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きっかけ 4
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試験の前に数回会うことができ、その度にストールを交換した。会えるといっても予備校に行く前の本当に短時間なのだがそれでも嬉しい。
光流は時間を無駄に使ってしまっているのではないかと心配したけれど〈予備校の前にモチベーション上げに来た〉と言うと嬉しそうに微笑んでくれた。
「光流を補充させて」
帰宅時にはそう言って光流を抱きしめる。本当に短時間しか居られないため俺の冷え切った身体のせいで光流が風邪を引かないか心配になるが、そう言うと〈ずっと暖房の中だからちょうど良い〉と言って笑う。
その時、光流に不思議な事を言われた。
「護君、フレグランス変えた?」
「フレグランス?」
「クリスマスに会った時も思ったんだけど檜みたいな、ウッディ系の香りがする」
言いながら身体を離し、俺が渡したストールを抱きしめる。
「俺は、フレグランスは使ってない。光流こそストールに何か香りをつけてる?バニラみたいな甘い香りがする」
俺はそう言って光流が渡したストールを香ってみせる。微かに香る甘い、バニラのような香り。香りまで愛おしく思ってしまう、その気持ちが少しでも伝われば良いのに。
「僕はたまに使うことはあるけどバニラ系は使ってないよ。なんだろう、お菓子の食べ過ぎ?」
確かにここの家政婦の作るお菓子は絶品だけど、そんなことはないだろう。
真面目に心配する姿がおかしいが、その時に気づいた。
「お菓子の食べ過ぎってことはないだろうけど、向井さんのお菓子ならあり得るかもな。今年はバレンタインにお邪魔できないのが残念だ」
そう言ってカレンダーを確認する。辻崎家のバレンタインは毎年向井さんのスイーツでスイーツバイキングをれ楽しむのが恒例で、もちろん俺も毎回参加している。スイーツバイキングと言っても食べるのは主に光流と光流の母なので量より質。向井さんは数日かけて何種類ものプチドルチェを用意してくれるらしい。
受験ももう大詰めで、流石にしばらくは来れなくなるとさっき告げたのだった。
「メッセージするね」
「俺も」
「無理に返さなくても既読つけてくれれば大丈夫だから」
「メッセージくらいできるよ」
気を使う光流に苦笑いしてしまう。
「本当は毎日光流を補充したいけど、それが出来るようになるための準備期間だと思って頑張るよ」
そう言って頬に手を添える。
「試験、頑張るから」
誓うように囁き唇を重ねる。
今までで1番長い口付け。
はじめは触れるだけだったキスも、最近では随分長いものになっていた。
唇を合わせ、その感触を楽しんから光流の下唇をノックする。口を開くのを待ち、おずおずと唇を開いたら歯列をなぞり、その小さな舌を絡め取る。
うまく返すことのできない辿々しさが愛おしい。
幸せな時間が続くが、光流の息が続かなくなるのを見計らい先を求めたくなる気持ちを抑え込み身体を離す。
名残惜しい気持ちとは裏腹に、〈しっかり補充できた〉と最後にもう1度軽いキスを唇の落とし岐路につく。
帰りに光流が巻いてくれたストールが俺の気持ちまでも優しく包み込んでくれていた。
全てが順調だと思っていたこの頃。
この時に戻る事ができるのならば何を失ってもいい。
そんな風に思う日が来るなんて思いもしなかったこの頃。
毎日が充実していた。
光流のことを想い、光流のために努力して、光流との未来のために目標に向かう日々は充実していた。
会えない日にも短いメッセージを交わし、心を確かめ合った。
その結果、俺は無事に志望校に合格した。
試験が全て終わった後に光流の顔を顔見に行ったけれど、合格の発表があるまでは落ち着かず、メッセージだけのやり取りが続きゆっくり会えたのは合格発表の翌日だった。
途中卒業式も挟んだがうちの学校は1年生は出席できないため光流は来る事ができず、夜は静流の卒業祝いで外食。それは俺の家も同じだったので仕方がない。静流経由でブレザーのボタンを届けてもらったら、お祝いとお礼を兼ねて電話をしたきてくれたのが嬉しかった。
光流は人の都合を異常に気にするためメッセージの方が気楽だと言って電話をかけてくることはほとんど無いのだ。
その理由は俺にあったのだけど、その時に誤解を解いていれば違う未来があったのかもしれないけれど、その時の俺は全く気付いておらず、本心では電話をしてくれない事に不満を抱いていた。
かと言って光流の事情を聞いているのにこちらから電話をかけるのも躊躇われる。
合否も本当なら電話で伝えたかったけれど、光流が授業中だった事もあり〈おめでとう〉とメッセージを待つしかなかった。
放課後にやっときたメッセージに〈今日は合格祝いで食事に行くって言われたから、明日会いに行く〉と送り、翌日には久しぶりに光流に会いに行った。
俺が行くのを向井さんに伝えてくれていたようで〈お祝いです〉と言って俺の好きなケーキを用意してくれてあったのには驚いたが、素直に嬉しかった。
〈受け入れられている〉向井さんの対応ひとつ見ても、その扱いは準家族だ。
俺は何故、それで満足できなかったのだろう?
