5 / 121
5
しおりを挟む「それとも僕は、久賀さんの愛人なんですか?」
「そんなわけないだろう!」
驚いたように久賀が否定を口にする。滅多に声を荒げない久賀の意外な姿に、水瀬も一瞬気圧される。だが、すぐに気を取り直して口を開く。
「恋人ですよね? なら折半するのは当然ですよね」
「……分かった」
やっと折れたのか久賀が、長く息を吐いた。
久賀に導かれるまま、乗り継いだ駅の近くに予約していたホテルがあった。
駅近くの一等地にあるホテルでその歴史は長く、数々の著名人が泊まったとされる場所だ。さすがに毎回、こういったホテルに泊まるということはないが、やり過ぎにも思えてしまう。
「……久賀さん」
どう反応して良いのか分からず、水瀬は困り果てる。
たかが半年付き合った記念日というだけで、高級ホテルに連れてこられるのは気が引けてしまう。
「行こう」
久賀は有無を言わせぬ様子で水瀬の背を押してくる。さすがにこんな場所でごねるわけにもいかず、水瀬は素直に従った。
広いロビーを通り、久賀が受付でチェックインを済ませると、エレベーターへと向かう。
十五階で降りると、赤い絨毯の引かれた廊下を進む。両側にはドアが並び、その一つの部屋の前で久賀が立ち止まった。
カードをタッチするとドアを開き、水瀬を先に入るように促してくる。
部屋に足を踏み入るなり、水瀬は目を瞠る。いつもより広いベッドが二つ並び、その奥には都内の街並みが一望できる大きな窓があった。美しく輝く夜景は、高層かつ、見通しの良い場所に建てられているからこそだろう。
ルームサービス代は出すと言ったが、結構な出費になりそうだと水瀬は歯噛みした。これならファミレスや居酒屋で食べてきた方が安かったと、後悔しても遅い。
「気持ちは嬉しいですが、さすがにオーバーだと思います」
久賀には申し訳ないが、自分には身分不相応に感じられた。
「気に入らなかったか?」
表情を曇らせる久賀に、そうではないと水瀬は首を横に振る。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
125
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる