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4.帰るべき場所

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 また昔の記憶を思い出した。
 懐かしい、叔母さんとの思い出だ。

「ねえ叔母さん。僕のお母さんはどこにいるの?」

「…遠くへ行ってしまったのよ。」

「僕を置いて?」

 この頃の僕には分からなかったけど、多分死んだって事なんだろう。

「大きくなったら勇者アルマ様みたいに強くなりたい!」

「そうねぇ。カリムはきっと強くなれるわよ。」

 『勇者アルマ・シーリス伝』この本を読んで、昔から僕は勇者に憧れていた。というか僕だけじゃなく子供の頃は皆憧れてたと思う。そういう存在なのだ。

 だからこそ驚いたんだ。初めて自分のステータスを見たあの時…。


◇□◇□◇□◇


 刺された背中が焼けるみたいに熱い。

「…。」

 僕の背後には不気味な黒装束の男が立っていた。おそらくこいつが僕と叔母さんの事を刺したのだろう。

 しかし何故か致命傷を受けても尚、不思議と死の恐怖は感じない。逆にこの程度では死なないとさえ感じる。
 傷が瞬く間に完治する。

「待てよお前ッ!」

 そう叫ぶが、黒装束の男はそのまま走り去った。

 僕も慌てて追いかける。
 が、玄関先で偶然にも叔父さんと鉢合わせた。

「カリム…か? いや違う、誰だッ!」

「叔父さん…僕だよ。」

 あの言葉だけは止めてくれ。

「なんなんだ…、その血は。まさか…、ベラ叔母を殺したのか…?」

「ち、違うんだ。叔母さんを殺したのは僕じゃなくて、黒装束の──」

「あっち行け! この化け物めッ!」

「い、いや。本当に違うんだ…。殺してない。僕は…。」

 手元に置いてあった薪割り用の斧で斬りかかってきた。
 今まで信頼していた育ての親が、僕に明確な殺意をぶつけてきた。

 僕はどうする事も出来ず、泣きながら走って逃げる事しか出来なかった。

「リリスなら…、きっと…。」

 他に心当たりのある場もなく、千鳥足で冒険者ギルドへと辿り着き、そして中を覗く。
 居た。リリスだ。

 …は? ……なんで…、なんで、あの黒装束も居るんだ…?

 いや、冷静になれ。なにかの勘違いに決まってる…。バレないようにこっそりと近付いて、会話を盗み聞きしよう。

「で、そっちは依頼こなせたの?」

 リリスの声だ。

「いや、ジジイがまだ残ってる。」

 分からないが、多分黒装束の声だ。

「依頼主は全員殺せって言ってたでしょ?」

 依頼主…、まさか、またあいつが…。

「すまない。ただ、急所を刺しても死なない奴が乱入して来てな。身の危険を感じて撤退したんだ。」

「知らないわよ。こっちは二週間もあのキモイのと絡んで、違和感無く殺す計画建てたのに、なんであんたは無計画でしかも失敗なわけ?」

 ……え。いや、え…?

「いや、その乱入者なんだが、ターゲットの事を叔母さんと言っていたんだ。お前、ちゃんと殺したのか?」

「見殺しにしたわよ。強い吸血鬼が出るって場所に置いてって、不幸な事故になるようにね。」

 まぁ…そうだよな…。こんな赤髪に、そんな幸運な急展開がある訳無かったんだな…。

「誰だッ! ッ…魔物?!」

「ちょ、何であんた生きて──」

 この至近距離、虫よりも簡単だったな。
 二人の首が宙に跳ねた。
 遅れて血飛沫も飛び散り、二人だった物の顔から下は力が抜けて崩れ落ちた。

「君! 何を…って魔物ッ!」

 …さっさと逃げるか。
 吸血鬼だからか夜目が利く。
 山道を挟めば確実に撒ける。
 でも、どこに逃げればいいんだ…。

 もう何処にも居場所が無い…。
 帰る場所が無い…。
 生きる意味をもう見い出せない。
 かと言って死ぬ勇気もない。
 どうすれば良いんだ…。

 山の中で一人縮こまっていると、無機質で冷たい声が聞こえて来た。

「ちゃんと家には帰れたのかしら?」 

「…丁度、人間に戻る理由と帰る場所を無くした所だ。」

 その目の前の吸血鬼は無表情のまま、僕の手を引いてこう言った。

「なら、着いて来なさい。帰る場所くらいなら用意してあげられるわ。」

「余計なお世話だな。そこは僕の帰るべき場所じゃ──」

 口を摘まれた。

「子供の癖に、口答えが好きなのね。」

 子供…? そんな年齢じゃないと思うのだが。
 そうか…、吸血鬼からして見ればまだまだ子供に見えるのか。いや、それ以前に僕は彼女の眷属なのか…。

「このままみっともなく抱えられて帰るか。自分の足でちゃんと歩いて帰るか選びなさい。」

 口が摘まれており、どちらも選べなかった。

「…まあ、いいわ。そのままじっとしてなさい。」

 そうして、そのままダンジョンの中まで抱えられて連行された。
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