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アリスティア編
それぞれの道
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今、私は母の墓参りをしている。
「アデライトが亡くなって、一年が過ぎるのだな」
父は母の葬儀に出ていない。だから記憶にない。
あの日【記憶欠乏症】と診断された時、ある特定の人物の記憶だけが抜け落ちていた。
一人はマリエル。もう一人はエリーゼ。そしてローフェル。
父は自分の中で3人に関する事だけ抜け落ちていた。そして塗り替えていた。
エリーゼとマリエルと過ごした年月はアリスティアとアデライトと過ごした年月にすり替えられ、今もアデライトを愛している。
医師からそう告げられ、それでもマリエルとエリーゼは父の見舞いに訪れたが、彼女らを見ると父が暴れたり、過呼吸を引き起こすので、病院が立ち入らせなかった。
正式に父と別れさせ、二度と王都に戻らせない様にした。マリエルは公爵家への侮辱、偽証罪で咽喉を潰され辺境の鉱山送りにされた。もう二度と甘い声で人を惑わさない様にする為だ。
エリーゼは母親の所為で生い立ちが不幸ではあったが、その性格が捻じ曲がった事から、今後の憂いを無くす為、北の戒律の厳しい修道院で強制労働をさせられている。
ケロイド様は恥も外聞もなく、レイラン様に頭を下げてというか付きまとわれて仕方なく公爵家の持つ商団に入れた。
「意外といい拾い物ができたかも」
と言っていたことは本人には言わない。言えばきっと天狗になるから。あの高飛車な性格を直すのに丁度いいから内緒の話だ。
エミリーナ様とルミエル様。アイリーン様とローレン様は晴れて婚約した。今も時々学院を卒業してもお茶をしている。
父は昔と違って記憶が無い分、何処か私を溺愛していて、レイラン様と張り合っている。そんな日常を過ごせるなんて奇跡の様だった。
実は内緒だが、あのデビュタントで落とした靴を拾ったのはレイラン様で、今も思い出に大切に持っているらしい。
「君はダンスの誘いをした私をきれいさっぱり忘れていたようだけど、私はちゃんと覚えているから、何時か罰を言い渡すよ」
と言われ、意外と執念深そうと思ったことは秘密。どんな罰を言われるのかはちょっと怖い。
私はというと、あれから記憶の欠落も無く順調に学院を卒業した。来年の春にはレイラン様と挙式する予定。
父は記憶が無いけれど、他の事は覚えているので、療養がてら領地に引き籠る予定。暫くは王都に帰って来られないから、今日は皆で母の墓参りに来ている。
「お母様、満足ですか?貴女の願いは叶いましたか?」
私は、母に問いかける。
父が自殺未遂を起こした日、聞こえるはずのない母の部屋の呼び鈴を聞いたと何人もの使用人らが証言した。
あれは母が父を助ける為にした事。そして、母は父の苦しみを和らげる為にその罪を記憶から消したのだ。
誰かに呼ばれて帰る途中母のお墓の方を見ると、母が笑顔で手を振っている。隣にいるのは父、そして小さな女の子がいる。いつか夢で見た光景。あれはきっと正夢で、母は私達の忌まわしい記憶を持って行ったのだ。
『ありがとう、アリスティア』
母の声が聞こえたような気がするのは、この雲一つない晴れた青空の所為だろうか?
地味で目立たない様に生きてきた私は、記憶を取戻し愛する人の隣を歩ける日が来るなんて、あの頃の私には想像もできない。
ひっそりと道に咲く花の様に生きたかった令嬢は、今は誇り高き公爵令嬢として生まれ変わった。
これからもレイラン様に寄り添って生きていこう。折角、言葉があるのだから、話し合って解決する糸口を見つけながら。
彼が言うように言葉にしないと判らない事もあるのだから。
「ティア、何をしているんだ。置いていくぞ」
「あ、待って下さい。今行きます」
私はレイラン様の差し出したその手を掴んだ。
これからも決して離さないと心に誓って。
ーーfin--
「アデライトが亡くなって、一年が過ぎるのだな」
父は母の葬儀に出ていない。だから記憶にない。
あの日【記憶欠乏症】と診断された時、ある特定の人物の記憶だけが抜け落ちていた。
一人はマリエル。もう一人はエリーゼ。そしてローフェル。
父は自分の中で3人に関する事だけ抜け落ちていた。そして塗り替えていた。
エリーゼとマリエルと過ごした年月はアリスティアとアデライトと過ごした年月にすり替えられ、今もアデライトを愛している。
医師からそう告げられ、それでもマリエルとエリーゼは父の見舞いに訪れたが、彼女らを見ると父が暴れたり、過呼吸を引き起こすので、病院が立ち入らせなかった。
正式に父と別れさせ、二度と王都に戻らせない様にした。マリエルは公爵家への侮辱、偽証罪で咽喉を潰され辺境の鉱山送りにされた。もう二度と甘い声で人を惑わさない様にする為だ。
エリーゼは母親の所為で生い立ちが不幸ではあったが、その性格が捻じ曲がった事から、今後の憂いを無くす為、北の戒律の厳しい修道院で強制労働をさせられている。
ケロイド様は恥も外聞もなく、レイラン様に頭を下げてというか付きまとわれて仕方なく公爵家の持つ商団に入れた。
「意外といい拾い物ができたかも」
と言っていたことは本人には言わない。言えばきっと天狗になるから。あの高飛車な性格を直すのに丁度いいから内緒の話だ。
エミリーナ様とルミエル様。アイリーン様とローレン様は晴れて婚約した。今も時々学院を卒業してもお茶をしている。
父は昔と違って記憶が無い分、何処か私を溺愛していて、レイラン様と張り合っている。そんな日常を過ごせるなんて奇跡の様だった。
実は内緒だが、あのデビュタントで落とした靴を拾ったのはレイラン様で、今も思い出に大切に持っているらしい。
「君はダンスの誘いをした私をきれいさっぱり忘れていたようだけど、私はちゃんと覚えているから、何時か罰を言い渡すよ」
と言われ、意外と執念深そうと思ったことは秘密。どんな罰を言われるのかはちょっと怖い。
私はというと、あれから記憶の欠落も無く順調に学院を卒業した。来年の春にはレイラン様と挙式する予定。
父は記憶が無いけれど、他の事は覚えているので、療養がてら領地に引き籠る予定。暫くは王都に帰って来られないから、今日は皆で母の墓参りに来ている。
「お母様、満足ですか?貴女の願いは叶いましたか?」
私は、母に問いかける。
父が自殺未遂を起こした日、聞こえるはずのない母の部屋の呼び鈴を聞いたと何人もの使用人らが証言した。
あれは母が父を助ける為にした事。そして、母は父の苦しみを和らげる為にその罪を記憶から消したのだ。
誰かに呼ばれて帰る途中母のお墓の方を見ると、母が笑顔で手を振っている。隣にいるのは父、そして小さな女の子がいる。いつか夢で見た光景。あれはきっと正夢で、母は私達の忌まわしい記憶を持って行ったのだ。
『ありがとう、アリスティア』
母の声が聞こえたような気がするのは、この雲一つない晴れた青空の所為だろうか?
地味で目立たない様に生きてきた私は、記憶を取戻し愛する人の隣を歩ける日が来るなんて、あの頃の私には想像もできない。
ひっそりと道に咲く花の様に生きたかった令嬢は、今は誇り高き公爵令嬢として生まれ変わった。
これからもレイラン様に寄り添って生きていこう。折角、言葉があるのだから、話し合って解決する糸口を見つけながら。
彼が言うように言葉にしないと判らない事もあるのだから。
「ティア、何をしているんだ。置いていくぞ」
「あ、待って下さい。今行きます」
私はレイラン様の差し出したその手を掴んだ。
これからも決して離さないと心に誓って。
ーーfin--
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