10 / 12
聞かれたくない過去
しおりを挟む
アディーナは、ジルベスターに勧められるまま次々と食事を口にした。
確かにジルベスターが言うようにどれも美味しかったが、アディーナはさっきのアンネローゼの事が気になっていた。
ジルベスターに話すべきか迷っている。
最後にデザートが出てきた所で、私服姿の騎士が次々に店を出て行った。
休憩時間が終わったのだろうか。
──カランッカランッ
来店を知らせるベルが鳴ると、今度は年若い令嬢が数人入ってきた。
前日がダンスパーティーの翌日、ゆっくりと過ごしたかったのだろう。彼女たちは少し遅めのランチを楽しみながら噂話に花を咲かせていた。
「ねえ、あの話聞いた?」
「何の事?」
「ほら、昨日、例の転入生たちよ」
「それが…」
「実はね。シュポール伯爵令息の婚約者のマリーナ様から聞いたのだけれど、今日シャルロット様からお茶会に招待されたそうよ」
「まあ、羨ましいわ」
「でも、他にもアマンダ様もいるって言っていたから、きっとあの転入生の事なんじゃないかしら」
「じゃあ、アディーナ様は?」
「呼ばれていないんじゃないの?ほらあちらに居るから」
令嬢の一人がカウンターを指さして答えた。
「だって、私見たのよ」
「何を?」
「アディーナ様のコサージュをカイン様が断った所を…」
「えっ、それじゃあ本当にあの二人別れたの」
「そうみたい。でも振られた翌日に他の男性と一緒にダンスパーティーに参加するなんて、実はカイン様と付き合っていた時からジルベスター様ともお付き合いをしていたのかも」
「うそ!なら二股ってこと?」
「信じられない」
「誰からそんな話を聞いたのよ。貴女の勝手な想像だったら口にしない方がいいわよ。相手は侯爵令嬢よ」
「確かに身分は向こうが格上かもしれないけれど。直接当事者に聞いたのよ。あのアンネローゼに、彼女が言うには、カイン様はずっとアディーナ様と上手くいっていなくて、相談を受けていたんですって、そのうちアンネローゼと愛し合う様になって、カイン様が別れを切り出したの」
「何の相談なの?」
「なんでもアディーナ様が浮気をしているんじゃないかと疑っていたそうよ」
「でも、学園ではそんな様子はなかったでしょう。どちらかといえば、カイン様がアディーナ様を蔑にしていたような…」
「それは演技だそうよ。浮気しているアディーナ様と円満に別れられる様にって」
「でも、アンネローゼって子、第二王子殿下にも纏わりついていたじゃない」
「そうね。何かありそうね。だとしてもアディーナ様とカイン様が破局した事だけは確かよ」
「まあ、それなら私にもチャンスはあるんじゃない」
「そうよね。侯爵家の次男で第二王子殿下の側近候補。おまけに学園の5本の指に入る程の容姿を備えていらっしゃる。相手はよりどりみどりよ。ピンクの子豚さんには勿体ないわ」
「なあに、その呼び方」
「知らないの。アディーナ様って昔…」
ひそひそと囁きながら、アディーナの方をちらりと見て嗤っている。
アディーナには見覚えがあった。
彼女はデビュタントで、アディーナを『ピンクの子豚』と揶揄った一人であることに気付いた。
同じ学年でも、アディーナは経営科、淑女科の彼女達とは顔を会すことはあまりなかったから、今の今まで忘れていたのだ。
アディーナの顔色は見る見る青褪めていった。隣にいるジルベスターに聞かれたくない過去の苦い思い出。
唯一、カインだけはそんなアディーナを受け入れてくれた。
アンネローゼから聞いたという偽りの噂話を面白おかしく話している令嬢。
マリア・クラレンス子爵令嬢。
動揺して震えているアディーナの頭をポンポンと軽く叩くと、ジルベスターは席を立ってマリアたちの方に歩いて行った。
「何だか面白そうな話をしているね。俺も混ぜてくれないかな」
ジルベスターの微笑みにマリア達が頬を染めているが、ジルベスターの目は少しも笑っていなかった。
「さっきの話だけど、破局した傷心のアディーナに付け込んで交際を申し込んだのは俺だよ。それに彼女の身の潔白は誰よりも俺が知っている。ずっと見ていたからね。学科や校舎が違うのに根拠のない噂を口にすればどうなるか。君達だって分かっているだろう」
「でも、わたしは直接聞いたわ」
「そりゃ、不貞を働いた本人からすれば相手を悪者に仕立て上げようとするだろう。自分を正当化するためにな。あんなまともでない女のいう事を真に受けるなんて、随分と浅はかなんだな」
「そんなつもりは…」
マリアとその友人らは、顔色を悪くした。
