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空の器
しおりを挟む『ーー…お父さまもお兄さまも、開くことはできないのです』
少女は
ひみつですよ、と
笑った。
『ーー…干からびた老木のようだ。
あの魔女が使用したのもそれの類なんだろうが、代償は雲泥の差だ。
…本物の皇女は婚約破棄した元婚約者を手に入れられるという甘言に惑わされ、術を受けた。今も虚言に取り憑かれてる。
身柄は帝国に引き渡されるが、…恐らく処分されるだろう。魔女は此方で幽閉だ。長くは保たないと魔術師団の意見は一致してる。
……レオ、……ティアリア嬢は、』
古びた黒い革表紙の本。
内容を知る事が出来るのは始祖の魔力に共鳴する者のみ。
国王ですら知らされず、当主であっても資格がなければ同じ。
ーーただし開示するか否かの判断は当代の管理者に委ねられる。
過去それを開く事が出来た者はおらず、
読み解けたのは、ただ一人。
『……忘却』
きっとあれは、その中の禁呪だったんだ。
ーーーーあれから何日経ったのか、
目覚めて気づいたら、
すべて、終わっていた。
『ーー…此度は娘が申し訳ありません。
使用した魔法について詳しく延べる事は出来ない事をお許し下さい。
お伝え出来るのは記憶に関するものとだけ…娘は殿下の事を、…殿下にまつわる一切を想起出来ません。
"レオニール王太子殿下"という存在は理解していますが、それだけです。
…端的に言えば教科書に載っているような人物紹介だけしか知りません。
今回の一連の出来事、己がした事、王妃教育、幼き頃からの思い出、未来への誓い。
殿下が関わる事すべて、…殿下への想いすべて、娘にはありません。』
彼女はもう、何処にも存在しない。
俺を愛してくれた彼女は、いない。
『ーー…己の手で憂いを払ったのだ。国と、お前を守るためだ。
公表はするが最早彼女にとっては身に覚えのない事。
…諭しはしたがな…国としても手放すには覚悟が必要だったがーーあの魔女はお前の命と彼女の魔力が狙いだった。奪われていたらそれこそ取り返しがつかぬ。…今更、何をどう悔やんでも詮無い事だ。』
『…』
『ティアリア・ノイエ・リルムンド公爵令嬢との婚約は解消。成婚の日取りは変えぬ。
次の婚約者は彼の一族から魔力量で選定する。候補ではない。…その者は重責を与えられ茨の道を進む事になるだろう。時間もないしな。
ーー…レオニール。曇らず見定めるのは容易くはないとこの歳になっても改めて思い知る。
…守られた命を活かせ。覚悟を決め、己の責務を全うしろ。』
ティアリア、
「…すまない」
ティア、
「……すまない……」
すまない、
「…ティア、…っ」
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