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第11話

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 今の状況は最悪だ。
 警察の前で、イマールとエリザがシロだと僕達が証明してしまった。
 でもイマールが毒を盛ったかという問いに、一瞬勝ち誇った笑みを彼は浮かべている。僕らは、どこかで何を間違えた?
 考えろ! このままだと僕らは終わる!

 イマールは、この状況でも冷静でポールアード伯爵家を守っている。エリザを守っている。でもポールアード伯爵の事には触れていない。そっか。毒殺未遂のでっちあげがなければ、僕が危ない奴だと思ったから閉じ込めた。それが通る。
 彼らにしたらちょっとした罪だ。毒殺未遂があった事になれば、悪いのは。そうすべて、クレット家のせいにできる。

 もしかして、最初から毒殺未遂なんてなかったのではないか?
 だったら最初から毒など盛られていない。そもそも彼らは、姉さんを警察に突き出すつもりなどなかった。だったら毒殺未遂事件をでっち上げるのに、毒など使う必要などない。
 内々で処理するなら、父さんがここに連行されたのも納得がいく。何か書類にサインをさせる為だ。
 もちろん、エリザがマコトのオーブで証言したのも嘘。いや、そう聞かされたのは、父さんを捕らえに来た護衛兵からだ。

 よく考えれば、他の令嬢と同じく毒など自分の娘に飲ませるわけがない。毒が出たとかなども護衛兵から聞いた事。最初から僕らは誘導されていたんだ。毒を使われたと。
 もっとよく考えるべきだった。三人の令嬢も被害者なら彼女らから警察へ連絡が行ってもおかしくないのだから。まあ三人ともグルでなければだけど。
 あれ、でも……カードンさんが届け出を出している。誰が話した? 母さんは話してないはずだ。少なくとも完全に疑いが晴れてからでないと、婚約を破棄される恐れがあるからだ。だからこそ、僕らは警察へ助けを求めなかった。

 侯爵家なら警察にコネを持っていてもおかしくない。なのですぐに動いてくれた。シーダーさんがよこした連絡に乗じて、一緒に乗り込んで来たんだ。
 だとしたら三人の令嬢の誰かがレドソン侯爵家に話を漏らした。
 本当に、倒れて病院へ? それとも家に帰った? いや恐らく、一日ぐらいは病院で隔離しているはずだ。個室に入れ厚待遇にすればいい。

 もしそうだとしたらこのままだと、ありもしない事を自分達で作り上げ、自滅した事になる!

 「では、失礼しますよ」
 「待って!」

 出て行こうとするイマールを僕は呼び止めた。

 「往生際が悪いですね。私は、ちゃんと答えましたよ」
 「そうですね。僕からの質問も答えていただけませんか? 先ほどはシーダーさんからの質問です」
 「あなたが? 冒険者とてそんな権限はないと思いますが?」
 「では、これをお使い下さい」

 スッとスカモンレさんが、マコトのオーブを出して来た。持ってきていたのぉ!

 「……ご用意が宜しい事で。本当に参りましたね。一度だけですよ」
 「ありがとうございます」

 イマールが、オーブに手を置いた。

 「今回、毒など使われていませんね!」

 僕はストレートに聞いた。毒は誰も・・盛ってない事を証明させないと! そうすれば、毒殺未遂事件自体なくなる! ただ、今回失敗したとしても、諦めるとは限らないけど。とにかく今は、姉さんを助けないといけない!

 「当たり前です。私どもは毒など盛っておりません」
 「え……」

 オーブは青く光った。確かに毒は使っていないと証明された。でも今の言い方だと、姉さんの嫌疑は晴れない。

 「そんな答え方ってあるか!」

 つい僕は声を荒げた。

 「ですが、彼女達は倒れたのです」

 オーブが青く光る……。そんな彼女達は倒れたの?
 またこっちが質問をしていないのに、勝手に述べてオーブを青く光らせた。なぜか、僕らの方が追い詰められていく。

 「なるほど。言葉選びがお上手だ」

 バシ。
 スカモンレさんが、オーブに手を置くイマールの上に手を置いた。いや、離れないようにしたんだ。

 「私からの質問にも答えてもらおう。いいだろう? 一人一回ずつ」
 「………」
 「リサ嬢を薬で眠らせただろう」

 イマールが承諾しなかったが、スカモンレさんがそう質問した。
 それは、僕も思った事だ。

 「えぇ、お休み頂きました」

 オーブは青く光った。やっぱり飲ませたんだ。

 「手を放して頂いてももう宜しいですか?」
 「なぜそのような事を?」

 手を放しつつスカモンレさんが聞く。

 「彼女が具合を悪そうにしていたので、少し寝た方が宜しいかと」

 嘘だ。彼は、オーブに触れていない。

 「僕なら、毒が盛られたかもしれない現場を見た後に、薬だと言われても飲めませんけど? お茶も然りです」
 「俺からも質問させてもらう。一人一回だろう?」
 「そのような約束はなさっておりませんが……」

 そうだけど、このままだと……あれ、待って。
 毒を使ってないのに他の令嬢は倒れたの? それって、他の令嬢もグルじゃないと、成り立たないじゃないか!

 僕は、イマールの手を取って、オーブに押し付けた。

 「言っておきますが、こんな強制的な方法では、証拠として使えませんよ」
 「別にいいよ。あなたからお聞きするのはこれで最後だから! 他の令嬢も協力者だったのですね!」

 僕の質問に、一瞬驚きを見せたイマールが、クスリと笑う。

 「えぇ。そうです」

 オーブが青く光った。

 「や、やったぁ」
 「な! イマール!」

 驚いたのは、ポールアード伯爵だ。
 答えなければいいものを答えたのだから。

 「協力者だと。では、私の娘を皆で貶めたと言うのか!」
 「ひぃ」

 父さんが、凄い形相でポールアード伯爵に食って掛かった。
 あんな父さんは初めて見た。

 「落ち着いて下さい。クレット男爵」

 慌ててリダルさんが、父さんを押さえつける。今にも殴り掛かりそうだ。

 「あなたが憎いのは、私だろう。それなのに娘にこんな事をするなんて! 他の令嬢だって無理やりやらせたのだろう!」
 「し、知らん! 私は何も知らん!」
 「これは、三人の令嬢にも聞く必要がありますね」
 「では、そのように手配しましょう。今日中の方が宜しいでしょう。彼女達は、この館の治療室におられます」

 スカモンレさんが言うと、驚く事をイマールが言った。

 「イマール! 何勝手な事を!」
 「申し訳ありません、だんな様。ですが、早く解決しなければ、だんな様が何日も警察署にいなくてはいけなくなってしまいます」
 「………」

 イマールの言葉にポールアード伯爵が絶句したのか、彼を見つめるだけで何も言い返さない。
 僕らは、顔を見合わせた。まだ何かあると。
 イマールは、未だに余裕を見せている。彼女達が、協力者だと知れたというのに。
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