確かにジルベスターが言うようにどれも美味しかったが、アディーナはさっきのアンネローゼの事が気になっていた。
ジルベスターに話すべきか迷っている。
最後にデザートが出てきた所で、私服姿の騎士が次々に店を出て行った。
休憩時間が終わったのだろうか。
──カランッカランッ
来店を知らせるベルが鳴ると、今度は年若い令嬢が数人入ってきた。
前日がダンスパーティーの翌日、ゆっくりと過ごしたかったのだろう。彼女たちは少し遅めのランチを楽しみながら噂話に花を咲かせていた。
「ねえ、あの話聞いた?」
「何の事?」
「ほら、昨日、例の転入生たちよ」
「それが…」
「実はね。シュポール伯爵令息の婚約者のマリーナ様から聞いたのだけれど、今日シャルロット様からお茶会に招待されたそうよ」
「まあ、羨ましいわ」
「でも、他にもアマンダ様もいるって言っていたから、きっとあの転入生の事なんじゃないかしら」
「じゃあ、アディーナ様は?」
「呼ばれていないんじゃないの?ほらあちらに居るから」
令嬢の一人がカウンターを指さして答えた。
「だって、私見たのよ」
「何を?」
「アディーナ様のコサージュをカイン様が断った所を…」
「えっ、それじゃあ本当にあの二人別れたの」
「そうみたい。でも振られた翌日に他の男性と一緒にダンスパーティーに参加するなんて、実はカイン様と付き合っていた時からジルベスター様ともお付き合いをしていたのかも」
「うそ!なら二股ってこと?」
「信じられない」
「誰からそんな話を聞いたのよ。貴女の勝手な想像だったら口にしない方がいいわよ。相手は侯爵令嬢よ」
「確かに身分は向こうが格上かもしれないけれど。直接当事者に聞いたのよ。あのアンネローゼに、彼女が言うには、カイン様はずっとアディーナ様と上手くいっていなくて、相談を受けていたんですって、そのうちアンネローゼと愛し合う様になって、カイン様が別れを切り出したの」
「何の相談なの?」
「なんでもアディーナ様が浮気をしているんじゃないかと疑っていたそうよ」
「でも、学園ではそんな様子はなかったでしょう。どちらかといえば、カイン様がアディーナ様を蔑にしていたような…」
「それは演技だそうよ。浮気しているアディーナ様と円満に別れられる様にって」
「でも、アンネローゼって子、第二王子殿下にも纏わりついていたじゃない」
「そうね。何かありそうね。だとしてもアディーナ様とカイン様が破局した事だけは確かよ」
「まあ、それなら私にもチャンスはあるんじゃない」
「そうよね。侯爵家の次男で第二王子殿下の側近候補。おまけに学園の5本の指に入る程の容姿を備えていらっしゃる。相手はよりどりみどりよ。ピンクの子豚さんには勿体ないわ」
「なあに、その呼び方」
「知らないの。アディーナ様って昔…」
ひそひそと囁きながら、アディーナの方をちらりと見て嗤っている。
アディーナには見覚えがあった。
彼女はデビュタントで、アディーナを『ピンクの子豚』と揶揄った一人であることに気付いた。
同じ学年でも、アディーナは経営科、淑女科の彼女達とは顔を会すことはあまりなかったから、今の今まで忘れていたのだ。
アディーナの顔色は見る見る青褪めていった。隣にいるジルベスターに聞かれたくない過去の苦い思い出。
唯一、カインだけはそんなアディーナを受け入れてくれた。
アンネローゼから聞いたという偽りの噂話を面白おかしく話している令嬢。
マリア・クラレンス子爵令嬢。
動揺して震えているアディーナの頭をポンポンと軽く叩くと、ジルベスターは席を立ってマリアたちの方に歩いて行った。
「何だか面白そうな話をしているね。俺も混ぜてくれないかな」
ジルベスターの微笑みにマリア達が頬を染めているが、ジルベスターの目は少しも笑っていなかった。
「さっきの話だけど、破局した傷心のアディーナに付け込んで交際を申し込んだのは俺だよ。それに彼女の身の潔白は誰よりも俺が知っている。ずっと見ていたからね。学科や校舎が違うのに根拠のない噂を口にすればどうなるか。君達だって分かっているだろう」
「でも、わたしは直接聞いたわ」
「そりゃ、不貞を働いた本人からすれば相手を悪者に仕立て上げようとするだろう。自分を正当化するためにな。あんなまともでない女のいう事を真に受けるなんて、随分と浅はかなんだな」
「そんなつもりは…」
マリアとその友人らは、顔色を悪くした。
48
あなたにおすすめの小説
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる