【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

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4章 お爺ちゃんと生配信

219.お爺ちゃんと配信①

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 クランルームを出たら宣伝も兼ねて配信を行う。
 しかし週一の陣営ツアーにはまだ数日ある。
 そこで最近冬休みに突入した孫達と一緒に遊ぶ事にした。

 事前に配信する事を確認したらOKを貰う。
 むしろ配信自体には慣れてる様子で、私の配信だからと緊張している様子は見られなかった。

 参加してくれたメンバーは孫のマリンにそのお友達のユーノ君、探偵さんの孫の時雨シグレ君、あとはフィールの娘のルリ。そして特別枠で金狼氏の息子のケンタ君を呼んだ。
 女子プレイヤーで身を固めすぎると批判の声が強まるからね。
 見事なまでに身内のメンバーの招集だと言わざるを得ないが、言い訳しようがあるのも事実だ。

 試練中のパーティーは見事に男3、女2、マスコット1で回っていたからね。スズキさんはいうまでもなくマスコット枠だよ。本人もそれを望んでいたし、本望だろう。


「この中で初対面なのはルリぐらいだったかな。何か私について説明しておくことはあるかな?」

「お母さんから大体は聞いてます」

「へぇ、なんて?」

「自分の常識が通用しない人だと」


 ええっ。眼を見開いて驚く私に同意する面々。


「それは言えてるぜ。ユニーククエストの発掘だけじゃなく、到達までいけちまうのは限られたプレイヤーにのみ委ねられると親父も言ってるし、じぃじも太鼓判を押すほどだ」


 ケンタ君は饒舌に私を絶賛するが、饒舌すぎてどこか呆れてしまっているような気配を感じる。


「うちのお爺ちゃん程じゃないけど、この世代の人はあたしたちの常識が通用しないのは確かね」


 君のお爺さんと比べられるのは心外だけどね?
 時雨シグレ君の言葉になんとも言えないような表情を浮かべ、


「お爺ちゃんを一般の物差しで測るのは諦めたほうがいいよ! ただ凄いってわかっていればいいだけ!」


 続いて絶賛するのは孫のマリン。ユーノ君も同意するようにコクコク頷いていた。


「さて今日は冬休みに入った孫達を誘って一般ダンジョンの攻略をしようと思う」

【通常配信?】

「雑談枠と思ってもらって構わないよ。パッシヴ極の身の上で、ジョブがどこまで通用するかをお見せするのが主軸だ。基本的には孫達にお世話になる形だね」

【了解】
【りょー】
【わこつ】
【わこつ】
【銀姫ちゃんきちゃー】
【孫って全員?】

「うちの孫はマリンとルリで、うちのサブマスターの孫がケンタ君、そして探偵さんの孫が時雨シグレ君、最後に彼女が、「私のフレンドだよー」……と言うことだ」


 私の言葉に被せるようにしてマリンがユーノ君を紹介する。
 有名人のマリンと一緒に行動していたこともあり、意外と名前と顔は知られていたようだ。


【殆ど身内なのか】
【待て、確かサブマスターの息子って別クランのマスターやってなかったっけ?】

「おう、俺の所属は漆黒の帝だぜ? 親父も別にパーティー組むならクランのことは考えなくていいって言ってたし、好きにさせてもらってる」

【金狼のとこのクランか】
【くま?】
【やめろ!】


 クマ騒動で一瞬コメント欄が賑やかになったが、それは風物詩の一つとして受け流した。
 これから向かう場所はファイべリオン。
 この場所は海の上に浮かぶ海上都市で、大陸と大陸の中間地点を維持している。
 ファストリアのような古代文明が維持されており、門を潜る前に巨大なバリアが都市の全面を覆っている。


「ファイべリオンに赴いたのは初めてだね」

「そうなの?」

「先にシクセリオンに着いてしまったからね」

【意味不】
【経路どうなってんの?】
【5を通らず6に行けるルートってあったっけ】

「空から落ちた先がシクセリオンだったんだよ」

【納得】
【普通は墜落死するんだよな】
【重力無視は今や喉から手が出るスキルの一部だよな】
【天空開拓には何を置いても必須スキル】

「けれど当初はまだそこまで認識が良いものではなくてね。マリンになんの意味があるのって一蹴されてしまったんだ」

【草】
【つよい】

「だってー。あの時は加速はともかく軽くなるだけのスキルに意味を見出せなかったんだもん!」

【そりゃ実際活躍してる映像見なきゃ無能扱い受けてもしゃーない】
【使われてないスキルもまだスポットが当たってないだけなんだよな】
【本当無駄スキルも使い方一つで化けるから面白い仕組みだよな】


 私の告げ口に口を尖らせる孫に、多くの同情が寄せられる。
 一緒に歩くケンタ君はマリンの意外な面に苦笑し、そんな姿を見慣れてるユーノ君も同様に苦笑する。
 ルリは自分でも同じ反応するだろうなと同情し、シグレ君は何かを必死にメモっていた。

