もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴

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六章 もふもふファミリーと闘技大会(道中)

71 追憶(プロフェン)

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ずっとここにきてからソワソワした気持ちが勝る。
ここの風景にどこか見覚えがある。

僕には信頼をおける兄が居た。
今はこうやって一つの体に押し込められてしまったけど、一つになる前は泣き虫な僕をよくあやしてくれたっけ。

『ああ、ダメだ。また失敗だ』

誰かの声が煩わしく耳に残る。

『博士、実験の方はどうですか?』
『企画は良かったが、この個体はあまりにも気弱すぎる。せっかく素晴らしいボディに連結しても、気が弱すぎて運用できない。これでは門番にもならんよ』
『見掛け倒しという奴ですか?』
『もう一匹仕入れてくることはできるか?』
『最近警戒されてまして、実験そのものを疑ってる様です』
『クソ猫め! 誰のおかげで人と同じ様に生きながらえてると思ってるのだ! 今がその恩を返す時だろうに!』
『そうは言いましてもそれは数百年も前の話。今は第二の人類、隣人ニャンジャーとして存在を認められてます』

心の中で何度も懺悔する。
ごめんなさい、ごめんなさい。弱くってごめんなさい。
僕は弱いから上手い話に乗ってよくわからない実験に乗った。
まさかそれが自分の体を大きく変質させる実験だなんて思わなじゃった。

尻尾の根元の痒みがとれる革新的な商品の治験だというから乗った。ニャンスケ兄さんはいつもそこが痒いと嘆いていたから。
僕が代わりに受けて、良かったらお薦めしようとして。

僕は……何で人間を信じてしまったんだろう。
仲間の言葉を耳に入れなかったんだろう。

悔しくて涙を流したいけど、この体はそれすらもさせてもらえない。もうニャンジャーだった頃とは違う、立派な体。
建物よりも大きくて、自分が寝返りをするだけで壊れてしまうんじゃないかと思うほどに強化されたボディ。

でも僕の気弱な精神ではおっかなびっくりしてしまってダメだった。

『ここに居るのか、ニャンジロウは』
『ああ、お前の名前を連呼してたよ。ニャンスケ兄さんと』
『あいつは俺が居ないとダメダメだからな。で、どこに居るんだ?』

兄さんだ。でもどうして人間と仲良くしてるの?
ダメだよ兄さん、こっちきちゃ。
悪い人間に捕まっちゃうよ?

『そこに居るだろう?』
『この化け物が?』

今の僕から見たらニャンジロウ兄さんは豆粒みたいに小さくて、兄さんから見たら化け物に見えちゃうんだ。

「グゥルルル……」
『俺を見てビビってんのか? ハハッ』

瞬時に察したのだろう。僕のビビりっぷりを。
化け物が僕だってことを。
だから僕を連れ出そうとして繋いでいた鎖を解こうとしてる背後から人間から何かを撃ち込まれた。

『テメェら、何しやがる』
『実験を見られてしまった以上、逃すと思うかね?』
『は? そっちがニャンジロウに合わせて一緒に生活させてやるって条件出したんだろうが。俺はこいつを引き取りに来たんだぜ?』

兄さんがいつもの様に威勢よく吠える。

『同じ場所で暮らすとは言ったが、連れ出されちゃ困るんだ。おい、拘束しろ』
『何するんだ! 放せ! おい、ニャンジロウ! 俺の声が聞こえるだろう? 今すぐ暴れてこの研究所をぶっ壊せ!』
「グゥル……」

無理だよ。僕は弱虫ニャンジロウだもん。
いつも果敢に獲物に爪を立てるニャンスケ兄さんとは違うもん。

『フハハハ、無駄だよ。その個体は図体だけデカくても子猫のままなのさ』
『テメェ……ニャンジロウの優しさにつけ込んだな?』
『何も心配いらん。ちょっと眠れば、すぐそこの化け物と文字通り一つになれる。これからは私達の実験成果として飼ってやるから恩に着ろよ?』
『クソ、くそ、クソッタレめ!』

