錬金先輩のバズレシピ!

双葉 鳴

文字の大きさ
上 下
117 / 121
錬金先輩のバズレシピXX(異物混入√)

脱出(飯句頼忠)

しおりを挟む
「痛てて……ここどこだ?」

『あぅ』


 肉体に強い痛みを受け、俺は意識を取り戻した。
 辺りは暗黒。
 光の一切届かぬ室内で、目を覚ます。


「誰かいるのか!」

『ボクです』

「この声は、ルリーエちゃんか。アキカゼさんは?」

『分からないんです。もしかしたら逸れちゃったのかも』

「章の姿も見つからない。だとしたら手詰まりか。どうにかして連絡をつけられるようにしないとな」

『ここ、どこなんでしょうか?』


 ルリーエちゃんが心配そうに周囲を窺っている様子を思い浮かべる。
 正直真っ暗闇で何も見えないからな!

 俺の培われた妄想力が唸る時が来た。

 差し伸ばされた手に握り返される感触。
 なんかヌルッとしてるが気にしないことにして、俺は周囲を探した。

 こういう時、何か触媒があれば良いんだが、俺の幸運はトラップとかそういうのを解除するのに特化してる。

 相手が仕掛けてきて、やっと効果を発揮するタイプだ。

 こう、何もないところで何かを発揮できたりはしないのが痛いところ。


「ルリーエちゃん、何か光るもの持ってない?」

『え、肉体を発光させることならできます』


 よく分からん。
 で、やってもらった結果。

 暗闇の中でボヤッと浮かび上がるサハギンボディ。


「うわぁあああああ!」

『驚かれるのは、酷いです』

「ご、ごごごごごめん! 突然のことでびっくりしちゃって。でも呪いは解けたんじゃなかったの?」

『ボクにも良くわかんないんです、この世界に飛んだと同時にこの肉体に』


 何が何だかわからないが、呪いがリセットされたのは事実だろう。

 取り敢えず、発光するルリーエちゃんを先頭に室内を照らして散策を始める。

 一寸先は闇だが、足場の確保と妙に埃っぽい室内から、ここは廃棄されてだいぶ時間が経過された場所じゃないかとアタリをつける。


「ここは、廃棄された施設、または遺跡の類かな?」

『これだけの情報でそんなことまで分かるんですか?』

「まぁ、こう見えても俺、探索者をしてるからね。問題はここが何処で、逸れたみんなが何処にいるか一切掴めないってことだよ」

『ハヤテさんと無事、合流できるでしょうか?』

「俺もこんなところに捨て置いた章のやつに一言文句言ってやらない時が済まねぇ! 絶対にここから抜け出すぞ」

『はい!』


 半分自棄だが、取り敢えずの目標を定める。
 お互いに不安なので取り敢えずは急場凌ぎでの目標設定。

 第一目標はこの場所の特定。
 最終目標は合流だ。

 第一目標は達成後、第二目標に置き換える。
 これを最終目標が達成されるまで進める。

 何をして良いかわからなくなり、時間を無駄にするより全然マシだ。

 お互いに一つの目標に向かって協力するならば、それは早いほうがいいからな。


「ルリーエちゃんが光ってくれて助かったよ。そして今ここで呪いが発症してくれて」

『こっちの姿の方が良かった理由は聞かない方がいいですか?』


 そうしてくれたら助かる。
 なんせ体全体が発光するなんて怪奇現象、美少女にやらせるわけにもいかないからな。

 露出部分が多ければ大きいほど光の照射具合が変わるのだ。

 自ずと全裸になることを強要するわけで、それを人型ボディに強要するのはお互いにとってデメリットになりかねないのだ。

 こういう時、ルリーエちゃんがサハギンボディで良かったと純粋に思った。

 それから数時間、室内を歩いてまわって情報共有。

 電波の類は出ていない。
 章の電話には繋がらず、こっちは打つ手なし。

 SOSの狼煙を上げるにも、この場所が何処にあるのかの特定すらできていない。

 そして室内は一切の音がない。
 これはおかしい。

 確かに空気はあるはずなのに、密封空間。
 頭痛や耳鳴りもしないのだ。

 ピョン吉たちが不在な時点で、幾つもの即死トラップを抜けてきたのは明白。

 ルリーエちゃんがあのボディになったのは、同じくらいの即死ダメージを防御するためのガードなのかもしれないな。

 もしかして、それって別に呪いでもなんでもないのでは?

 ルリーエちゃんは呪いみたいに言ってるけど、だったらアビスを抜けた時点で解除されてるはずだし、うーむ。


『あの、頼忠さん?』

「ああ、いやなんでもない。ここは息苦しいほどの環境にも関わらず、なぜか息ができてるのが不思議でさ」

『ご自身の姿がどのように変化されてるのか気づいてないのですね』

「変化?」

『今の頼忠さん、ボクに似たような格好ですよ?』

「え?」

 
 つまりどういうことだってばよ。


「俺の姿が、ルリーエちゃんに似てる?」


 ここは薄暗く、姿見に類するものが見当たらない。
 指や腕が普通。
 体にそれと言った変化はない。

 が、首。
 正確に言えば顎にかけての位置に切り込みが入っている。
 そこを抑えると急激に苦しくなる。


「なんだ、これ?」

『ボクにはエラに見えます。ボクとお揃いですね!』


 お揃いと聞いて喜んで良いのかわからなくなるが、これのおかげでこの場所でも普通に空気が据えてるのなら、まぁヨシ!

 とはならないんだよなぁ。

 あと、耳。
 これらの変化が激しい。
 なんというか人魚のようなヒレがエラから伸びている。

 もしかして俺、リコさんの怪しい薬で、半分モンスターにでもなってしまったんだろうか?

 するとここは海中なのか?
 耳が人間のものと変化しすぎた影響で音が聞こえなくなった?


「おおよそ理解した。ここは海中なんだろうか?」

『分かりません。重力はあり、ボクは泳ぐことができていません。でも不思議と居心地はいいです』

「海の中ではない? 水中……にしては空気はあるし」

『この室内だけじゃ分かりませんね』

 
 かと言って次に進むための扉らしき場所もない。
 どうしたものかと迷っていると、謎に光り輝く扉があらわれる。

 そこに何やら文字が記されるが、あいにくと解読はできない。

 俺にそういうのを頼られてもな。


「何か出てきたけど、ルリーエちゃん分かる?」

『え、ここでボクに振るんです?』

「俺はお手上げ。ルリーエちゃんもわからないなら一緒に考えようってことでさ」

『なるほど、そうですね。じゃあ一緒に探しましょうか』


 突如浮き上がった門の周囲にそれらしいヒントはなかった。
 そもそもそれがもんかどうかもわからない。


『頼忠さん! こっちに何かあります!』


 ルリーエちゃんの直感によって発見されたのは鍵のような形をしている石板だ。
 これを門に当てはめるのか?

 門に鍵という分かりやすい設計。

 しかしここで光っている方向が全く別方向に向いているのが気になった。


「ルリーエちゃん、その鍵、動かせる?」

『鍵ですか? やってみます』

「俺もこの門を動かしてみる!」


 そしてせーの! で同じ位置を向けた時、その中央に魔法陣が浮かび上がる。


「これで次の部屋に飛べるのかな?」

『よくわかりませんが、成功して良かったですね!』


 どちらにせよ、次に進める。
 忘れ物はないかの確認をして、俺たちは離れ離れにならないように手を繋いで魔法陣に飛び込み……


「がぼぼぼぼぼ!」


 溺れた。
 まさか次の場所が水中なんて思いもしないじゃん。

 さっきまで空気があったから完全に油断してたぜ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者が相手をしてくれないのでハーレムを作ってみた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,470pt お気に入り:30

引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:532pt お気に入り:5,468

こんなはずじゃなかった

BL / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:2,021

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:203

処理中です...