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3.帰路
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「そろそろ夜ね。帰るなら帰っていいわよ。」
突然そう言われて、鎖がパキンと音を立てて壊れた。
「…いいのか? じゃあなんで一度は止めたんだ?」
「あの時はまだ日が出てたからよ。目の前の子を見殺しにする程、私は外道じゃないのよ。」
半殺しにした者とは思えない台詞だ。
「本当に帰っていいんだな?」
「口説いわね。帰りたくないのなら別にいいのよ。」
そう急かされて、僕は刃折れの剣を持って洞窟内の部屋を飛び出した。
今なら自決出来そうだが…、あの時は気が動転してて正直どうかしてたと思う。
確かに吸血鬼は嫌だが、死ぬのはもっと嫌なんだ。
前向きにはなれないが、これ以上後ろを向く必要も無い。
それに、もしかしたら教会で人間に戻る方法があるかもしれない。大金を要求されそうではあるし、淡い期待かもしれないが、そこにも行ってみよう。
そういや、ステータスってまだ見れるのかな…。
「ステータス」
…何も出ないな。いつもだったら出るんだけど、吸血鬼になったこととなにか関係してるのかな?
「キィイイイ!!」
向かう先から、魔物の鳴き声がした。それに微かにキンキンと金属音を聞こえる。
誰か戦ってるのか…。今の僕の姿は吸血鬼だ。見つかったら戦闘になるし、出来れば人とは戦いたくない。
パキンッ、と何かが砕けたような音がした。その後に「助けて」と言う声も聞こえる。
その瞬間、身体が動いていた。
すぐさま音の鳴るほうへと駆け抜ける。
そこには、虫型の魔物が二匹と冒険者が二人。
瞬時に抜刀し、二つの虫型の頭を一太刀で切り落とした。
「大丈夫…?」
二人はガクガクと震える。
「あ、ああ赤髪の化け物だぁ……。」
震え声を置き去りにフラフラと二人は逃げ去った。やはり、この長い犬歯と尖った耳ででバレるのか。
化け物と言われたが、そこはあまり気にしてはいない。そう言った悪口には慣れているのだ。というか、そんな陳腐なことよりも今は別のことが気になっていた。
「全然、疲れないな。」
物凄い速さで駆け抜けたと言うのに、全く息を切らしていないのだ。
夜が開ける前に、さっさと家へと帰ろう。きっと叔父や叔母も心配してる。
◇□◇□◇□◇
そのまま、何事も無くダンジョンを抜ける事が出来た。
出入口は施設化されて人が集まりやすいのだが、夜は意外と人が少なくて助かった。
それに、拾い物のフードを被っている。そもそも吸血鬼の形は人に近いのだ。よく見ない限りは魔物と見抜かれる事は無いだろう。
そして、そのまま今は家の前まで目立たないように歩いた。
ここの周りに他の家は無い、赤髪ということで少し離されているのだ。家の中から灯りが漏れている。きっと、叔父と叔母がすぐそこに居るのだろう。
しかし、なかなか扉を開けなかった。
もし、そこらの僕と無縁の人になら、魔物と罵られた所で痛くも痒くもない。だが、この扉の向こうに居る人達に今の僕を否定されたら、多分二度と立ち直れない…。
いや、グズグズしてても仕方ない。開けよう。
「ただいま…。」
返事は無かった。
そして、扉を開けた瞬間気が付いた…。
本能的なもので嗅ぎ分けられるようになったのか定かではないが、血の匂いがした。
…って、ただの料理に決まってるよな。全く、きっと考え過ぎだ。
「叔母さん…? 居るの? 居たら返事をしてよ。」
返事は無い。
…嫌な予感がして来た。
壁一枚、この先にリビングがある。少し顔を左にずらせば何があるのかが一目で分かる。だからこそ、その何かを見るのが怖かった。
少しずつ、少しずつゆっくりとリビングを覗いてゆき、部屋の様子が左から段々と見えてくる。
いつも通り何も置かれていない棚。
叔父さんのお気に入りの揺り椅子。
三人で使うには少し大きな食卓。
そして血溜まりの中に倒れた叔母さんが。
「叔母さんッ!」
一目散に駆け寄ろうとした。
その時、背後から何者かに刺された。
突然そう言われて、鎖がパキンと音を立てて壊れた。
「…いいのか? じゃあなんで一度は止めたんだ?」
「あの時はまだ日が出てたからよ。目の前の子を見殺しにする程、私は外道じゃないのよ。」
半殺しにした者とは思えない台詞だ。
「本当に帰っていいんだな?」
「口説いわね。帰りたくないのなら別にいいのよ。」
そう急かされて、僕は刃折れの剣を持って洞窟内の部屋を飛び出した。
今なら自決出来そうだが…、あの時は気が動転してて正直どうかしてたと思う。
確かに吸血鬼は嫌だが、死ぬのはもっと嫌なんだ。
前向きにはなれないが、これ以上後ろを向く必要も無い。
それに、もしかしたら教会で人間に戻る方法があるかもしれない。大金を要求されそうではあるし、淡い期待かもしれないが、そこにも行ってみよう。
そういや、ステータスってまだ見れるのかな…。
「ステータス」
…何も出ないな。いつもだったら出るんだけど、吸血鬼になったこととなにか関係してるのかな?
