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第四章
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しおりを挟む「先輩って意外と心配性なんですね」
「お前が‥‥‥いなくなったりしたからだ」
宥めるように秋良に肩を軽く叩かれて、脩は秋良から離れる。
「もう、そんなことしませんよ。俺には帰る場所ができたんですから‥‥‥」
目の縁に涙を溜めた秋良と目が合う。導かれるように腕を引かれて、靴を脱ぐと部屋に上り込む。
昨日と同様に空の部屋に思わずゾッとしてしまう。あのまま、公園には寄らずに家に帰っていたら、秋良とは一生会えなくなっていたのだろう。
「先輩‥‥‥疲れているのにすみません。いつでも迎えられるように家にいたので‥‥‥何も準備出来てなくて」
「良いんだ。そうしててくれたことが嬉しい」
秋良は眉根を下げ、申し訳なさそうに脩を見つめる。その不安げな表情も相まって、綺麗に整った顔立ちが儚げに見えてしまう。
「秋良。一緒に暮らそう」
「えっ‥‥‥」
「僕も、さっき立ち向かってきたんだ」
脩はそこで初めて、今まで溜めてきた胸のわだかまりを吐き出すように自らの事を語りだす。恵美子に対する恐怖と同情心。清治への後ろめたさ。見える事を隠し続けた罪悪感。
秋良は口も挟まずに、ただ切なげな表情で脩を見つめ耳を傾けていた。
一通り吐き出すと、スッキリとした気分に思わず頬が緩む。
「何だろう‥‥‥話してみると思いのほか、自分の悩みが小さく感じてくるな」
自嘲気味に秋良に視線を向ける。まるで、自分だけが不幸な思いをしているという考えが間違っていたのだ。
清治は来る人達の前世を見る事で、自分より辛い思いをしている人を知ることが出来たと言ってた。
清治はあの屋敷でしか世界を知らないなどと同情めいた事を思っていたが、自分以上に世の中の善も悪も見ていたのだ。
籠に入って狭い世界にいたのは、自分の方だったのかもしれない。
「先輩が辛かったことには、変わりないですよ」
「そう、だな‥‥‥」
秋良の真剣な眼差しに、脩は視線を逸らす。
「‥‥‥とりあえず、一か月以内に部屋を探そう。それにここで寝起きするなら、必要最低限のものは用意しなきゃな」
気まづさを取り繕うように、脩は話を切り替える。秋良も「そうですね」と表情が和らげた。
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