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おかしな店
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中に入ると、テーブルや椅子、カウンター席もあり、今風のお洒落な飲食店という内装。
残念ながらその客層を見ると妙な違和感しかない。
何処を見ても男だらけ、ジルベスターが言うような貴族令嬢が見当たらない。
もしかして女性は私一人なのだろうか?
その嫌な予感は的中した。
もしかしなくてもアディーナ一人しかいなかった。いや正確には侍女も連れているのだから二人…。今はそんな細かいことなどどうでもいい。アディーナがもう一度店内を見渡してみても結果は同じだった。
がっくりと項垂れているアディーナにジルベスターは、
「ごめん想像していたのと違っていた?でもここの料理は美味しいんだ。中でも……」
熱心に料理の美味しさを騙っているジルベスターには悪いが、アディーナの令嬢としての品位に関わるとばかりにその場からこっそり逃げようとしていた。
「どこに行こうとしているの?折角来たんだから食事をして行こうよ」
後退りをしていたアディ―ナの手首を掴んでジルベスターはにっこりと微笑んだ。
その微笑みがアディーナには黒く見えた。
ジルベスターがカウンターの席にアディ―ナを案内すると、店の奥から野太い声の店主らしく人物が声をかけてきた。
「久しぶりね」
「ええ、店長もお元気そうで」
「勿論、元気よ」
大きな体躯の男性は、真っ白なエプロン姿で、頬に大きな十字の傷跡がある。
しかし、その体に似合わず、仕草や言葉遣いが何だか女性の様。
素敵な内装のお洒落な飲食店には似合わない体躯の店主に、平民の服を着ていても普通の平民には見えない客。
近くの男性の手には傷跡もある。これは剣で出来た傷の様だ。
アディーナも領地でこういった人たちを大勢見ているから分かる。
彼らは騎士なのだ。
ということはここは騎士達の憩い?の場所の様なものなのだろうか。
それにこの店主も注意深く見ると歩き方にも特徴がある。気配を消している様なそんな歩き方をしていた。
この人もきっと元は騎士だったのだろう。
しかし、年齢的には騎士を引退するには早すぎる。
だとしたら、病気か怪我による引退だったのかもしれない。
残念ながら内装がどんなにお洒落でも、客層が強面の男たちが屯っている店に普通の令嬢は寄り付かないだろう。
アディーナはどうして、ジルベスターがここを選んだのか分からなかった。
「どうしたの?早く座れば」
「ええ…」
アディーナの顔は強張っている。出来ればどんなに美味しくてもここでの食事は遠慮したい。
尻込みし始めたアディ―ナの手をぐいっと引っ張って、ジルベスターが自分の席の隣に強引に座らせた。
「店長、いつものやつな」
「分かったわ。でも隣のお嬢ちゃんは誰?もしかしてジル君のいい人なのかしら?」
揶揄うようにケラケラ笑う姿にアディ―ナは更に居心地を悪くした。
「そうなんだ。最近付き合い始めたんだけどね」
「とうとう難攻不落の男爵様も結婚を考える年になったのね」
「まだ気が早いよ。出会って3日目なのに」
「あら、恋に時間は関係ないわよ。今流行の本にだって書かれているじゃない。『真実の愛を見つけたから君とは婚約破棄する』ってね」
「ああ…あのくだらない」
「まあ、くだらないですって、女はいつもロマンスを求めているのよ。愛は障害が多いほど燃えるものよ」
「はあ─っ、そうなのか」
ジルベスターはアディーナの方を問いかける様に見ていた。
「私には分かりませんが…」
「まあ可哀想にそんな燃える様な恋をしていないなんて、折角女性に生まれてきたのに勿体ないでしょう。今からでも遅くはないわ。相手なら他にいくらでもいるわよ」
「おいおい、俺がその相手なのに不貞を唆すのは止めてくれよ!」
面倒だとばかりにジルベスターは話を打ち切った。
しかし、店長は話足りないのか。アディーナにこっそり耳打ちした。
「ねえ、本当にそんな恋をしている人を知っているわ。今この二階にいるんだけれど、ほら降りてきた」
アディーナが階段から降りてきた人物を見て驚いた。
階段から楽しそうな笑い声と甘える様な声を出していたのはアンネローゼだった。
そして、その隣の人物にも身に覚えがある。
──あれは…算術の先生ではなかったかしら…。
恋人同士の様に腕を絡めて、くっついる様子は誰が見ても親密な関係だと分かる。
でもおかしい。今は先生たちは試験問題を作成中のはず。
こんな所で女子生徒と会っているなんて…。
アディーナは訝しみながら、横目で見ていた。
「それじゃあ、いつもの場所で」
アンネローゼと先生は、アディーナとジルベスターに気付くことなく、仲良く店を出て行った。
「どうしたんだ?」
ジルベスターの問いにアディ―ナは今見たことを話すべきか迷っていた。
アディーナが俯いて悩んでいる横で、ジルベスターは店主にこっそり目配せをしていた。
だが、俯いて考え事をしていたアディーナにはその姿は見えていなかったのだった。
残念ながらその客層を見ると妙な違和感しかない。
何処を見ても男だらけ、ジルベスターが言うような貴族令嬢が見当たらない。
もしかして女性は私一人なのだろうか?