「キィイイイ!!」
向かう先から、魔物の鳴き声がした。それに微かにキンキンと金属音を聞こえる。
誰か戦ってるのか…。今の僕の姿は吸血鬼だ。見つかったら戦闘になるし、出来れば人とは戦いたくない。
パキンッ、と何かが砕けたような音がした。その後に「助けて」と言う声も聞こえる。
その瞬間、身体が動いていた。
すぐさま音の鳴るほうへと駆け抜ける。
そこには、虫型の魔物が二匹と冒険者が二人。
瞬時に抜刀し、二つの虫型の頭を一太刀で切り落とした。
「大丈夫…?」
二人はガクガクと震える。
「あ、ああ赤髪の化け物だぁ……。」
震え声を置き去りにフラフラと二人は逃げ去った。やはり、この長い犬歯と尖った耳ででバレるのか。
化け物と言われたが、そこはあまり気にしてはいない。そう言った悪口には慣れているのだ。というか、そんな陳腐なことよりも今は別のことが気になっていた。
「全然、疲れないな。」
物凄い速さで駆け抜けたと言うのに、全く息を切らしていないのだ。
夜が開ける前に、さっさと家へと帰ろう。きっと叔父や叔母も心配してる。
◇□◇□◇□◇
そのまま、何事も無くダンジョンを抜ける事が出来た。
出入口は施設化されて人が集まりやすいのだが、夜は意外と人が少なくて助かった。
それに、拾い物のフードを被っている。そもそも吸血鬼の形は人に近いのだ。よく見ない限りは魔物と見抜かれる事は無いだろう。
そして、そのまま今は家の前まで目立たないように歩いた。
ここの周りに他の家は無い、赤髪ということで少し離されているのだ。家の中から灯りが漏れている。きっと、叔父と叔母がすぐそこに居るのだろう。
しかし、なかなか扉を開けなかった。
もし、そこらの僕と無縁の人になら、魔物と罵られた所で痛くも痒くもない。だが、この扉の向こうに居る人達に今の僕を否定されたら、多分二度と立ち直れない…。
いや、グズグズしてても仕方ない。開けよう。
「ただいま…。」
返事は無かった。
そして、扉を開けた瞬間気が付いた…。
本能的なもので嗅ぎ分けられるようになったのか定かではないが、血の匂いがした。
…って、ただの料理に決まってるよな。全く、きっと考え過ぎだ。
「叔母さん…? 居るの? 居たら返事をしてよ。」
返事は無い。
…嫌な予感がして来た。
壁一枚、この先にリビングがある。少し顔を左にずらせば何があるのかが一目で分かる。だからこそ、その何かを見るのが怖かった。
少しずつ、少しずつゆっくりとリビングを覗いてゆき、部屋の様子が左から段々と見えてくる。
いつも通り何も置かれていない棚。
叔父さんのお気に入りの揺り椅子。
三人で使うには少し大きな食卓。
そして血溜まりの中に倒れた叔母さんが。
「叔母さんッ!」
一目散に駆け寄ろうとした。
その時、背後から何者かに刺された。
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