44 / 129
【side:燈哉】あるΩの告白と、あるαの苦悩。
しおりを挟む
あれから欠席することのできない集まりがある度に「じゃあ、明日は伊織と政文と一緒にいるね」と嬉しそうな顔を見せる羽琉に、素直に面白くないと伝えれば何かが違ったのだろうか。
ふたりを引き合わせ、連絡先を交換した時に隆臣が俺を見て何か言いたそうな顔をしたけれど、小さく頷けば「お手数をおかけしますがよろしくお願いします」とふたりに対して頭を下げる。
「友達と一緒に過ごすだけですから」
そんな風に政文が恐縮すれば「羽琉さんにこんなに頼もしいご友人がいたとは知りませんでした」と笑う。
「隆臣、それ酷い」
そう言って羽琉が拗ねて見せるのが面白くなかった。
「それでは、明日はよろしくお願いします」
「お願いします」
翌日の時間を確認して羽琉は車に乗り込む。去り際に窓を開けて手を振る時に俺に対しても微笑みかけた羽琉はこの時、何を考えていたのだろう。
「申し訳ないがよろしく頼む」
笑顔の羽琉を見送り伊織と政文に頭を下げると生徒会の仕事があるからと告げて校舎に戻る。ふたりの何か言いたそうな顔には気付いていたけれど、面と向かって口を開けば感情を抑える事ができなくなりそうで、逃げるように背を向けることしかできなかった。
このことをきっかけに、羽琉とふたりの仲はただの同級生から友人と呼べるほどになっていく。
俺が休む時はもちろん、生徒会の仕事が立て込んでいる時なども伊織や政文を頼るようになった羽琉に対して消化のできない気持ちを抱きながらも、今まで漠然と感じていた負担が少し軽くなったような気がしていた。
そう、羽琉に対して負担を感じるようになったのはいつからだったのだろう?
今の年齢でされたら確実にお見合いだと思えるような顔合わせ。
互いの家庭の事情を考慮して結ばれた縁。
【家格】なんてものを考えたことの無かったあの頃、羽琉のことを頼むと言われたことは単純に嬉しかった。
いつも淋しそうにしているあの子を守るのは、守れるのは自分だと誇らしくも思った。
だけど、結局自分は駒でしかないことに気付いてしまったのは中等部に入り、学級の代表として優秀な先輩たちと接するようになってから。
「仲真のお姫様の子守り、大変だね」
そう言った先輩は男性Ωで、既に番を見据えたパートナーのいる先輩。流石に中等部で番うのは早すぎると言って番ってはいないけれど、先輩の高等部卒業と同時に番関係を結ぶらしい。
「子守りって、」
「だって、あそこの親、お姫様のこと人に任せきりでしょ?
毎日の生活は保護者代わりのあの人、隆臣さんだっけ、あの人任せで校内では燈哉君に任せて親としてはお金出すだけ。
個人懇談だって親は来ないし、番ったらあとは相模の家でってなるよね、きっと」
そんな風に言われてしまい自分の将来に何故だか引っ掛かりを感じる。
羽琉のことは大切だ。
その気持ちに変わりはないし、羽琉のことを守りたいと思う気持ちだって間違いじゃない。
だけど、どこかでこのままでいいのかと考える自分がいることを否定することができない。
もしかしたら自分には羽琉よりも好きになれる相手がいるのではないか。
自分にとっても、羽琉にとっても、もっと相性の良いパートナーがいるのではないか。
幼稚舎の頃に出会った俺たちは、初等部、中等部と進級しても一緒にいる事が当たり前だと思い、両家の、そして学校の思惑のままに同じクラスで番うことを見据えた関係として扱われてきた。
毎年、編入してくる者もいれば転校する者もいるし、先輩や後輩との交流だってある。だけど、よくよく考えれば閉鎖された空間。
羽琉のパートナーとして隣にいることになったのは俺がαとしての片鱗を見せていたことと、羽琉の家、仲真の家よりも相模家の方が家格が下だったせいで、羽琉の隣にと望まれれば断ることができなかったから。
このまま高等部、大学と進級したとしても変わることのない関係。
「先輩はどうやってパートナーを決めたんですか?」
疑問に思い聞いてみる。
先輩も羽琉も同じΩだし、今の段階で番候補がいるのだって同じ。
先輩は今の段階で番うのは早すぎるとと高等部卒業まではこのままの関係を続けると言っているけれど、羽琉との関係を揶揄して【子守り】と称したこととの違いを理解できなかった。
