて、聞いてないぞ。

「聞いたことないですね。その国のお方が僕たちになんの御用でしょう?」
「お前ら勇者だろう? ちょっとツラ貸せや」

 まるで不良のような絡み方だ。
 その威圧に猫耳ギルド職員も震えている。
 他のメンバーに狐耳もいるし、もしかしてムーンスレイ帝国は獣人の国なのか?
 ちょっと興味が湧いてきた。
 しかし、姫乃さんの鋭い眼光を見て、オレは冷静になった。

「オレたちは今から依頼を受けるのですが……」
「んなもんいつだってできるじゃねーか!」
「それこそツラを貸すのだっていつでもできるでしょう?」

 オレとシグルドの話を聞いていたギルド職員が、こちらに向かって大声を上げた。

「ヨシアキ様! それ以上挑発めいた言動をするのはやめてほしいにゃ! それではムーンスレイの勇者様方、こちらの依頼をそれぞれのパーティで競い合うというのはどうですかにゃ?」
「あぁん? 俺様に意見しようってか?」
「ちちち、違いますにゃ。軽い提案ですにゃ。お二人の戦い自体は邪魔しないので、クエストの依頼で比べていただければギルドとしてもありがたいにゃあ、なんて……にゃははは」

 った笑みを浮かべる猫耳ギルド職員。
 祖国の仲間たちに怯えているのか、どこかぎこちない笑みを浮かべている。
 ここは恩を売る意味も込めて、受けてやっておくか。

「オレたちはそれでも良いですよ」
「チッ、乗せられた感じで気分悪いが、それで相手してくれるってんなら俺も受けよう。見定めてやる。お前らがどの程度の存在なのかをな!」

 相当な上から目線だ。
 日が暮れるまでを期限として、勝敗は持ち帰った討伐部位の多さで決定するという話でまとまった。
 これなら、オレたちにがある。
 討伐部位を手に入れるのに必要な解体技術は、オレの十八番おはこだからだ。
 それにこの程度、軽々こなさなければ、それこそ笑い物だ。
 勝負が始まり、森の中に一斉に入る。
 的確にゴブリンを射抜く姫乃さんと、それをすぐにさばくオレ。
 相手にめられないためにも、オレたちは全力でゴブリンを狩る。


 そして夕方になり、オレたちは再びギルドに戻った。

「五一七八V‌S三二一一。よってこの勝負、ヨシアキ様たちの勝利ですにゃ!」
「いよっし! 勝った!」
「うがー! 納得いかん!」

 シグルドと名乗った大男が頭を掻いた。
 隣にいた少女も、狐耳の少女も、どこかいぶかしげに僕たちを見つめていた。
 多分討伐速度だけなら僕たちと競っていただろう。
 モンスターを倒した数で勝敗が決まるなら、負けていたかもしれない。
 が、今回の勝負には戦闘技術だけでなく、解体技術が必要だったのだ。
 持ってて良かった解体スキル。
 いまだに頭を抱えるシグルドのもとへ行き、オレは勝ち誇る。

「勝ちは勝ちだよ、お兄さん方」

 シグルドは納得いかないといった表情を見せてから立ち上がる。

「やっぱりお前らの流儀りゅうぎのっとるのはやめだ。純粋に力比べといこうか? 坊主ぼうず

 瞬間、大男の姿が消える。
 こちらの目が追い付かないまま、半歩身を引くと、すぐそばにナイフが突きつけられた。

「にゃぁああ、ギルド内での揉め事はご法度はっとにゃ!」
「引け、シグルド! これ以上事を荒立てるつもりなら、一足早く国へ返すぞ?」
「チッ、これくらいで大袈裟おおげさに騒ぎやがって」

 狐耳のかつによって大男が苛立たしげな表情をした。
 こいつが一番上なのか?
 だがそんな大男の圧にも負けず、姫乃さんがりんと言い放つ。

「そちらの言い分は結構よ。勝負はこちら勝ったのだからもう付き纏わないでくれるかしら? 行きましょう、水野君?」

 ギルドを出ようとしたオレたちを、シグルドが呼び止めた。

「待て待て待て。俺らはお前のところの王様に用があるんだよ」
「命でも奪いに来ましたか?」

 オレが冗談混じりに言うと、猫耳職員が慌てだす。

「! 戦争にゃ!?」
「そうじゃねぇ、こいつを渡しにきただけだ」

 そう言って見せびらかした手紙。ろうで押された印には、彼らの属するムーンスレイ帝国の紋章もんしょうと思われるものが記されている。
 彼らはそれを預かってきた使者だと説明し始めた。
 あれだけ騒ぎを起こしておいて、今さら使者を名乗るか?
 だが、他国からの手紙となれば放っておくわけにはいかないので、オレは仕方なくシグルドから手紙を受け取ろうとする。

