前職キャバ嬢、異世界に来たら悪女になっていた。あんまり変わらないのかな?

ミミリン

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ぬくもりを覚えておこう

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部屋に着いて、ベッドにデイビット様をゆっくり寝かせる。


デイビット様は痩せているけど、思ったより重くてバランスを崩してしまった。

私も一緒にベッドに転がり入ってしまった。

「ご、ごめんなさい。すぐどきますから。」

「いや、いいよ。君も疲れただろう?君が嫌でなければしばらくこうやっていよう。」

「い、良いんですか?」

「ああ、女性に触れるのはずっと違和感があってね。結婚して何とか息子が生まれたから世継ぎの義務から解放されたと思ったんだ。
だから、息子が生まれてからは妻とは一切触れあう事はなかった。
それで愛想を尽かされてしまったよ。
息子が家督を継ぐ年齢まで離縁は出来ないから別居していたんだが、やっと家督を譲って好きに生きようと思ったんだ。そのすぐ後に病が発覚してしまったがな。」デイビット様が心なく苦笑している。


「でも、じゃあこの領地は?」私はデイビット様の傍で横に寝転んだ状態で質問してみた。


「政略結婚だったからね。領地は妻だけでも治められる範囲も多かったから手放したよ。
けど、この領地だけは妻の管轄外だった。
戦場にもなる地形だったし所有者をあいまいにしておくとすぐ誰かに乱されて奪われやすい土地だから、ここだけは僕が継続して領主になっているんだよ。」

「そうだったんですね。」

「すごく思い入れのある土地だから息子に任せるのは心配だったんだ。エレノアが継いでくれたらどれだけ心強いか…。」

「デイビット様、私…デイビット様みたいに土地を治めるなんて出来ません。買いかぶりすぎです。」

そう、ちょっとそろばんがはじけて、おもてなし上手なだけの女だもの。


「ははは。当の本人がそう言うか…。エレノア、君は自分が思う以上に人を惹きつけて導くことが出来る素晴らしい人間だ。」

デイビット様が横で添い寝している私の頬を優しくなでる。


「すまない…。僕は最後に欲が出てしまったようだ。エレノア、僕の最後のわがままを聞いてくれるかい?」


「?わがままですか?デイビット様のわがままなら何でもどうぞ。」

私の頬を撫でているデイビット様の手にそっと触れる。大きくて暖かい手…。

「本当かい?ああ、良かった。これで安心して眠れるよ…。ありがとう、エレノア…。」

そう言ってデイビット様は目を閉じて寝てしまった。

かなり疲れてたみたい。

わがままって何なんだろう?屋敷に戻ったら教えてくれるかな?

しばらく私はデイビット様の寝顔を眺めてデイビット様の体温を感じた。


この優しいぬくもりをちゃんと覚えておこう。






次の日の朝は雨だった。

ちょうど休みだと言っていたので私たちは同じ室内でまったりと過ごした。


暇があれば手話の記録をつけておこうとせっせと紙に書きこんでいた。


それをデイビット様が見て不思議そうに見ている。

「エレノア、これは何だい?手の動きや意味が書いてあるけど、魔法の術式を考えているのかな?」

「いえいえ、これは手話と言って前世で耳が聞こえない人と会話をする方法です。使わないと忘れちゃいそうだからこうやって時間があるときに書き出してるんです。」

「ほう、この世界でも耳が聞こえない人間はいるが、このような方法は確立されていないな。
いつかこの手話と言うものが広まれば救われる人がいるのではないか?」

「どうでしょうか?まだ分かりませんが、出来ることはしておこうと思います。」


「…今までちゃんと聞いたことがなかったが、エレノアが良ければ君の前世を聞いても良いかい?」

「え?そんな面白い内容はないですよ?」


「良いんだ。せっかく今日エレノアとゆっくりすごせる時間が出来たんだ。ぜひ聞かせてほしいな。」


「そ、そうですか?ちょっと恥ずかしいけど…じゃあ、お伝えしますね。」

私はペンを置いて少し姿勢を正した。

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