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しおりを挟む「や、やめてください!」
さすがに見ていられず、睦紀は慌てて止めにかかる。心底落ち込んでいるような表情の俊政と目が合い、自分が悪いことをしているような気分に陥る。
「睦紀は優しいね。こんな私を責めるわけでもない」
俊政が苦笑した面持ちで言った。そんなことを言われてしまったら、なおさら責めることなど出来なくなってしまう。
「睦紀は私が嫌いになったかい?」
ベッドに腰をおろした俊政が問う。
睦紀は一瞬答えに窮するも、ゆっくり首を横にふる。確かにされたことは人としてどうかとは思う。だが、こうして反省したような態度で接せられてしまうと、あれは魔が差してしまっただけかもしれないとさえ思えてしまう。
「……そうか。良かった。大事な息子に嫌われてしまったら、さすがに立ち直れないからね」
ホッとしたように肩の力を抜き、睦紀の頭を撫でてくる。いつもと変わらない優しい手と口調に、睦紀の緊張も次第に解けていく。
「お腹が空いたんじゃないか? お昼を持ってくるから此処にいなさい」
俊政の申し出を慌てて断るも、俊政は「身体が辛いだろう」と言ってさっさと部屋を出ていってしまう。
居た堪れない気持ちで待っていると、トレイに乗せた食事を手に俊政が戻ってくる。
「胃に優しいものを作ってもらった。昨日はたくさん注ぎ込んでしまったからね。少しいたわった方がいいだろう」
小鍋に入ったお粥を茶碗に移しながら、俊政は何ともない口調で言った。睦紀は羞恥にかられ、全身が熱くなる。どう返したら良いか分からず黙り込んでいると、「ほら、口開けて」と湯気の立つレンゲを向けられる。
「じ、自分で食べます」
そう言って睦紀が受け取ろうとするも、あっさりかわされてしまう。
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