「これはオレたちが責任を持ってお渡しします。今日のところはお引き取りを」

 しかしシグルドはその手紙をオレの手が届かないところまでひょいっと上げた。

「流石にそうはいかねぇのよ。俺たちも使者として来てるもんでな。直接会わなきゃ意味がねぇし、このまま帰るわけにはいかないんだよな」
「王宮内で暴れられると困るから、オレが手紙を預かって渡すと言っているのですが?」
「ここはどうか妾に免じて面会を許してもらえぬか?」

 ケモミミロリが僕のことを誘惑しながらお願いする中、姫乃さんがぴしゃりと言う。

「とりあえず、暴れないという約束を守っていただけない限り、ご案内することはできませんとだけ」

 阿久津君たちの自由行動が終わるまでは、時間を稼がないとな。
 早く来てくれよ、阿久津君。
 心の中で何度も繰り返す内に、オレの祈りは変なタイミングで現れたムーンスレイ帝国の使者への不満に置き換えられていった。


 ◇◆◇◆◇


「いやあ、なんだかんだでサーバマグを満喫まんきつしてしまったな」
「でも雄介さ、向こうに着いたの普通に夕方だったし、やっぱり馬車を使わずに走ったほうが早かったよね?」

 薫が痛いところを突く。
 まぁ、関所を通ったおかげで、怪しまれずに街を周れたわけだし、俺たちの仕事もできたのだ。
 そんな時間を惜しまなきゃならない理由もなかったわけだし、別にいいだろう。
 隣を歩くアリエルが、俺の腕を振った。

「雄介、あたしあれが欲しいわ」
「はいよ、あんまり食べすぎんなよ?」
「あたしがそんなに毎回食べてばっかりみたいに言わないで!」

 いや、実際そうなんだよなぁ。
 俺は取り出したカニクリームコロッケバーガーを取り出して、アリエルに渡した。
 これならコロッケの数を抑えつつ、アリエルの食欲を満たせるから、数で奪い合いにならない。野菜もとれるしアリエルにとっていいことづくめだと、したのだ。
 とはいっても、俺たちがアリエルのいないところでカニクリームコロッケを食してると、彼女は不機嫌になるのだが……
 委員長が改めて採取したものを確認してきた。

「お魚に海藻かいそう類、あとは貝類も根こそぎ詰め込んだわよね?」
「結構和食が充実しそうなラインナップだったよな」

 そこで、杜若さんが口を開く。

「となると、次に欲しくなるのはお米でしょうか?」
「穀物系は麦ぐらいしか見当たらないんだよね?」

 続いて薫が尋ねてきた。

「いっそ麦飯でも……とは思ったのだけれど、やっぱり馴染なじみが薄そうよね」

 俺たちは素材を仕入れるたびに〈素材合成ガチャ〉の可能性を広げようとしている。
 しかし入手した素材が増えれば増えるほど、欲しい食材もまた同じように増えていく。

「まぁ、とりあえず食ってから考えるか」
「雄介、どうせならお城に帰ってからゆっくり食べればいいじゃない?」
「お城に帰ったってゆっくり食事できるかはわからないぞ。なにせ俺は見つかったら王城でご飯係を務める坂下恵さかしためぐみさん率いる宮廷料理人に捕まって、カニクリームコロッケを作る機械にされるんだ。だったら今のうちに味見しておきたいじゃねーか!」
「阿久津さんはお人好しですからね。口ではそう言いながら、ちゃんと手伝ってくれる。そういうところが皆さんに好かれるのでしょうね」

 杜若さんがやけにべた褒めしてくれた。
 デザートをご所望なのかと思ってゼリーを出すと、彼女はニコッと笑った。
 サーバマグで仕入れた寒天で作ったゼリーだ。姫乃さんの求めるあんみつに一歩近づいたが、フルーツ系が絶対的に足りないので、いまいちパッとしない。
 ここでは果物が全く手に入らないから無理じゃね? と思わなくもないが、まだこの大陸しか知らないからなぁ。
 どこか他の大陸に行くツテが貰えればいいんだけど……
 そんなことを考えていると、冒険者ギルドの前に人だかりができていた。
 何やらさわぎがあったらしく、よく見るとその中心は水野らしき冒険者と、見慣れぬ大男だ。
 いや、あの大男はどこかで一度会ったことがあるような? たしか……

「あいつ、さっき見た他国の勇者ね」

 カニクリームコロッケバーガーを上機嫌になって食べ進めながら、アリエルが俺に教えてくれた。
 あぁ、あの時馬車で出会ったやつらか!
 俺は水野に向かって呼びかけた。

「手助けいるかー?」
「阿久津君!? 助けてよー」
「オッケー! 杜若さん、お願いしてもいいかな?」
「はい。皆さん、喧嘩はダメですよ」

 杜若さんが胸の前で手を叩くと、彼女を中心に音が響く。
 熱気に駆られた冒険者たちが、一気に静かになった。
 杜若さんの持つ『カウンセラー』という天性によって、周囲の興奮状態を収めたのだ。


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