巻き戻し?そんなの頼んでません。【完】

雪乃

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22.

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自分が眠っていると気づいたときには、すでに半分目覚めているという。

だからわかってしまう。


意識が、浮上する。




















「ーー、っ」



見慣れない部屋。見知らぬ顔ぶれ。

声がだせないことに狼狽えながら泣いていた。
起き上がることもできず、貼りついたように動かない身体のまま泣いていた。



しあわせな、夢を見ていたのに。


ずっと、見ていたかったのに。


また。また、だ。


また、わたしは目覚めてしまった。







もうどうしたらいいか、わからない。


上手に死ぬことすらできない。



「…っ、」



なんでこんなに涙がでるのか、


身体のなかから感じるあたたかさの理由も。












「……初めまして、ルコラ様……私はティアリアと言います。ここはエターナリア王国のーー」



その髪によく似た色のひとを、知ってる。



「…ーー声が…?ごめんなさい、触れますね…あぁ、滞っている…なんとこと…」



あたたかい手がわたしに触れる。

苦しげに歪める表情を、知ってる。



「ごめんなさい……」



謝る必要なんてない。
どうせ希望は生まれない。



悪いのはわたしなんです。

目の前でなんて、やってしまったから。

ごめんなさい。


今度は上手く、やりますから。















王太子妃殿下が魔力を流し施してくれた治療。
声帯まで及んだ傷が想定より深く一部分に魔力が溜まり、圧迫され声がでない。
馴染むのを待ちもう少し時間を置けば、話せるようになる。


医師に状態を説明され、うなずいた。


目覚めてからの意思疎通の手段はうなずくか、首を振るだけ。
筆記でのやり取りをするほど会話が弾む相手もいない。

ーーそんな気力も、何もなく、過ごしていた。



妃殿下は度々様子を見にきてくれる。
それでもわたしの態度が変わらないので周囲の視線は厳しいと感じる。わかっている。不敬だ。

命を救ってもらったのに。
他国の王宮で、手厚く看護してもらっているのに。


熱の正体を知り、あたたかさにたまらなくなるのに。



わかってる。


それでもそれを理由に罰して・・・くれればいいのにと思っている。







「ーー…王太子のレオニールだ」



わたしはそれを、


深く頭を垂れながら、

この方なら与えてくれるのではないかと考えていた。



「楽にしろ。」



威厳のある鋭い声。冷えた湖面のような瞳。



「声がでないと聞いている。一方的な会話になるがかまわないか?ーーあぁ、必要なときはもちろん答えてもらう」



促されソファーに座り首肯したあと備えていたノートとペンを指差し、許可を得それを手に取って膝に置いた。
緊張しているのか鼓動が少し速い。何か口にしておけばよかったと後悔したけれど、それはそれで最悪を引き起こしたかもしれない。
そう考えれば紅茶だけで正解だったかもしれない。


……彼は、このお方の側近だったのだ。
側にいないことできっと支障も生じたはず。

わたしがここにいる事実。
自分がしたことで国まで巻き込み、どれだけ迷惑や損害を与えてしまったのか再確認するたび胃がギリギリと捻られる。


なのにそれでもと。

口にだせない思いを抱えている。
身勝手だと言われようとも消せないものが。


わたしにとって正しい道はそれだけなのだ。






目を伏せていると正面でソファーがぎしりと鳴りわずかに顔を上げる。


侍女は扉付近まで下がっており、手前に騎士が三人。背後の側近と思われる男性は空気のように静かに佇んでいる。
肘当てに寄りかかるよう少し体勢を崩し、花を見つめるまなざし。
誰が生けてくれたのかわかっているんだろう。


ほんの少しだけ、表情が和らいだ気がしたから。



「……辛いか?」



視線はそちらに向けられたまま、沈黙のなかに言葉が落ちる。



「死にたいんだろう?きみは。…生きていたくない、と表現すべきか」

「…」

「きみの受けた仕打ちを思えば当然かもしれない。きみの感じた苦痛や悲しみ、絶望はきみにしかわからない。想像し寄り添うことはできても、その身に浴びなければ真に理解するなど難しい。
…どう並べても所詮他人事だからな」



そう思うことを、止めることなどできない。



「だが残念ながらーーここで悲願を果たすことは叶わないだろう。そのように周知しているし、
死にたがり・・・・・の少女の癇癪は見守るよう言ってある。何よりティアリアが悲しむようなことだけはぜったいしないし、させない。
俺にとって大事なのはそれだけだ。……もちろんブライスが悲しむことも当然阻止するから、」



諦めてくれ・・・・・



その言葉にどうしようもない理不尽憤りを感じ、掴む手が震え表情が歪む。

ーー死にたがり。

その通りなのに、幼稚だと言われているようで悔しさが滲む。



「不敬だと切り捨てることもしない」



そんなわたしを見て王太子殿下は笑った。







"国へ帰していただけないでしょうか"



会話は問題ないが文字にするには自信が足らず、怒りで震えているせいか余計歪な文字になってしまったが記したノートを掲げた。



「無理だな。きみは怪我人だ」

"王太子妃殿下の貴重な魔力をいただき救っていただいたことお礼申し上げます。王太子殿下、王宮の皆さまへ感謝いたします。
発声できないだけで他に不調はありませんので国へ帰りたく思います"

「駄目だな。というか貴重だと理解しているなら尚更それを生かしてほしいのだがな?それに国へ戻ったらまたすぐ死のうとするんじゃないか?
それはティアリアが悲しむ。みすみす見逃すわけにいかないな」

"ご迷惑をおかけすることはいたしません"



声を上げて笑い、頑なだなと書きだした文字を見る。



「今どうしても死ななければならない理由があるのか?遅かれ早かれひとは必ず死ぬ。今でなくとも一週間後、一か月後、一年後では駄目なのか?
そうでなければならない理由は?」



理由。理由など。
死にたいからだ。そうしたいから。
ずっとそう思っていたからだ。


ーー理由、など。


そう思うのにペンを動かすことができずにいると。



ひとなどすぐに死んでしまう・・・・・・・・・・・・・。……思っている以上に早く、な」



初めて怒りのような感情を向けられ、身体が恐怖に竦んだ。






















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