光流は時間を無駄に使ってしまっているのではないかと心配したけれど〈予備校の前にモチベーション上げに来た〉と言うと嬉しそうに微笑んでくれた。
「光流を補充させて」
帰宅時にはそう言って光流を抱きしめる。本当に短時間しか居られないため俺の冷え切った身体のせいで光流が風邪を引かないか心配になるが、そう言うと〈ずっと暖房の中だからちょうど良い〉と言って笑う。
その時、光流に不思議な事を言われた。
「護君、フレグランス変えた?」
「フレグランス?」
「クリスマスに会った時も思ったんだけど檜みたいな、ウッディ系の香りがする」
言いながら身体を離し、俺が渡したストールを抱きしめる。
「俺は、フレグランスは使ってない。光流こそストールに何か香りをつけてる?バニラみたいな甘い香りがする」
俺はそう言って光流が渡したストールを香ってみせる。微かに香る甘い、バニラのような香り。香りまで愛おしく思ってしまう、その気持ちが少しでも伝われば良いのに。
「僕はたまに使うことはあるけどバニラ系は使ってないよ。なんだろう、お菓子の食べ過ぎ?」
確かにここの家政婦の作るお菓子は絶品だけど、そんなことはないだろう。
真面目に心配する姿がおかしいが、その時に気づいた。
「お菓子の食べ過ぎってことはないだろうけど、向井さんのお菓子ならあり得るかもな。今年はバレンタインにお邪魔できないのが残念だ」
そう言ってカレンダーを確認する。辻崎家のバレンタインは毎年向井さんのスイーツでスイーツバイキングをれ楽しむのが恒例で、もちろん俺も毎回参加している。スイーツバイキングと言っても食べるのは主に光流と光流の母なので量より質。向井さんは数日かけて何種類ものプチドルチェを用意してくれるらしい。
受験ももう大詰めで、流石にしばらくは来れなくなるとさっき告げたのだった。
「メッセージするね」
「俺も」
「無理に返さなくても既読つけてくれれば大丈夫だから」
「メッセージくらいできるよ」
気を使う光流に苦笑いしてしまう。
「本当は毎日光流を補充したいけど、それが出来るようになるための準備期間だと思って頑張るよ」
そう言って頬に手を添える。
「試験、頑張るから」
誓うように囁き唇を重ねる。
今までで1番長い口付け。
はじめは触れるだけだったキスも、最近では随分長いものになっていた。
唇を合わせ、その感触を楽しんから光流の下唇をノックする。口を開くのを待ち、おずおずと唇を開いたら歯列をなぞり、その小さな舌を絡め取る。
うまく返すことのできない辿々しさが愛おしい。
幸せな時間が続くが、光流の息が続かなくなるのを見計らい先を求めたくなる気持ちを抑え込み身体を離す。
名残惜しい気持ちとは裏腹に、〈しっかり補充できた〉と最後にもう1度軽いキスを唇の落とし岐路につく。
帰りに光流が巻いてくれたストールが俺の気持ちまでも優しく包み込んでくれていた。
全てが順調だと思っていたこの頃。
この時に戻る事ができるのならば何を失ってもいい。
そんな風に思う日が来るなんて思いもしなかったこの頃。
毎日が充実していた。
光流のことを想い、光流のために努力して、光流との未来のために目標に向かう日々は充実していた。
会えない日にも短いメッセージを交わし、心を確かめ合った。
その結果、俺は無事に志望校に合格した。
試験が全て終わった後に光流の顔を顔見に行ったけれど、合格の発表があるまでは落ち着かず、メッセージだけのやり取りが続きゆっくり会えたのは合格発表の翌日だった。
途中卒業式も挟んだがうちの学校は1年生は出席できないため光流は来る事ができず、夜は静流の卒業祝いで外食。それは俺の家も同じだったので仕方がない。静流経由でブレザーのボタンを届けてもらったら、お祝いとお礼を兼ねて電話をしたきてくれたのが嬉しかった。
光流は人の都合を異常に気にするためメッセージの方が気楽だと言って電話をかけてくることはほとんど無いのだ。
その理由は俺にあったのだけど、その時に誤解を解いていれば違う未来があったのかもしれないけれど、その時の俺は全く気付いておらず、本心では電話をしてくれない事に不満を抱いていた。
かと言って光流の事情を聞いているのにこちらから電話をかけるのも躊躇われる。
合否も本当なら電話で伝えたかったけれど、光流が授業中だった事もあり〈おめでとう〉とメッセージを待つしかなかった。
放課後にやっときたメッセージに〈今日は合格祝いで食事に行くって言われたから、明日会いに行く〉と送り、翌日には久しぶりに光流に会いに行った。
俺が行くのを向井さんに伝えてくれていたようで〈お祝いです〉と言って俺の好きなケーキを用意してくれてあったのには驚いたが、素直に嬉しかった。
〈受け入れられている〉向井さんの対応ひとつ見ても、その扱いは準家族だ。
俺は何故、それで満足できなかったのだろう?
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