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しおりを挟む「約束だからね。睦紀は一生、篠山家の一員だ」
俊政の弾んだような声に、睦紀は居たたまれない気持ちで頷いた。
お昼を食べ終えると、俊政から今日はゆっくり休んだ方がいいと促され、睦紀はもう一度ベッドに横たわった。思っていた以上に身体が重だるく、ベッドから出る気が起きないこともあって、その申し出はありがたい。
何かあったら呼ぶように、と言い残して俊政は部屋から出て行ってしまう。本来であれば自分の部屋に戻るべきだろう。だが、俊政から夫婦の寝室には行きづらいから、ここに居て欲しいと言われてしまったのだ。正直、落ち着かない気持ちではあったが、そう言われてしまえば仕方が無い。
ぼんやりとしているうちに微睡み始めてくる。夢と現実を行ったり来たりしつつ、気づいた時には三時を過ぎていた。さすがにのんびりしすぎたと、睦紀はまだ重だるさの残る身体を無理矢理起こす。
部屋から出て自身の部屋で着替えをし、階下に降りる。リビングに入ると、そこには春馬の姿があった。睦紀の姿を見るなり「大丈夫か?」と険しい顔でソファから立ち上がる。
どうして助けてくれなかったのか。その言葉を飲み込んで睦紀は硬く頷く。
「立っていても辛いだろう」
春馬はそう言って、睦紀の元に来ると肩を抱くようにしてソファに座らせてくる。
「水を飲むか? 小腹が空いたなら、ケーキがある」
「……大丈夫です」
「でも、水は飲んだほうがいい」
そう言って春馬は立ち上がってしまう。会話がなくなれば、室内は静まり返った。読みかけの経済誌と、口がつけられたコーヒーがテーブルに置かれている。春馬は睦紀が起きてくるまでの間、ここで過ごしていたのだろう。
落ち着きなく周囲を見渡していた睦紀の元に、春馬がグラスを片手に戻ってくる。
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