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五章

閑話 勇者VSシャン

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──sideシェイビー

 散歩に行ってくる、と出かけたまま。
 タリア様はお戻りになられなかった。

「これは捕縛されたとみて間違いなかろう」

 クワーガ伯が面白そうに顎を撫でる。
 これは戦いたくて仕方がないというポーズだ。

「仮にもシャンの女王が下等生物に負けると? そんな筈が」

「実際に行方が掴めぬのだ。生命探知が反応せぬのなら、捕縛どころか始末された可能性もある。捜索隊も帰って来ぬのが証拠よ」

「まだタリア様をお探しになっている可能性も捨てきれませぬ。アレらは上位種の命令に抗えませぬ故」

「抗えぬからこそ、連絡くらいはしてくる。それすらないのだぞ? 現地生物に始末されたと見るのが将の勘よ」

 腰を上げ、立ち上がり拠点の外を流し見る。
 人の形態をことごとく捨てたクワーガ伯の重武装は一切の打撃も受け付けぬテリヌ鋼が如し。
 故に弱点もあるが、現地人には見抜けまい。

 そう考えるが実際に霊化出来るタリア様がお戻りになられぬ以上、それを上回る何かをできる可能性も捨てきれないと見るべきか。
 よもや我らの基本スペックを越えているだなんてあり得ぬからな。ステータスオール60万の我々シャンを超えるなんて……笑えぬ冗談だ。

「どうやらカブタック卿が出陣した様だ。あの土煙を出せるものはそうそう居まい」

 カブタック・バーバリアン子爵。
 タリア信仰の中でも最上位を占めるスペック110万の騎士。これは現地人も堪らぬだろう。
 私はそう考えるが、逆に暴れ出したら味方の救出どころではないのが玉に瑕。
 彼の方の得意分野は蹂躙だからな。救出にとことん向かないのだ。

「タリア様をお探しに行かれたわけではなさそうですね?」

「人質に取る様な相手に遠慮はせぬと、成敗しに行ったのだろう。昔から彼奴は考えるよりまず行動だからな。部下に探索させ、自分は暴れる腹づもりなのだ。将になっても変わらぬアホウよ」

「カブタック隊のスペックは平均80万でしたか?」

「然り」

 シャンの中では抜きん出て高いがスペック85万のタリア様が帰って来られぬ以上、手は抜くべきじゃないと考えるが。

「お転婆王女が捕縛されたと見るなら足りぬと思うか?」

「タリア様の御前じゃないからと、あまり軽口は叩かぬほうがいいですよ? それに数が違います。彼の方は護衛もつけずに出歩いたため、捕まった。けれどカブタック隊は1万人。群の脅威を見せつけてやるまたとない機会」

「そうだ、個で負けるなら群で押し切れば良い。我らはそれができる唯一の種族じゃからな」

 共食いで戦力を強化し、産卵で同スペックを生み出し続ける女王がいる限り、シャンの進化に他種族は追いつけない。
 それが絶対の条件。

 だというのに、不安が拭いきれぬのは何故か。
 どうもおかしな事ばかりが起こり続ける。
 私は拭いきれぬ不安を前に、一人タリア様の心配をし続けた。
 女王代理の私が、この拠点を守る旗印。
 動こうにも動けぬのだ。
 それを嫌って散歩をしたがるタリア様を止められなかったせめてもの報い。








 ──side木下太一


 その日、俺はアルバイトを始めた三上の奴に野菜を届けに坂下さんのレストランに届け物をするべく地上を歩いた。
 そこで龍果畑に群がる虫の大群を発見する。

「うわ、こっちの虫ってあんなにでかいのか。みてたらなんかむかついてきたな」

 ここ数日。大切な野菜に幾つもの虫食いを見逃してきた。
 それらの恨みもこもっていたのだろう。思った以上に強力なビームが出た。

「くたばれ、虫野郎! 二度と野菜に近づけない体にしてやる!」

 農家を齧った程度だが、虫に対する怒りマックスの俺の放った攻撃では、おそらく一匹たりとも始末できていないと直感する。

「ギシャァアアアアアアアアアアアア!!」

「おっと」

 薙ぎ払う様に振り下ろされた前足。
 それを握った拳を突き出して、絡めとる様に内側に回転させ巻き込む。
 体制を崩……さず、残りの前足と真ん中の足の三連撃。
 半歩下がってかわし、追撃の尻尾攻撃を左手で制した。

「こりゃ、伝家の宝刀なしで戦うのは厳しいな」

 俺は魔法なしでもイケる、だなんて甘い見通しをしていた。
 師であるシグルド兄貴に倣った武術だけで対処したかったが仕方ない。
 魔法を全解禁する。
 つーか、こいつらなにもんだ?
 突然現れた強すぎるモンスターを前に、俺の脳は考える前に体を動かした。

 最初は一匹だったが、今度は十匹同時に仕掛けてきた。
 一匹で対処できなきゃ群れで襲ってくるって考えが脳筋そのものだ。
 レーザーじゃ焼き尽くせなかったのもあり、違う方法を考える。