先輩のパートナーだって、側から見れば【子守り】だと言われるのではないかと。
「僕たちは幼馴染だよ。
幼馴染で兄の友人で、僕にとってはお兄ちゃんみたいな関係だった人」
「じゃあ、子供の頃から許嫁だってんですか?」
「違う違う。はじめは僕のことなんて邪魔者扱いだったよ。
年が3つ離れてるから遊びにしても勉強にしても邪魔しかしないし、僕のことなんて眼中にないって言うか。
うち、兄もΩだけど性差がはっきりするまでは普通に友達関係で、αとΩだって診断が出た時にお互いに『無いわ…』って言って友達関係が続いていたんだけど、ふたりがそれで良くても周りがうるさくなったせいで家の行き来が無くなってさ、」
要領を得ない先輩の話を不思議に思いながらも耳を傾ける。
幼い頃からお互いを知っている関係だったようだけど、俺と羽琉とはだいぶ関係性が違うようだ。
「彼が遊びに来なくなって物理的に離れて少しずつ少しずつ変化が現れたんだ。
彼は兄とは学校で会ってるのに何かが足りない気がして、少しずつイライラする事が増えて。同じくらいの時期から僕も情緒不安定になって、って言うのは兄の見立てなんだけど。
中等部の時にはっきりと診断が出て、兄が家に来なくなったのは高等部に入った時かな。ちょうどその時期に僕は中等部に進級したから彼のイライラも、僕の情緒不安定も進級のせいだと思ってたんだ。
いわゆる環境の変化だよね。
だけど環境に慣れるはずの時期になっても落ち着かないし。
たまたまなんだけど、兄が間違えて僕のハンカチを持って行った事があって、その日は不思議と彼がイライラしなくて」
「それで分かったんですか?」
「分かるわけないよね。
そう言えばあの時は、っていう後付け」
「じゃあ、何で?」
「次に気づいたのは兄が彼に借りた本を僕が離さなかったから。
リビングに置きっぱなしになってた本がどうしても気になって、内容なんて分からないのに欲しいってワガママ言って。兄も困って彼に言ったらあげてもいいよって、その代わり僕のものと交換だって言って。
たぶん、ワガママ言えばそれが叶うって思わせたくなくて、それなら僕のおすすめの本と交換しようって言ってくれて、っていうことがあったんだ。
それをしたら彼も僕も情緒が安定して、だけど本が原因だなんて誰も気付かなくて、そんな時に久しぶりに彼が遊びにきた時に僕がヒートを起こしたんだ」
「でも、番ってはないんですよね?」
「無いね。
その日は彼も兄も抑制剤飲んでたから影響受けたのは僕だけ。
だけど咄嗟に僕を隔離して、ドクター呼んで、彼には帰ってもらって、大変だったみたいだよ」
自分は記憶が無いから笑い事だけど、と言ってその後の顛末を教えられる。
それは中等部に入った年のことで、正確な診断の出る前だったせいで抑制剤を服用できなかったこと。兄の抑制剤はもちろんあったけど、それを服用していいかどうかの判断がつかず、ドクターがすぐに来てくれて処置をしてくれたこと。
僕の様子が気になるのに何もできない彼からの連絡が多すぎて先輩の兄がキレたこと。
後日、ドクター立ち会いの元、彼と再会したこと。
ドクターの診断で【運命の番】ではないけれど、相性が良いことが判明したこと。
幼い頃から一緒にいたせいで気付かなかったお互いのフェロモンが、中途半端に離れていたせいで久々の再会で過剰に反応してしまったこと。
「はじめは相性が良いってだけで過剰反応するとか、嫌だったんだよね。
動物みたいでしょ?」
その問いかけに頷くことができず困惑してしまう。肯定も否定もしにくい質問をしたことは先輩だって気付いているのだろう、俺の返事を待つことなく言葉を続ける。
「だけど気付いてしまったら離れられないんだよね、お互いに。
僕に会えなくてイライラする彼と、彼に会えなくて情緒不安定になる僕をみかねてドクター立ち会いの元でもう一度会えるようにしようって親同士の話し合いで決まって、親立ち会いの元話し合い。
色々と経緯はあるんだけど、今はお互いに番候補ってことになってるんだよ」
そう言ったあとで「お互いにもっと惹かれる相手ができたら解消されるんだけどね」と当たり前のように言う。
「それって、怖くないですか?」
「何が?」
「相手や自分に別の人が現れて離れないといけなくなることが、」
「全然。
だって、そんな相手、僕にも彼にもいないから」