その嫌な予感は的中した。
もしかしなくてもアディーナ一人しかいなかった。いや正確には侍女も連れているのだから二人…。今はそんな細かいことなどどうでもいい。アディーナがもう一度店内を見渡してみても結果は同じだった。
がっくりと項垂れているアディーナにジルベスターは、
「ごめん想像していたのと違っていた?でもここの料理は美味しいんだ。中でも……」
熱心に料理の美味しさを騙っているジルベスターには悪いが、アディーナの令嬢としての品位に関わるとばかりにその場からこっそり逃げようとしていた。
「どこに行こうとしているの?折角来たんだから食事をして行こうよ」
後退りをしていたアディ―ナの手首を掴んでジルベスターはにっこりと微笑んだ。
その微笑みがアディーナには黒く見えた。
ジルベスターがカウンターの席にアディ―ナを案内すると、店の奥から野太い声の店主らしく人物が声をかけてきた。
「久しぶりね」
「ええ、店長もお元気そうで」
「勿論、元気よ」
大きな体躯の男性は、真っ白なエプロン姿で、頬に大きな十字の傷跡がある。
しかし、その体に似合わず、仕草や言葉遣いが何だか女性の様。
素敵な内装のお洒落な飲食店には似合わない体躯の店主に、平民の服を着ていても普通の平民には見えない客。
近くの男性の手には傷跡もある。これは剣で出来た傷の様だ。
アディーナも領地でこういった人たちを大勢見ているから分かる。
彼らは騎士なのだ。
ということはここは騎士達の憩い?の場所の様なものなのだろうか。
それにこの店主も注意深く見ると歩き方にも特徴がある。気配を消している様なそんな歩き方をしていた。
この人もきっと元は騎士だったのだろう。
しかし、年齢的には騎士を引退するには早すぎる。
だとしたら、病気か怪我による引退だったのかもしれない。
残念ながら内装がどんなにお洒落でも、客層が強面の男たちが屯っている店に普通の令嬢は寄り付かないだろう。
アディーナはどうして、ジルベスターがここを選んだのか分からなかった。
「どうしたの?早く座れば」
「ええ…」
アディーナの顔は強張っている。出来ればどんなに美味しくてもここでの食事は遠慮したい。
尻込みし始めたアディ―ナの手をぐいっと引っ張って、ジルベスターが自分の席の隣に強引に座らせた。
「店長、いつものやつな」
「分かったわ。でも隣のお嬢ちゃんは誰?もしかしてジル君のいい人なのかしら?」
揶揄うようにケラケラ笑う姿にアディ―ナは更に居心地を悪くした。
「そうなんだ。最近付き合い始めたんだけどね」
「とうとう難攻不落の男爵様も結婚を考える年になったのね」
「まだ気が早いよ。出会って3日目なのに」
「あら、恋に時間は関係ないわよ。今流行の本にだって書かれているじゃない。『真実の愛を見つけたから君とは婚約破棄する』ってね」
「ああ…あのくだらない」
「まあ、くだらないですって、女はいつもロマンスを求めているのよ。愛は障害が多いほど燃えるものよ」
「はあ─っ、そうなのか」
ジルベスターはアディーナの方を問いかける様に見ていた。
「私には分かりませんが…」
「まあ可哀想にそんな燃える様な恋をしていないなんて、折角女性に生まれてきたのに勿体ないでしょう。今からでも遅くはないわ。相手なら他にいくらでもいるわよ」
「おいおい、俺がその相手なのに不貞を唆すのは止めてくれよ!」
面倒だとばかりにジルベスターは話を打ち切った。
しかし、店長は話足りないのか。アディーナにこっそり耳打ちした。
「ねえ、本当にそんな恋をしている人を知っているわ。今この二階にいるんだけれど、ほら降りてきた」
アディーナが階段から降りてきた人物を見て驚いた。
階段から楽しそうな笑い声と甘える様な声を出していたのはアンネローゼだった。
そして、その隣の人物にも身に覚えがある。
──あれは…算術の先生ではなかったかしら…。
恋人同士の様に腕を絡めて、くっついる様子は誰が見ても親密な関係だと分かる。
でもおかしい。今は先生たちは試験問題を作成中のはず。
こんな所で女子生徒と会っているなんて…。
アディーナは訝しみながら、横目で見ていた。
「それじゃあ、いつもの場所で」
アンネローゼと先生は、アディーナとジルベスターに気付くことなく、仲良く店を出て行った。
「どうしたんだ?」
ジルベスターの問いにアディ―ナは今見たことを話すべきか迷っていた。
アディーナが俯いて悩んでいる横で、ジルベスターは店主にこっそり目配せをしていた。
だが、俯いて考え事をしていたアディーナにはその姿は見えていなかったのだった。
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