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第五章 再会
拾われ子の父の想い
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未だにシュウトに対して複雑な思いを募らせている部分は見受けられるが、記憶を取り戻す前よりかは少々和らいだ様に見える。
言葉不足故にスイの不満や不信を買ったのはシュウト自身の責任だ。その事を庇い立てするつもりはないが、シュウトの想いもひとつの事実として伝えておこうと、ソウジロウは十年前のその後を話し始めた。
「……シュウト様が屋敷にお戻りになったのは、あの日から四日後の事でした。東大陸に渡ったばかりだったシュウト様は、屋敷からの急報に駆け付けてくださり、その時にイズモ様の襲撃とスイ様がもう島にはいない事をお伝えしたのです」
実の兄はスイを殺そうと反乱し、失敗したが逃亡。珠の様に大事にして可愛がっていた姪は、イズモから逃がす為にセイに託して行方不明。
イズミの部屋で、土下座をしたソウジロウから聞かされたふたつの重すぎる事実に、話を聞き終わるや否やシュウトは屋敷中に響く程の声で怒鳴った。
「兄上とソウジロウがいながら、これはどういう事ですか!!」
敬愛しているイズミに対してシュウトが怒鳴ったのは、これが初めてだったとソウジロウは記憶している。
ソウジロウは頭を上げてイズミに非は無い事を弁明しようとしたがイズミはそれを手で制し、シュウトの怒りに反論も言い訳もせずに、ただ己の至らなさを認めて謝った。ぶるぶると手が震える程の怒りだったが、それ以上シュウトはイズミに何も言えなかった。
「お前の怒りは尤もだが、全ては私の非。ソウジロウは責めないでくれ。イズモの行方に関しては、傷の浅かった者が既に動いている。残りの者は傷が癒え次第、スイの捜索に――」
「それでは遅過ぎます。俺が、捜しに行きます」
シュウトの決意は固かった。ソウジロウの説得も聞かず、イズミも島外の事ならばシュウトの方が適任だろうと納得した。
「……シュウト、これは当主からの命令ではない。娘一人守る事が出来なかった至らない兄から、弟であるお前へのお願いだと思って聞いてくれ」
そう言った時のイズミの眼差しは、ソウジロウの記憶に深く刻まれている。そして、ソウジロウはきっとシュウトも同じだろうと思っている。
あの眼を、一生忘れる事は無いだろうと。
「何処かでスイを見付けた時、誰かに拾われて幸せに生きているならば、そのままその家の子にしてもらってくれ。だが、もしそうではなかったのなら――シュウト、お前が父親となってあの子を引き取り、此処から離れた遠い何処かで親子として一緒に暮らしてやってくれないか」
シュウトは弾かれた様にイズミの胸倉を掴んだ。イズミと同じ燐灰石色の双眸が、激しい怒りと悲しみで揺れていた。
「ふざけるな!! ……それでも父親か……!? そんな簡単に我が子を手放せるものなのか……!?」
「軽い考えで言っている訳では無いよ。スイを見つけても、イズモをどうにかしなければこの島はスイにとって危険な地のままだ。それに、私は子ども達との時間よりも自身の役目を優先させてきた。特にスイと触れ合った時間は、シズクやミズキよりも少ない」
見付け出すのにどれだけの時間が掛かるのかは判らないが、時が経てば経つ程、幼いスイの中から父親の記憶は薄れていき、何れ消えるだろう。
イズミは静かに話を続ける。
「こんな酷い父親の事は忘れ、よく可愛がってくれたお前が父親になってくれた方があの子は幸せだと思う。だから、巻き込んでしまってすまないがシュウトさえ良ければあの子と生きてほしい」
「……それについては、俺の一存では承諾出来ません。見つけた時に兄上の事を覚えていようがなかろうが、最も尊重されるべきはスイの意思でしょう。まずは一刻も早くスイを見付けるべく、俺は動きます。親子になるかどうかはその後だ」
「……そうだね、その通りだ。お前には苦労をかけてしまうが、よろしく頼む」
それからすぐに、シュウトは極東の島国を発った。ソウジロウを筆頭とした影の一族と情報交換をしながら、七年間世界中を捜し回ったのだ。その間、一度も故郷に帰らずに。
「……本当に、情の深い御方でございます。多少言葉が足りない所も、あまり本心を表に出さない所もあり、そのせいでスイ様が苦しまれたのも事実ですが……シュウト様の想いも知っておいていただきとうございます。そして、出来る事ならばイズミ様の想いも」
それは、正しくはなかったかもしれない。けれど、イズミもサク同様に、スイを守る為に手放そうとした。
『………………は、い』
ぽつり、零れたのは返事だけではなかった。
「……お茶をどうぞ。喉に詰まらせては大変ですからな」
『…………ありがとうございます』
礼を述べたスイは湯呑みを受け取って二口程飲むと、思い出した様に食べかけのおにぎりをまた頬張った。
「(……あの時は半分程食べて満腹になり、シュウト様の膝で眠ってしまわれたが……健やかに成長されておる)」
スイは今、二個目を食べている。もう間もなく完食するだろう。濡れた目で黙々と食べるスイを感慨深く眺めていたソウジロウだが、僅かに表情を曇らせた。
「(……知らなくて良い事もある。意識が逸れているなら、今知らせる必要もなかろう……)」
スイに話した真実には、敢えて欠けさせた部分がある。
本人が知りたいと願うならば、或いは、そうでなくともいつか知る事になる時が来るかもしれないが、それまでは知らせずにいようと。
