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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
夜会の後始末~ラインハルト③~
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僕は王宮にある塔に来ていた。
そこは重大な犯罪を犯した貴族が収容される場所。
今、ここに元婚約者の父であるメイナード侯爵が投獄されている。
昨夜の夜会で侯爵は欠席しているアシュリーの上げ足をとったのだ。
それも僕が弟である第四王子レオパルドに臣下として挨拶を述べる重要な場面でだ。
明らかな妨害に、貴族も不快な視線を送っていた。
そして、彼はこう言った。
「何故、この場に公爵夫人が同席していないのか」
自分たちの計画が上手くいって、アシュリーが死んだか大怪我を負ってその場にいないのだろうと考えたのだろう。
「僕の妻が今日この場にいない事は陛下もご存じだ。彼女は王族としての務めを果たしている。それは血を残すこと。お産が始まりそうだから、後宮に残してきた」
その言葉に他の貴族はざわめきだした。
今、王族の数は少ない。王子も僕とレオパルドだけだ。
だが、アシュリーが子供を産むとなれば、王位継承権を持つ者が増えるのだ。
喜ばしいことだと、誰もが口に出していた。
自分たちの計画が思うそうにいかなかった侯爵は、今度はアシュリーの出自を盾に抗議しだした。
──アシュリーがデニーロ伯爵の庶子。
そう騒ぎ立てたのだ。
僕は、そのことについても説明してやった。
既にデニーロ伯爵の戸籍から抹消されており、彼女の母親は隣国サザーランドのペティール侯爵の従妹あたり、王族の血も受け継いでいる事を告げたのだ。
多くの貴族は、「それならば公爵夫人として相応しい」そう口々に言っていた。
そこに頭の悪いウルスラが、
「そんなのでたらめよ。あんな女より私の方が相応しい」
くだらない事を言いだして僕に詰め寄ろうとした。
この場は新王太子を発表するための場であることは事前に貴族達に通達されていた。
それを妨害することがどれほどの罪に問われるのか分かっていない。
愚かな女だ。そして、そんな女を僕に押し付けようとしたこの男、ドナルド・メイナードにも腹が立つ。
僕を飼いならそうと失敗したから今度は、僕の弟を利用した。それもしくじれば今度はこの女か。
思えばアデイラも憐れな女だ。こんな男の娘に生まれてこなければ、彼女は間違いなく幸せになれただろう。
僕とさえ関わりにならなければ良かったのだ。
僕の怒りは頂点に達していた。
「黙れ、僕が何も知らないと思っているのか。僕の母上を毒殺した首謀者、ドナルド・メイナード侯爵。それに共謀したデニーロ伯爵夫妻。王族への暴行を働いたデニーロ伯爵令嬢。彼らの拘束を希望します」
そう陛下に懇願した時だった。
バタバタと親衛隊が会場に入ってきたかと思うと陛下に耳打ちをし、パリスの部下が僕の所にやってきた。
「大変です。イランジェ妃がご乱心です。アグネス様に襲い掛かろうとした時、アシュリー様が庇われて…」
「アシュリーが怪我をしたのか!」
「いえ、ただ、破水されて、お産が始まったと」
「分かった直ぐに行く!」
その報告が聞こえていたのだろう。メイナード侯爵の口角が上がるのを僕は見逃がさなかった。
僕は、侯爵に剣を突きつけ、
「アシュリーに何かあったら、僕は貴様を八つ裂きにしてやる」
そう言って、その場を離れた。
陛下は直ぐに侯爵らを拘束し、地下牢に投獄した。
侯爵だけは、北側にある塔に投獄されたのだ。
そこは、重大な犯罪を犯した貴族が死刑を待つ場所でもあった。
アシュリーは、腹を打った衝撃で破水していた。何度もお産の最中に気を失いかけて、難産となった。
しかし、彼女はその死に打ち勝って僕の元に帰って来てくれた。
もう、子供はいらない。
つい本音を漏らしてしまった僕を周りは誰も咎めなかった。
僕にとっては自分の子供より、アシュリーの方が大切だった。また、同じことが繰り返されると思うと僕には耐えられなかった。
生まれた女の子を「アンジェリカ」と名付けて、腕に抱いた。小さな手で僕の指を力いっぱい握っている愛しい存在。
僕の最愛の人が命がけで産んでくれた子供を守る為にも、邪魔者は始末しなければならない。
それが例え、かつて父の様に慕っていた相手だろうと容赦はしない。
そう心に固く誓って、僕は塔の扉を開いた。
そこには、鎖で繋がれた傲慢な貴族そのものの男の姿があったのだ。
そこは重大な犯罪を犯した貴族が収容される場所。
今、ここに元婚約者の父であるメイナード侯爵が投獄されている。
昨夜の夜会で侯爵は欠席しているアシュリーの上げ足をとったのだ。
それも僕が弟である第四王子レオパルドに臣下として挨拶を述べる重要な場面でだ。
明らかな妨害に、貴族も不快な視線を送っていた。
そして、彼はこう言った。
「何故、この場に公爵夫人が同席していないのか」
自分たちの計画が上手くいって、アシュリーが死んだか大怪我を負ってその場にいないのだろうと考えたのだろう。
「僕の妻が今日この場にいない事は陛下もご存じだ。彼女は王族としての務めを果たしている。それは血を残すこと。お産が始まりそうだから、後宮に残してきた」
その言葉に他の貴族はざわめきだした。
今、王族の数は少ない。王子も僕とレオパルドだけだ。
だが、アシュリーが子供を産むとなれば、王位継承権を持つ者が増えるのだ。
喜ばしいことだと、誰もが口に出していた。
自分たちの計画が思うそうにいかなかった侯爵は、今度はアシュリーの出自を盾に抗議しだした。
──アシュリーがデニーロ伯爵の庶子。
そう騒ぎ立てたのだ。
僕は、そのことについても説明してやった。
既にデニーロ伯爵の戸籍から抹消されており、彼女の母親は隣国サザーランドのペティール侯爵の従妹あたり、王族の血も受け継いでいる事を告げたのだ。
多くの貴族は、「それならば公爵夫人として相応しい」そう口々に言っていた。
そこに頭の悪いウルスラが、
「そんなのでたらめよ。あんな女より私の方が相応しい」
くだらない事を言いだして僕に詰め寄ろうとした。
この場は新王太子を発表するための場であることは事前に貴族達に通達されていた。
それを妨害することがどれほどの罪に問われるのか分かっていない。
愚かな女だ。そして、そんな女を僕に押し付けようとしたこの男、ドナルド・メイナードにも腹が立つ。
僕を飼いならそうと失敗したから今度は、僕の弟を利用した。それもしくじれば今度はこの女か。
思えばアデイラも憐れな女だ。こんな男の娘に生まれてこなければ、彼女は間違いなく幸せになれただろう。
僕とさえ関わりにならなければ良かったのだ。
僕の怒りは頂点に達していた。
「黙れ、僕が何も知らないと思っているのか。僕の母上を毒殺した首謀者、ドナルド・メイナード侯爵。それに共謀したデニーロ伯爵夫妻。王族への暴行を働いたデニーロ伯爵令嬢。彼らの拘束を希望します」
そう陛下に懇願した時だった。
バタバタと親衛隊が会場に入ってきたかと思うと陛下に耳打ちをし、パリスの部下が僕の所にやってきた。
「大変です。イランジェ妃がご乱心です。アグネス様に襲い掛かろうとした時、アシュリー様が庇われて…」
「アシュリーが怪我をしたのか!」
「いえ、ただ、破水されて、お産が始まったと」
「分かった直ぐに行く!」
その報告が聞こえていたのだろう。メイナード侯爵の口角が上がるのを僕は見逃がさなかった。
僕は、侯爵に剣を突きつけ、
「アシュリーに何かあったら、僕は貴様を八つ裂きにしてやる」
そう言って、その場を離れた。
陛下は直ぐに侯爵らを拘束し、地下牢に投獄した。
侯爵だけは、北側にある塔に投獄されたのだ。
そこは、重大な犯罪を犯した貴族が死刑を待つ場所でもあった。
アシュリーは、腹を打った衝撃で破水していた。何度もお産の最中に気を失いかけて、難産となった。
しかし、彼女はその死に打ち勝って僕の元に帰って来てくれた。
もう、子供はいらない。
つい本音を漏らしてしまった僕を周りは誰も咎めなかった。
僕にとっては自分の子供より、アシュリーの方が大切だった。また、同じことが繰り返されると思うと僕には耐えられなかった。
生まれた女の子を「アンジェリカ」と名付けて、腕に抱いた。小さな手で僕の指を力いっぱい握っている愛しい存在。
僕の最愛の人が命がけで産んでくれた子供を守る為にも、邪魔者は始末しなければならない。
それが例え、かつて父の様に慕っていた相手だろうと容赦はしない。
そう心に固く誓って、僕は塔の扉を開いた。
そこには、鎖で繋がれた傲慢な貴族そのものの男の姿があったのだ。
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