兄さんは拘束され、何か細い針から液体を注がれた。
あれは僕が意識を失った奴だ。
兄さんもそれを打ち込まれてぐったりした。

僕の体が動けてれば、兄さんまで犠牲にしなくて済んだのに。

僕が臆病でなければ、兄さんは助かったのに。

僕はなんて愚かなんだろう。
あの細い針を差し込まれて意識を失うまで自分のことを責め続けた。

『フハハハ! どうだ! 実験は成功したぞ!』
『おめでとう御座います、博士』

僕は兄さんと一緒になった。
文字通り一つのボディに入れられた。
僕が一人で寂しくない様に、僕にそっくりな顔がすぐ横にある。
僕は涙が込み上がるのを堪えきれない。
でも、涙はどうやっても出てこなかった。

肉体の優先度はニャンスケ兄さん任せ。
ずっと人間を恨んで、僕の声さえ耳に入らない暴走モード。
何かにつけて反骨精神を見せつける暴れん坊が災いした。

『お前たちはこの実験室の入場者を蹴散らす様に』

僕たちは忌々しい研究室の門番を務めることになった。
いろんな思惑を持つ人間を屠り、仲間であるはずのニャンジャーまで。
何が良いことで、何が悪いことなのかもわからなくなっていた。

もう、誰かに懲らしめられたい気持ちでいっぱいだった。
でも、僕たちのボディは強靭で、強大だった。

『クソ、ニャンジャーたちにこの研究所を嗅ぎつけられた。一旦離脱する。街の連中を囮に、この研究所だけは何としても死守しろ!』
『博士、よくもやってくれたな? 盟友ニャンジャーに喧嘩をふっかけるとは。悪いが今日限りでお前は首だ。我が王国に無能は要らんのだ』

部下からの連絡と、上司からの連絡が同時に来ると、博士は僕に当たる様に鞭で叩いた。
痛くも痒くもないこの肉体。

僕たちは研究室ごと大陸を分断し、魔物の蔓延る地上へと降り立つ。そこは人類が住まうには劣悪な環境で、生体兵器となった僕たちには物足りない場所。

それでも人類は懲りるという事を知らなかった。

何百年も前、研究室の博士の子孫と名乗る男が現れた。
怪しい薬で昏倒させられた僕は心臓を抜き取られ、文字通り生物としての死を感じた。

ようやくこれで眠れる。兄さんも疲れ切って眠りたがってたもんね。

でも僕たちの望みは違う形で裏切られた。

「今日からここがお前たちの庭だ。好きに暴れて良いからな?」

意味がわからなかった。寝返りひとつ打てない穴倉で、好きに過ごして良いとは?
人間は相変わらず訳のわからないことを言う。
兄さんはご立腹だ。
僕だって怒ってる。

そんな時、真っ白なウサギが現れた。
本当の意味で、僕たちを救ってくれる存在。
僕達が、元の姿に戻れる唯一の存在が、強烈な存在感のもとに現れた。

『お前、強ぇだろ?』

後にボスと慕うロキとは本気で戦ってもなかなか決着はつかなかった。兄さんを持ってしても、僕のブレスでも仕留めきれない。
そしてとうとう僕たちは負けた。

そこから先のことは薄ぼんやりとだけ覚えてる。

僕の体は泣き虫ニャンジロウの頃と変わらないサイズまで縮み、ニャンスケ兄さんはせっかく手に入れた力を手放したのが悔しくて何かにつけて吠えた。

でも僕は昔の自分のサイズが嬉しくていっぱい甘えた。
それを兄さんは疎ましく思ってたみたい。

『今日から君はプロフェンだ』

人間が、僕に美味しい餌や毛繕いまでしてくれる。
あの人間がだ。これは何かの間違いじゃないか。
夢ではないのか? また僕を騙して実験とかするのではないか?
そんな不安が押し寄せたが、杞憂に終わった。

何日、何年経とうと待遇が一向に変わらなかったのだ。
おっかない僕は消え去り、可愛い、愛される僕が存在した。
ニャンジャーだった頃の僕だ。

兄さんも安堵してようやく警戒をといた。
僕と一緒にお世話されてることを喜んでいた。


そして現在。
お世話人のトラネお姉ちゃんが僕じゃないニャンジャーに夢中になっている。

(これはダメだろう。トラネは俺たちの世話人なのに。横取りはダメだよなぁ?)

いつになく兄さんの感情が乱れてた。
そうだよね、お世話権を勝ち取るなら僕たちを倒してからだよね?

僕と兄さんは一致団結し、子孫のニャンジャーたちに勝負を挑んだ。
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