自分で言った言葉を自分で否定することに納得できず、もしかしたら呆れた顔をしたのかもしれない。
「離れて環境が変わって、その中でお互いが欲しくておかしくなった僕たちに、他の相手なんていると思う?。
どっちの親も反対はしてないんだよ。
ただ、番関係を結ぶには早すぎるからって。幼馴染だから当然どっちの親も小さい頃から知ってるし、反対なんて全くされてないけど、それでも早いうちに将来を決めすぎるのはどちらにとっても良くないって、心配しすぎだと思うけど、親心なんだろうね、きっと」
そう言った先輩の言葉で自分との環境の違いに気付かされ、自分の置かれた環境にますます疑問を持つようになる。
だけど、今まで培ってきた羽琉への想いをどうすることもできず、伊織や政文に笑顔を見せる姿を見ればその執着は日々増していく。
羽琉は俺が守ると決めたのに。
羽琉を守って欲しいと託されたのは俺だったはずなのに。
そんな風に執着を増していくのに幼い頃から羽琉だけを見ていたことに疑問を抱くようになる。
日陰で膝を抱える羽琉のことが気になって声をかけたのは、本当にαとしての庇護欲だったのか。
ただ単純に、遊びの輪に入ることのない小さい存在に対する好奇心だったのではないか。
たまたま自分がαで、羽琉がΩだったせいでこんな関係になっているけれど、俺がαでなければ、羽琉がΩでなければ【友人】という関係だったのではないか。
考えれば考えるほど分からなくなっていく関係。
それならば羽琉の手を離すことができるのかと自分自身に問い掛ければ家同士の関係ももちろんあるけれど、今まで囲ってきた羽琉を手放すことはできないと結論を出す。
Ωに興味がないと公言する伊織と政文にすら嫉妬してしまうのだから、羽琉を自分以外のαに託すことなんて到底無理な話だろう。
だけど、もしも羽琉に自分よりも惹かれる相手が現れたら。もしも自分に羽琉より惹かれる相手が現れたら。
そんな日が来て欲しくない。
そんな日が来れば良いのに。
相反する気持ちを持ったまま、俺たちはあの日を迎えることになる。
ふたりを引き合わせ、連絡先を交換した時に隆臣が俺を見て何か言いたそうな顔をしたけれど、小さく頷けば「お手数をおかけしますがよろしくお願いします」とふたりに対して頭を下げる。
「友達と一緒に過ごすだけですから」
そんな風に政文が恐縮すれば「羽琉さんにこんなに頼もしいご友人がいたとは知りませんでした」と笑う。
「隆臣、それ酷い」
そう言って羽琉が拗ねて見せるのが面白くなかった。
「それでは、明日はよろしくお願いします」
「お願いします」
翌日の時間を確認して羽琉は車に乗り込む。去り際に窓を開けて手を振る時に俺に対しても微笑みかけた羽琉はこの時、何を考えていたのだろう。
「申し訳ないがよろしく頼む」
笑顔の羽琉を見送り伊織と政文に頭を下げると生徒会の仕事があるからと告げて校舎に戻る。ふたりの何か言いたそうな顔には気付いていたけれど、面と向かって口を開けば感情を抑える事ができなくなりそうで、逃げるように背を向けることしかできなかった。
このことをきっかけに、羽琉とふたりの仲はただの同級生から友人と呼べるほどになっていく。
俺が休む時はもちろん、生徒会の仕事が立て込んでいる時なども伊織や政文を頼るようになった羽琉に対して消化のできない気持ちを抱きながらも、今まで漠然と感じていた負担が少し軽くなったような気がしていた。
そう、羽琉に対して負担を感じるようになったのはいつからだったのだろう?
今の年齢でされたら確実にお見合いだと思えるような顔合わせ。
互いの家庭の事情を考慮して結ばれた縁。
【家格】なんてものを考えたことの無かったあの頃、羽琉のことを頼むと言われたことは単純に嬉しかった。
いつも淋しそうにしているあの子を守るのは、守れるのは自分だと誇らしくも思った。
だけど、結局自分は駒でしかないことに気付いてしまったのは中等部に入り、学級の代表として優秀な先輩たちと接するようになってから。
「仲真のお姫様の子守り、大変だね」
そう言った先輩は男性Ωで、既に番を見据えたパートナーのいる先輩。流石に中等部で番うのは早すぎると言って番ってはいないけれど、先輩の高等部卒業と同時に番関係を結ぶらしい。
「子守りって、」
「だって、あそこの親、お姫様のこと人に任せきりでしょ?
毎日の生活は保護者代わりのあの人、隆臣さんだっけ、あの人任せで校内では燈哉君に任せて親としてはお金出すだけ。
個人懇談だって親は来ないし、番ったらあとは相模の家でってなるよね、きっと」
そんな風に言われてしまい自分の将来に何故だか引っ掛かりを感じる。
羽琉のことは大切だ。
その気持ちに変わりはないし、羽琉のことを守りたいと思う気持ちだって間違いじゃない。
だけど、どこかでこのままでいいのかと考える自分がいることを否定することができない。
もしかしたら自分には羽琉よりも好きになれる相手がいるのではないか。
自分にとっても、羽琉にとっても、もっと相性の良いパートナーがいるのではないか。
幼稚舎の頃に出会った俺たちは、初等部、中等部と進級しても一緒にいる事が当たり前だと思い、両家の、そして学校の思惑のままに同じクラスで番うことを見据えた関係として扱われてきた。
毎年、編入してくる者もいれば転校する者もいるし、先輩や後輩との交流だってある。だけど、よくよく考えれば閉鎖された空間。
羽琉のパートナーとして隣にいることになったのは俺がαとしての片鱗を見せていたことと、羽琉の家、仲真の家よりも相模家の方が家格が下だったせいで、羽琉の隣にと望まれれば断ることができなかったから。
このまま高等部、大学と進級したとしても変わることのない関係。
「先輩はどうやってパートナーを決めたんですか?」
疑問に思い聞いてみる。
先輩も羽琉も同じΩだし、今の段階で番候補がいるのだって同じ。
先輩は今の段階で番うのは早すぎるとと高等部卒業まではこのままの関係を続けると言っているけれど、羽琉との関係を揶揄して【子守り】と称したこととの違いを理解できなかった。
先輩のパートナーだって、側から見れば【子守り】だと言われるのではないかと。
「僕たちは幼馴染だよ。
幼馴染で兄の友人で、僕にとってはお兄ちゃんみたいな関係だった人」
「じゃあ、子供の頃から許嫁だってんですか?」
「違う違う。はじめは僕のことなんて邪魔者扱いだったよ。
年が3つ離れてるから遊びにしても勉強にしても邪魔しかしないし、僕のことなんて眼中にないって言うか。
うち、兄もΩだけど性差がはっきりするまでは普通に友達関係で、αとΩだって診断が出た時にお互いに『無いわ…』って言って友達関係が続いていたんだけど、ふたりがそれで良くても周りがうるさくなったせいで家の行き来が無くなってさ、」
要領を得ない先輩の話を不思議に思いながらも耳を傾ける。
幼い頃からお互いを知っている関係だったようだけど、俺と羽琉とはだいぶ関係性が違うようだ。
「彼が遊びに来なくなって物理的に離れて少しずつ少しずつ変化が現れたんだ。
彼は兄とは学校で会ってるのに何かが足りない気がして、少しずつイライラする事が増えて。同じくらいの時期から僕も情緒不安定になって、って言うのは兄の見立てなんだけど。
中等部の時にはっきりと診断が出て、兄が家に来なくなったのは高等部に入った時かな。ちょうどその時期に僕は中等部に進級したから彼のイライラも、僕の情緒不安定も進級のせいだと思ってたんだ。
いわゆる環境の変化だよね。
だけど環境に慣れるはずの時期になっても落ち着かないし。
たまたまなんだけど、兄が間違えて僕のハンカチを持って行った事があって、その日は不思議と彼がイライラしなくて」
「それで分かったんですか?」
「分かるわけないよね。
そう言えばあの時は、っていう後付け」
「じゃあ、何で?」
「次に気づいたのは兄が彼に借りた本を僕が離さなかったから。
リビングに置きっぱなしになってた本がどうしても気になって、内容なんて分からないのに欲しいってワガママ言って。兄も困って彼に言ったらあげてもいいよって、その代わり僕のものと交換だって言って。
たぶん、ワガママ言えばそれが叶うって思わせたくなくて、それなら僕のおすすめの本と交換しようって言ってくれて、っていうことがあったんだ。
それをしたら彼も僕も情緒が安定して、だけど本が原因だなんて誰も気付かなくて、そんな時に久しぶりに彼が遊びにきた時に僕がヒートを起こしたんだ」
「でも、番ってはないんですよね?」
