淫愛家族

箕田 悠

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 両親を失い、進路に迷っていた高校時代を思い出す。迷惑をかけたくなくて黙っていた睦紀に、春馬は根気強く口を開くのを待っていてくれた。それどころか、誰にも言えなかった悩みだと言って、春馬は心の内を打ち明けてくれたのだ。

「恵まれた人生だって、周りに言われている。金もあれば、就職先にだって困りはしない。女性だって引く手あまただろうって。何も苦労はないなんて、羨ましいとも。でも、そんな人生だからこその悩みだってあるんだ。でも周囲はそれを贅沢な悩みだと思うだろう。だから、俺は不平不満は口にしないんだ」

 そう言って、どこか寂しそうに笑みを溢していた。

「でもな、そんな俺でも睦紀にはこうして話そうと思えるんだ。だから、睦紀も俺に頼ってくれると嬉しい。俺ばかりが頼るのは年上として、情けないだろう」

 そんなことはないと思ったが、睦紀はこれが春馬の気遣いであるということに気づく。彼は心の内を明かすことで、睦紀が少しでも話しやすくしようと考えているのだと。

「悩んでいたり不満があるなら、悪化する前に相談した方が良い」

 当時と同じ台詞を言われ、睦紀は閉ざしていた口を開こうとする。一人で抱え込むよりも春馬に話したほうが解決できるように思えた。

「実は――」

 そこでリビングが開き、俊政が現れる。出鼻をくじかれ、睦紀は再び口を閉ざす。

「おはよう、春馬。今日は早いな」

 そう言って上座に着く俊政は、いつになく上機嫌だった。俊政が来たのを皮切りに、瑞江も現れて忙しなく給仕を始める。話すタイミングは完全に逃してしまったようだった。

「昨日は睦紀と一緒に寝たんだ」

 唐突な俊政の発言に、場が一瞬凍りつく。決してやましい意味でなくとも、睦紀はコーヒーをむせそうになった。大の大人、それも男同士で一緒のベッドに寝るのは違和感があるように思えてしまう。

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