愛に縛られ、愛に溺れる

箕田 悠

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「それとも僕は、久賀さんの愛人なんですか?」
「そんなわけないだろう!」

 驚いたように久賀が否定を口にする。滅多に声を荒げない久賀の意外な姿に、水瀬も一瞬気圧される。だが、すぐに気を取り直して口を開く。

「恋人ですよね? なら折半するのは当然ですよね」
「……分かった」

 やっと折れたのか久賀が、長く息を吐いた。
 久賀に導かれるまま、乗り継いだ駅の近くに予約していたホテルがあった。
 駅近くの一等地にあるホテルでその歴史は長く、数々の著名人が泊まったとされる場所だ。さすがに毎回、こういったホテルに泊まるということはないが、やり過ぎにも思えてしまう。

「……久賀さん」

 どう反応して良いのか分からず、水瀬は困り果てる。
 たかが半年付き合った記念日というだけで、高級ホテルに連れてこられるのは気が引けてしまう。

「行こう」

 久賀は有無を言わせぬ様子で水瀬の背を押してくる。さすがにこんな場所でごねるわけにもいかず、水瀬は素直に従った。
 広いロビーを通り、久賀が受付でチェックインを済ませると、エレベーターへと向かう。
 十五階で降りると、赤い絨毯の引かれた廊下を進む。両側にはドアが並び、その一つの部屋の前で久賀が立ち止まった。
 カードをタッチするとドアを開き、水瀬を先に入るように促してくる。
 部屋に足を踏み入るなり、水瀬は目を瞠る。いつもより広いベッドが二つ並び、その奥には都内の街並みが一望できる大きな窓があった。美しく輝く夜景は、高層かつ、見通しの良い場所に建てられているからこそだろう。
 ルームサービス代は出すと言ったが、結構な出費になりそうだと水瀬は歯噛みした。これならファミレスや居酒屋で食べてきた方が安かったと、後悔しても遅い。

「気持ちは嬉しいですが、さすがにオーバーだと思います」

 久賀には申し訳ないが、自分には身分不相応に感じられた。

「気に入らなかったか?」

 表情を曇らせる久賀に、そうではないと水瀬は首を横に振る。
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