 まるでコメント欄から情報を拾い上げるような真剣さである。
 全員が全く違う人間だからこそ、一つのアクションをとっても違う面を見せるのだ。

 第三世代と呼ばれる孫達は、検証を先達に任せる傾向があるためとにかく掲示板の情報を真に受けやすい傾向にある。
 しかし私のような第一世代と接した彼らは急成長を遂げるように羽化し始める。
 それは周囲にとっては異様な光景に見えるかもしれない。
 現にコメントの一部もシグレ君の異様さに指摘が入るほどだった。


「え? メモ付けは癖になってるし。変ですか?」

【これはあの人の血筋ですわ】
【機関車の人もこれにはニッコリ】
【機関車の人っていうのはやめて差し上げろ】
【だってあの人の名前ってアキカゼさんの名前を漢字にしただけだろ?】
【あっ】
【察した】

「彼とは学生時代に同じコミックを読み合った仲でね。その時のコミックに主人公がアキカゼ・ハヤテなんだよ」

【なるほど】
【第一世代の学生時代って何年前だ?】

「45年くらい前だね。流石に掲載誌も廃刊になってるしコミックも絶版だよ。今の世代の子には暑苦しく感じてしまうだろうからね」

【そりゃそうだ】
【逆に見てみたいけどな、そのコミック】

「そうだね、見る分ならうちのクランで近いうちにイベント起こすからそこで見れるように手配しておくよ」

【おっ】
【おっ】
【イベントの規模にもよるな】

「まだ企画段階だから企業秘密だよ。でも規模は天空ルートの全面を扱う予定だと言っておこう。これには多くのクランが協賛してくれてね。中にはレストラン系列のクランも参入予定だと聞いたよ」

「お爺ちゃん、そのお話私聞いてないんだけど?」

「私も」

「あたしはお爺ちゃんがそんなこと語ってるのを聞いたけど、クランイベだとは知らなかったですね」

【おい】
【あれ、これって出していい情報だったのか?】
【これはやらかしましたね】
【うっかりが過ぎるぞ】
【天空全体とか上位クランでも行わない規模だぞ】
【えっ、採算取れんの?】

「採算が取れるかは正直運だね。ただ私達のクランは私たちがやりたい事をやるだけだからね」

【この人とうとうぶっちゃけたぞ?】
【雑なクラン理念だな】
【なんだかこの人のクランに入るの怖くなってきた】
【クラメンが可哀想】

「残念だけど枠がないよ」

【まだ総スキル派生数50に到達してないのか(呆れ)】

「ジョブを取るとそっちにかかりきりでスキルの研鑽に注ぎ込む時間を取られてしまうんだよ」

「それ以前に私達、一度たりとも困った事ないよね、ユーノ?」

「はい。なんだかんだとすごい人たちが集まってますので、お金が足りないなんて聞いたことはないですね」

【クラメンが強すぎるからな】
【納得】
【それでもランクCの15人で回すのは無茶だろ】
【それ言ったらランクAAでも飛空挺造船は無理無茶無謀だけどな?】
【確かに】

「資金提供できる程度には情報発掘でゲーム内マネーを稼げていたからね。それでも資金が赤にならなかったのは派遣した技術者の技術料が割高だったからだと思うね」

【鍛治の親分さんは貴重な資金調達源】
【それだけでも足らんだろ?】

「そう言えるのはうちのマスターの発掘情報を正確に把握してない人だけですね」


 白熱するコメント欄にこめかみを抑えた時雨シグレ君が白状する。


【えっ】
【はっ?】
【ドゆこと?】

「シグレ君、あまり詳しくは喋っちゃダメだよ?」

「そんなヘマしませんよ。うちの父のデータを閲覧して貰えば全てはっきりすると思いますが、少しかいつまんでお話ししますと、数だけでおよそ600は一人、ないし6人で発見してるんですよ、うちのクランのマスターは」


 以降通信障害と思えるほどコメントが凪いだ。
 絶句状態にあるらしく、数分後に夥しい数のコメントが一気に下から上へと流れ出す。

 シグレ君曰く、私の発掘した情報はデータの塊であり、解きほぐすだけで数十もの歴史的発見が内包されているらしい。
 その上でワールドクエスト進行の貢献値が計り知れなく、ちょっとやそっとじゃ赤字になりようがないとも言っていた。

 クラン運営費は半分くらい私のゲーム内マネーで支払われているとは言え、減った様子を見せないと思ったらある上限を境に9の羅列で止まっていたかららしい。

 マスクデータ内ではきちんと計算できているらしいが、表示上は9,999,999,999で止まってしまうようだ。
 

「へぇ、知らなかったな。いや、勉強になったよ」

【当事者のこの間抜け面ときたら】
【把握してなくて草】
【こんな人がマスターで大丈夫?】

「お爺ちゃんはこれがはじめてのVRゲームだから知らなくても仕方ないよ」

【銀姫ちゃんは天使やな】

「本当にね、私の自慢の孫だよ」

「えへへ~」

「マリン、凄いね」

「ルリちゃんだってもっと素直になればいいだけだよ?」

「がんばる」


 なんだかこちらをチラチラ見上げるルリに、少し苦笑しながら私達はダンジョンアタックの準備をコメント欄で突っ込まれつつ、整えていくのだった。
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