「ならば俺式水遁を喰らえ! “アクアドロップ”」

 天から落ちてくるのは水の本流。
 大地に影を作るほどの大量の水が、意志を持って虫達を追い詰める。ここに俺の功夫を足すって寸法だ。

「あちょー! 喰らえ、水撃拳!」

 手が足りぬなら増やせば良い。
 俺は魔法でそれが可能だ。
 減っていくMPを流し見しながら、自販機で買い付けたマナポーション(コーラ味)を飲み足しながら、虫達を撃破していく。
 つーか、上下に分断しても普通に動くからキモい。

 仕方ないのでかっこよさ優先より撃破優先に切り替えていく。

「こいつで止めだ! “アクアプリズン”からの~“アイスブレイク”!!」

 水で押し流して一気に閉じ込め、氷漬けにしてから粉が何砕いてやった。
 やっぱこれが1番よ。
 来世で虫以外に生まれ変わりな。辞世の句を勝手に読み上げ、俺は一路三上の元へ。
 そして手土産の野菜ごと氷付にして粉々にしたことに気づき、より一層虫達への深い憎悪を抱くのだった。






 ──side水野&姫乃ペア

 こっちの世界に再びやってきたオレたちは、特に何をするでもなくモンスター退治を引き受けてきた。
 阿久津君の様に料理に邁進するわけでもなく、三上君や木下君の様に野菜作りに熱を入れることもない。

 こっちはこっちのペースでいいんじゃないかというゆるい感じだ。そういうのは向こうに帰ってからだってやれるんだし、やっぱりこっちにきたからこその事をやりたいじゃん?
 つったらモンスター退治に偏るわけよ。

 そんなオレたちはここ最近暴れてるって噂の虫型モンスターの駆除を依頼されていた。報酬はその土地の名物料理だ。

 ご馳走になりながら他に何か困ったことがないか聞き、可能であるなら手伝うことで生計を立てている。
 そんな折、横で一緒に休んでいた姫乃さんが遠くを見据えて口を開いた。

「水野君、どうやら複数お出ましの様よ?」

「またぁ? さっきから立て続きじゃん」

「良かったじゃない、モテモテで」

「モテるなら女の子の方が良かったよ」

「自らその地位を降りたのに?」

「昔は昔、今は今だよ」

 重い腰を上げ、スキルのトラップを展開する。
 姫乃さんは後方に陣取る。
 彼女を守るのはオレの仕事だ。
 遠距離射撃と、近・中距離火力の俺たちが組めば無敵だ。
 もちろん面制圧されたら弱いという弱点もあるが。

「今回は随分と本腰を入れてきたみたいね」

「数は?」

「3000と少し」

「うへぇ」

「こいつら、魔石もないから阿久津君の解体ガチャでなんの旨みもないのよね。魔素変換なんてもってのほかよ」

「案外この世界の存在じゃなかったり?」

「なんでそんなのがいるのよ」

「わからないけど、来るよ」

「露払いはお願いね?」

「イエスマム」

 ここ最近の応答はこんな感じ。
 最初は戸惑いを見せていた姫乃さんだったが、最近はこれにも慣れたのか満更でもなさそうにしている。

 近接してくるのはカブトムシを模した虫モンスター。
 前傾姿勢で突っ込んできたかと思えば、その角が俺の顎を捉えるなりカチ上がる。

「っぶな!」

 半歩ずれて上半身を交わすと、追撃の前足。
 かぎ爪は凶悪で振るっただけで大地が裂けそうな勢いと威力を持っていた。そいつを馬鹿正直に受け止めてやる必要はない。

「水野君!」

 そいつの右胸に深々と刺さるこの世界で最も信頼のできるアシストを受け、その矢に爆弾を付与。
 地面からデカめのトラバサミを生成して縛り付けた後に爆破した。
 無論、3000もの群は一匹始末したくらいじゃ止まらない。
 それに応じて援護の矢も増えていく。
 
「100の位なら何度でもこなしたけど、いきなり1000単位はキツいって!」

「泣きたいのはこっちよ」

 女子は虫が嫌いだもんね。分かるよ、オレだってあんまり得意じゃないし。
 でもさ、こんな大群とか誰でも苦手だと思うよ?
 図体だってアホみたいにでかいし、武器の通りも悪いもん。
 でもな? だからってここで負けるわけにゃいかねぇのよ!

「皐月はオレが守る! かかってこい、蟲共ォ!」

「ちょ、名前で呼ぶ許可なんて出してないわよ!」

「ウォオオオオオッ!」

「聞きなさい、水野くん! ねぇ、ちょっと!」

「うぉおおおおおおおおおお!」

 オレは勢いで押し切った。
 正直ね? 守るものべきがあると男の子って頑張れる物なんだよ。特にこういうシチュエーションは最高に燃える!
 クラスの男子なら実地わかってくれると思うな!
 
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