「(少しでも長く、心穏やかに過ごしていただきたい)」
ソウジロウは従者としての願いを心に秘めて、空になった皿と湯呑みをテーブルに置いたスイに微笑んだ。
言葉不足故にスイの不満や不信を買ったのはシュウト自身の責任だ。その事を庇い立てするつもりはないが、シュウトの想いもひとつの事実として伝えておこうと、ソウジロウは十年前のその後を話し始めた。
「……シュウト様が屋敷にお戻りになったのは、あの日から四日後の事でした。東大陸に渡ったばかりだったシュウト様は、屋敷からの急報に駆け付けてくださり、その時にイズモ様の襲撃とスイ様がもう島にはいない事をお伝えしたのです」
実の兄はスイを殺そうと反乱し、失敗したが逃亡。珠の様に大事にして可愛がっていた姪は、イズモから逃がす為にセイに託して行方不明。
イズミの部屋で、土下座をしたソウジロウから聞かされたふたつの重すぎる事実に、話を聞き終わるや否やシュウトは屋敷中に響く程の声で怒鳴った。
「兄上とソウジロウがいながら、これはどういう事ですか!!」
敬愛しているイズミに対してシュウトが怒鳴ったのは、これが初めてだったとソウジロウは記憶している。
ソウジロウは頭を上げてイズミに非は無い事を弁明しようとしたがイズミはそれを手で制し、シュウトの怒りに反論も言い訳もせずに、ただ己の至らなさを認めて謝った。ぶるぶると手が震える程の怒りだったが、それ以上シュウトはイズミに何も言えなかった。
「お前の怒りは尤もだが、全ては私の非。ソウジロウは責めないでくれ。イズモの行方に関しては、傷の浅かった者が既に動いている。残りの者は傷が癒え次第、スイの捜索に――」
「それでは遅過ぎます。俺が、捜しに行きます」
シュウトの決意は固かった。ソウジロウの説得も聞かず、イズミも島外の事ならばシュウトの方が適任だろうと納得した。
「……シュウト、これは当主からの命令ではない。娘一人守る事が出来なかった至らない兄から、弟であるお前へのお願いだと思って聞いてくれ」
そう言った時のイズミの眼差しは、ソウジロウの記憶に深く刻まれている。そして、ソウジロウはきっとシュウトも同じだろうと思っている。
あの眼を、一生忘れる事は無いだろうと。
「何処かでスイを見付けた時、誰かに拾われて幸せに生きているならば、そのままその家の子にしてもらってくれ。だが、もしそうではなかったのなら――シュウト、お前が父親となってあの子を引き取り、此処から離れた遠い何処かで親子として一緒に暮らしてやってくれないか」
シュウトは弾かれた様にイズミの胸倉を掴んだ。イズミと同じ燐灰石色の双眸が、激しい怒りと悲しみで揺れていた。
「ふざけるな!! ……それでも父親か……!? そんな簡単に我が子を手放せるものなのか……!?」
「軽い考えで言っている訳では無いよ。スイを見つけても、イズモをどうにかしなければこの島はスイにとって危険な地のままだ。それに、私は子ども達との時間よりも自身の役目を優先させてきた。特にスイと触れ合った時間は、シズクやミズキよりも少ない」
見付け出すのにどれだけの時間が掛かるのかは判らないが、時が経てば経つ程、幼いスイの中から父親の記憶は薄れていき、何れ消えるだろう。
イズミは静かに話を続ける。
「こんな酷い父親の事は忘れ、よく可愛がってくれたお前が父親になってくれた方があの子は幸せだと思う。だから、巻き込んでしまってすまないがシュウトさえ良ければあの子と生きてほしい」
「……それについては、俺の一存では承諾出来ません。見つけた時に兄上の事を覚えていようがなかろうが、最も尊重されるべきはスイの意思でしょう。まずは一刻も早くスイを見付けるべく、俺は動きます。親子になるかどうかはその後だ」
「……そうだね、その通りだ。お前には苦労をかけてしまうが、よろしく頼む」
それからすぐに、シュウトは極東の島国を発った。ソウジロウを筆頭とした影の一族と情報交換をしながら、七年間世界中を捜し回ったのだ。その間、一度も故郷に帰らずに。
「……本当に、情の深い御方でございます。多少言葉が足りない所も、あまり本心を表に出さない所もあり、そのせいでスイ様が苦しまれたのも事実ですが……シュウト様の想いも知っておいていただきとうございます。そして、出来る事ならばイズミ様の想いも」
それは、正しくはなかったかもしれない。けれど、イズミもサク同様に、スイを守る為に手放そうとした。
『………………は、い』
ぽつり、零れたのは返事だけではなかった。
「……お茶をどうぞ。喉に詰まらせては大変ですからな」
『…………ありがとうございます』
礼を述べたスイは湯呑みを受け取って二口程飲むと、思い出した様に食べかけのおにぎりをまた頬張った。
「(……あの時は半分程食べて満腹になり、シュウト様の膝で眠ってしまわれたが……健やかに成長されておる)」
スイは今、二個目を食べている。もう間もなく完食するだろう。濡れた目で黙々と食べるスイを感慨深く眺めていたソウジロウだが、僅かに表情を曇らせた。
「(……知らなくて良い事もある。意識が逸れているなら、今知らせる必要もなかろう……)」
スイに話した真実には、敢えて欠けさせた部分がある。
本人が知りたいと願うならば、或いは、そうでなくともいつか知る事になる時が来るかもしれないが、それまでは知らせずにいようと。
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