「無いね。
その日は彼も兄も抑制剤飲んでたから影響受けたのは僕だけ。
だけど咄嗟に僕を隔離して、ドクター呼んで、彼には帰ってもらって、大変だったみたいだよ」
自分は記憶が無いから笑い事だけど、と言ってその後の顛末を教えられる。
それは中等部に入った年のことで、正確な診断の出る前だったせいで抑制剤を服用できなかったこと。兄の抑制剤はもちろんあったけど、それを服用していいかどうかの判断がつかず、ドクターがすぐに来てくれて処置をしてくれたこと。
僕の様子が気になるのに何もできない彼からの連絡が多すぎて先輩の兄がキレたこと。
後日、ドクター立ち会いの元、彼と再会したこと。
ドクターの診断で【運命の番】ではないけれど、相性が良いことが判明したこと。
幼い頃から一緒にいたせいで気付かなかったお互いのフェロモンが、中途半端に離れていたせいで久々の再会で過剰に反応してしまったこと。
「はじめは相性が良いってだけで過剰反応するとか、嫌だったんだよね。
動物みたいでしょ?」
その問いかけに頷くことができず困惑してしまう。肯定も否定もしにくい質問をしたことは先輩だって気付いているのだろう、俺の返事を待つことなく言葉を続ける。
「だけど気付いてしまったら離れられないんだよね、お互いに。
僕に会えなくてイライラする彼と、彼に会えなくて情緒不安定になる僕をみかねてドクター立ち会いの元でもう一度会えるようにしようって親同士の話し合いで決まって、親立ち会いの元話し合い。
色々と経緯はあるんだけど、今はお互いに番候補ってことになってるんだよ」
そう言ったあとで「お互いにもっと惹かれる相手ができたら解消されるんだけどね」と当たり前のように言う。
「それって、怖くないですか?」
「何が?」
「相手や自分に別の人が現れて離れないといけなくなることが、」
「全然。
だって、そんな相手、僕にも彼にもいないから」
自分で言った言葉を自分で否定することに納得できず、もしかしたら呆れた顔をしたのかもしれない。
「離れて環境が変わって、その中でお互いが欲しくておかしくなった僕たちに、他の相手なんていると思う?。
どっちの親も反対はしてないんだよ。
ただ、番関係を結ぶには早すぎるからって。幼馴染だから当然どっちの親も小さい頃から知ってるし、反対なんて全くされてないけど、それでも早いうちに将来を決めすぎるのはどちらにとっても良くないって、心配しすぎだと思うけど、親心なんだろうね、きっと」
そう言った先輩の言葉で自分との環境の違いに気付かされ、自分の置かれた環境にますます疑問を持つようになる。
だけど、今まで培ってきた羽琉への想いをどうすることもできず、伊織や政文に笑顔を見せる姿を見ればその執着は日々増していく。
羽琉は俺が守ると決めたのに。
羽琉を守って欲しいと託されたのは俺だったはずなのに。
そんな風に執着を増していくのに幼い頃から羽琉だけを見ていたことに疑問を抱くようになる。
日陰で膝を抱える羽琉のことが気になって声をかけたのは、本当にαとしての庇護欲だったのか。
ただ単純に、遊びの輪に入ることのない小さい存在に対する好奇心だったのではないか。
たまたま自分がαで、羽琉がΩだったせいでこんな関係になっているけれど、俺がαでなければ、羽琉がΩでなければ【友人】という関係だったのではないか。
考えれば考えるほど分からなくなっていく関係。
それならば羽琉の手を離すことができるのかと自分自身に問い掛ければ家同士の関係ももちろんあるけれど、今まで囲ってきた羽琉を手放すことはできないと結論を出す。
Ωに興味がないと公言する伊織と政文にすら嫉妬してしまうのだから、羽琉を自分以外のαに託すことなんて到底無理な話だろう。
だけど、もしも羽琉に自分よりも惹かれる相手が現れたら。もしも自分に羽琉より惹かれる相手が現れたら。
そんな日が来て欲しくない。
そんな日が来れば良いのに。
相反する気持ちを持ったまま、俺たちはあの日を迎えることになる。
40
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる